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GemMed塾0319ミニセミナー

高度急性期病院が「稼働率100%でやっと黒字」という異常事態、データ活用し政策提言・会員病院経営支援を実施へ—全自病・望月会長

2025.3.14.(金)

物価高騰・人件費高騰等により「急性期病院では稼働率が100%程度でなければ赤字に陥ってしまう」という異常事態である。診療報酬が物価・人件費高騰に対応していないことが主因であり、例えば「期中改定」などの対応を求めて行くが、同時に病院サイドも「診療報酬の算定漏れがないか確認する」「DPCの機能評価係数II向上に向けた取り組みを進める」「地域連携をこれまで以上に進める」などの原点に立ち返った経営安定策を検討していく必要がある—。

このため来年度(2025年度)から、各自治体病院の経営・診療データを集積してデータベース化し、▼ベンチマーク分析などによる経営支援▼データに基づく政策提言—などにつなげる「データクラウド事業」(仮称)を立ち上げる—。

全国自治体病院協議会の定例記者会見が3月13日に開催され、望月泉会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)ら幹部から、こうした考えが示されました。「データクラウド事業」(仮称)については、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンがお手伝いをさせていただきます。

3月13日の定例記者会見に臨んだ、全国自治体病院協議会の望月泉会長(岩手県立中央病院 名誉院長・岩手県八幡平市 病院事業管理者)

3月13日の定例記者会見に臨んだ全自病幹部。右から田中一成参与(静岡県立病院機構理事長)、松本昌美副会長(奈良県・南和広域医療企業団副企業長)、望月会長、野村幸博副会長(国保旭中央病院長)

高度急性期病院が「稼働率100%」でなければ赤字になってしまう異常事態

Gem Medで報じているとおり、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会の6病院団体による調査で「病院経営は危機に瀕しており、いつ何時、地域の病院が突然なくなる(倒産する)可能性もある」状況が分かりました。

こうした状況から脱却するために、6病院団体と日本医師会は次のような声明も発しています。

▽医療機関の経営状況は、現在著しく逼迫しており、賃金上昇と物価高騰、医療技術革新への対応ができない。このままでは人手不足に拍車がかかり、患者に適切な医療を提供できなくなるだけではなく、ある日突然、地域から医療機関がなくなってしまう

まず補助金による機動的な対応が必要だが、直近の賃金上昇・物価高騰を踏まえれば「2026年度の次期診療報酬改定の【前】に期中改定での対応」も必要と考える

▽さらに、2026年度の次期診療報酬改定に向けて以下の2点を要望する

(1)「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の廃止
→賃金上昇・物価高騰などを踏まえ、財政フレームを見直して目安対応を廃止し、別次元の対応を求める

(2)診療報酬等での賃金・物価上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入
→医療業界でも「他産業並みの賃上げ」ができるよう、賃金・物価上昇を反映できる仕組みの導入を求める



この点について望月会長は、3月13日の定例記者会見で補足コメントを行いました。

まず上記(1)の「高齢化の伸びの範囲内に抑制するという社会保障予算の目安」については、医療費の伸びの最大の要因は「医療技術の高度化」(高額な新薬の保険適用、ロボット支援手術の保険適用など)で、「高齢化の進展」による部分は実は大きくないことを紹介したうえで(厚労省サイトはこちら)、「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という目安は、「医療の高度化の恩恵を国民が享受できないようにするもので、まったくおかしい」と強く批判し、財政フレーム見直しの必要性を強調しています。

厚労省による医療費伸び率の要因分析、もっとも医療費の伸びに寄与しているのは、下から2段目の「医慮の高度化」などである



また(2)に関しては「診療報酬点数は、基本的に2年間同一であるが、現下の物価・人件費が急騰する中では、コスト増を診療報酬で賄いきれない」ことを強く訴えています。

この点について田中一成参与(静岡県立病院機構理事長)は「静岡県内の高度急性期病院の状況を見ると、小児病院・がんセンターでは患者数が減少し赤字が続いている。総合病院や浜松医科大学病院では『稼働率がほぼ100%(つまり満床)であれば何とか黒字、稼働が下がればすぐに赤字に転落する』状況であるが、1年を通じてフル稼働することは困難で、病院スタッフも疲労困憊している。赤字の背景には、物価高騰と、それに伴う消費税の増大、さらに人件費項とうがある。輸入に頼ることの多い高度医療機器などは、円安に伴って価格が高騰し、それに伴って消費税負担も増えてくる。固定された診療報酬では、この点が加味されず、結果『フル稼働してやっと黒字を少し出せる』という厳しい状況にある」旨を紹介しています。

