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介護報酬改定の施行時期、「4月を維持」すべきか、「診療報酬と合わせ6月施行」とすべきか—社保審・介護給付費分科会(1)

2023.10.12.(木)

介護報酬改定の施行時期について、「介護保険事業(支援)計画との整合性を考慮し、これまでの4月実施を維持」すべきか、それとも「介護事業所・ベンダの負担平準化、利用者の混乱など避けるため、診療報酬改定と合わせて6月に後ろ倒し」すべきか—。

10月11日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった議論が行われました。「4月施行」「6月施行」のいずれにも一長一短があり、「早々の決定」を目指して、さらに議論が深められます。

なお、同日には「2024年度介護報酬改定の基本的な視点」、「2021年度前回改定の効果検証結果(2023年度調査)の速報値報告」も議題に上がっており別稿で報じます。

6月施行には、診療報酬との整合性、現場の負担軽減、利用者の分かりやすさなどの利点

Gem Medでも報じているとおり、2024年度の診療報酬改定から「施行時期を6月に後ろ倒しする」方針が固められています(薬価のみこれまでどおり4月施行、いわゆる「診療報酬改定DX」の一環)。

「診療報酬点数・施設基準の見直しに伴い、改定時期(2月上旬の答申から5月の初回請求頃)には医療機関等やベンダのレセコン等システム改修負担が非常に重くなっている」現状を踏まえ、施行を2か月遅らせ医療機関等やベンダの負担平準化を狙うものです。

診療報酬改定の実施を「6月1日」に後ろ倒しする案を中医協として了解した(中医協総会(1)1 230802)



ところで、2024年度は診療報酬・介護報酬の同時改定が行われるため、「介護報酬についても施行時期を6月に後ろ倒しすべきではないか」との議論があります。一方で、後述するように「6月施行とした場合の問題点」もあります。こうした状況を受け、厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は、介護給付費分科会に「介護報酬改定の施行時期をどう考えるべきか議論してほしい」と要請しました。

まず、「6月施行」(2か月後ろ倒し)とした場合のメリットを見てみると、次のような事項があげられます。

▽介護施設・事業所、ベンダの負担平準化が可能となる
→診療報酬改定・介護報酬改定のいずれにおいても、短期間でサービス内容や事務の変更に対応する必要がある

▽訪問看護や居宅療養管理指導に代表されるように、「診療報酬・介護報酬の両方を請求している事業所」において、改定対応負担の軽減が期待される
→「介護報酬改定を4月、診療報酬改定を6月」とすれば短期間に2度の改定対応が必要となり、負担が重くなる

▽利用者・家族の混乱度合を軽減できる
→要介護者の多くは医療ニーズも抱えており、例えば「高額医薬品等について、給付調整により診療報酬上の手当てがなされる」が、4月改定(介護)・6月改定(医療)と短期間に利用者負担などが変化すれば混乱を招きやすい
→訪問看護では、同一利用者が状態に応じて「医療保険」「介護保険」を行き来することも稀ではなく、4月改定(介護)・6月改定(医療)と短期間に利用者負担などが変化すれば混乱を招きやすい

医療保険・介護保険の給付調整例(社保審・介護給付費分科会(1)3 231011)

医療保険・介護保険の給付調整イメージ(社保審・介護給付費分科会(1)4 231011)

訪問看護の概要(社保審・介護給付費分科会(1)5 231011)

医療・介護の訪問看護利用者イメージ(社保審・介護給付費分科会(1)6 231011)

居宅療養管理指導の概要(社保審・介護給付費分科会(1)7 231011)


6月施行には、介護保険計画とのミスマッチ、物価高騰対応への遅れなどの欠点も

一方、「6月施行」(2か月後ろ倒し)には次のようなデメリットもあります。

▽介護保険事業計画(市町村)・介護保険事業支援計画(都道府県)とのミスマッチが生じる
→例えば第9期介護保険事業(支援)計画は2024年4月から2027年3月を期間として「サービス量」を見込み、保険料を設定する。「介護報酬が6月施行」となれば、「2024年4-5月の報酬」と「2024年6月-2027年3月の報酬」とが混在し、保険料設定などが非常に複雑になってしまう