高度急性期病院・急性期病院で「黒字を出すためには稼働率100%を維持しなければならない」ということは、▼ベッドコントロールにほんのわずかな齟齬(退院が1日延びるなど)があるだけで、次の予定患者を受け入れられず(患者サイドからすれば入院できず)、診療計画が大きく狂ってしまう▼緊急入院(救急搬送、ウォークイン問わず)を受け入れることが困難になってしまう—など、地域医療の崩壊にもつながりかねない異常事態と言えます。

この背景には、上述のように▼2年間固定される診療報酬で、物価・人件費高騰に対応できない▼医療機関の負担する消費税(控除対象外消費税)は診療報酬に織り込まれていると説明されているが、物価高騰・為替レート変動(円安)により、想定を上回る消費税負担が発生している—ことなどがあります。



また、病院経営を苦しめる要因の1つに「人件費高騰」も上げられます。2024年度の診療報酬改定では「ベースアップ評価料」の創設(看護師などの人件費引き上げ対応)入院料等の基本診療料の引き上げ(若手医師の人件費引き上げ対応)が行われていますが、望月会長は「人事院、各都道府県の人事委員会からは4%を超える給与アップが勧告されており、2.5%アップを目指すベースアップ評価料などでは、とても給与引き上げの原資として足りない」と指摘(関連記事はこちら)。

あわせて望月会長と松本昌美副会長(奈良県・南和広域医療企業団副企業長)は「自治体病院の中には、賞与を一部カットしたうえで、『実績(経営改善等)を上げれば、カットした分も含めて次の賞与増を行う。皆で頑張ろう』といった苦肉の策・工夫を行っているところもある」ことを紹介。ただし望月会長は「給与、賞与のカットは職員のモチベーション低下、離職にもつながりかねない」とそのリスクも強調しています。

こうした状況下では、例えば「岩手県の20の県立病院では80億円近い赤字、静岡県の3つの県立病院では40億円程度の赤字」という、これまでにない巨額の赤字が発生する見込みです。望月会長は、病院経営の窮状は「民間病院でも同様である」ことも指摘し、「期中改定も視野に入れて、厚労省や総務省、国会議員連携等に要望を行っていく」考えも強調しました(全自病では、日本病院団体協議会とは別に、独自の要望も行っている、関連記事はこちら)。

病院側も確実な点数算定・係数向上・地域連携などの「基本的な経営安定策」実施を

同時に病院サイドでも、経営の安定・維持に向けて、例えば「診療報酬の算定漏れがないかを確認する」「DPCの機能評価係数II向上に向けた取り組みを進める」「地域の医療機関等と連携し、重症患者の紹介を受ける」などの原点に立ち返った対策を検討・実施していくことの重要性も全自病の幹部会議(会長、副会長、常務理事クラスによる定例会議)で確認されています。

ほかにも、新たな地域医療構想も見据えて、「病院の再編・統合」や「ダウンサイジング」なども検討・実施していくことが重要です。

ただし、例えば「A市立病院とB市立病院が合併し、A市立病院のみとなるケース(B病院をA病院が吸収合併する)では、B市の市長は次の選挙で落選する可能性がある。こうした点を踏まえれば、再編・統合はそう簡単には進まない」状況もあります。

またダウンサイジングには、「看護配置の集約化→上位の高点数となる入院料の取得」などの効果も期待できますが、「常に経営安定につながる」保障もないことを望月会長は指摘しています。

全自病が政策提言・会員病院の経営支援に向けた「データクラウド事業」(仮称)を開始

こうした厳しい病院経営下では、政府や国会議員への「政策提言」や、病院による「自助努力」が、これまで以上に重要になってきますが、そこには「エビデンス」が必要となります。

望月会長ら全自病幹部は、この点を重視し、来年度(2025年度)から、各自治体病院の経営・診療データを集積してデータベース化し、▼ベンチマーク分析などによる経営支援▼データに基づく政策提言—などにつなげる「データクラウド事業」(仮称)を立ち上げることを決定しました。

来年度(2025年度)からシステム構築をはじめ、2026年度から政策提言や会員病院へのフィードバック(すべての自治体病院、規模や地理特性が類似した他の自治体病院と比べて、自院がどの位置にいるのか、などが把握可能となり、経営安定化のために何をすれば良いのかを明確に把握可能となる)が行われる見込みです。

「データクラウド事業」(仮称)については、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンがお手伝いをさせていただきます。



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

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