▽物価・エネルギー費・人件費など高騰への対応が2024年度改定で実施されると見込まれるが、「6月施行」とした場合、その対応が2か月遅れてしまう

また、「介護報酬改定では、診療報酬改定と比較して情報システム関連業務の負担感が小さく、一部のケースを除いて、改定時にベンダ職員が現地で改修ソフトの適用作業を実施することはない」との指摘もあります。

2024年4月から第9期介護保険事業(支援)計画が始まる(社保審・介護給付費分科会(1)2 231011)

医療保険・介護保険の給付調整例(社保審・介護給付費分科会(1)3 231011)



こうしたメリット・デメリットを踏まえた介護給付費分科会でも、「6月施行とすべき」との意見と、「4月施行を維持すべき」との意見が大きく対立しました。

「6月施行」を求めるのは、「医療・介護双方のサービスを提供する」立場の委員が多いようです。例えば、「介護報酬改定でも対応負担が集中する(いわゆるdeath march)状況は変わらない。医療・介護の双方のサービスを提供する事業者、双方のサービスを利用する利用者・患者の負担を考慮すれば、大きな混乱が生じ、負担も大きくなる。また診療報酬・介護報酬の同時改定では医療・介護連携が極めて重視される(例えば、地域の医療機関・介護事業所が参加しての平時からの感染症対応のための訓練など)が、施行時期がずれれば支障が出てしまう。診療報酬は6月施行が決まっており、介護報酬がそれに合わせることが適切である」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)、「介護報酬改定でも3月になってやっと新単位数や新基準の告示・詳細部分の通知が示され、4月1日からそれに対応しなければならず、、施設・事業所やベンダの負担は大きく、現場の混乱状況は想像を絶するものだ。4月・6月と短期間で2度も報酬が変われば、利用者も混乱し、サービスサイドの説明負担も大きくなる。まず『利用者の分かりやすさ』を考慮し、6月施行で統一すべき」(田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事)、「介護報酬改定でも施設・事業所やベンダの対応負担は大きい。現場の負担を考慮し、6月施行とすべきである」(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)、「要介護者の多くは、医療機関外来や訪問診療等も利用している。また訪問看護では、同一患者が医療-介護を状態に応じて利用するケースも少なくない。改定施行時期を考えるうえでは『利用者、家族への分かりやすさ』をまず考えるべきであり、その点では6月施行が適切であろう」(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)、「診療報酬が4月施行、介護報酬が6月施行となれば、患者・利用者説明、短期間に2度のシステム改修など、現場の負担は非常に大きくなる。現場が混乱しないように十分な説明・周知を図ったうえで6月施行に統一すべき」(荻野構一委員:日本薬剤師会常務理事)などの意見が出ています。

一方、自治体(都道府県・市町村)や保険者サイド、介護サービスのみ提供する立場の委員は「4月施行維持」を強く求めています。例えば「物価高騰・エネルギー費高騰などへの対応を一刻も早く実施し、介護施設・事業所の経営安定を図るべきである。4月施行継続が望ましい」(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)、「6月施行となれば、1つの介護保険事業(支援)計画期間に複数の報酬が混在し、サービス量見込みや保険料設定にも大きな影響が出てしまう。自治体サイドの意見を踏まえて慎重に検討し、仮に6月施行とする場合には、保険料設定等の考え方を国が明確に示し、支援すべきである」(自治体代表の参考人)、「介護報酬改定ではベンダ・事業所の負担はそれほど大きくないようだ。介護保険事業(支援)計画との整合性等を踏まえて慎重に検討すべき」(伊藤悦郎委員:健康保険組合連合会常務理事)、「介護報酬改定を遅らせる必要性が見当たらない」(小林司委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)などといった意見が出ています。



「6月施行」「4月施行」それぞれに一長一短があり、またそれぞれを推す声のいずれにも「理」があります。

介護給付費分科会では、さらに議論を深め「6月施行」「4月施行」のいずれとするのか決定します。もっとも、前述のとおり「双方に一長一短があり、双方の論拠に理がある」ため、議論を繰り返しても結論には至らない可能性が高い(平行線に終わる)と考えられます。事業所・ベンダの準備期間等も考慮すれば「施行時期をいずれとするのか」は可能な限り早期に決定する必要があり(診療報酬改定に関しては「8月2日」に方針決定済)、一定の時期に「決断する」ことになりそうです。



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