人材確保面からも複数事業・複数施設を展開し、社会福祉法人の経営安定を―福祉医療機構
2016.8.12.(金)
老人福祉、児童福祉、障害者福祉のいずれかの事業を単体で行う社会福祉法人よりも、複数の事業を行う社会福祉法人のほうが経営が安定し、またいずれかの事業を単体で行う場合でも複数の事業所をもつほうが経営が安定する―。
福祉医療機構(WAM)が8日に公表したリサーチレポート「社会福祉法人の複数事業および施設の展開」から、このような状況が明らかになりました(WAMのサイトはこちら)。
経営の安定化は「従事者の手厚い処遇」につながり、それは優秀な人材確保に直結するため、WAMでは「単に今ある施設の経営を継続するだけでなく、積極的な事業展開の検討が重要である」旨を訴えています。
目次
複数の事業を展開する社会福祉法人のほうが、単独事業法人よりも経営が安定
WAMでは、今年(2016年)4月に「社会福祉法人の経営状況は厳しく、サービス活動収益を上げる(つまり経営を好転させる)ためには、複数の事業を展開することなどが1つの方策と考えられる」旨のレポートを公表しました(関連記事はこちら)。
今般のレポートでは、複数の事業・施設を展開する社会福祉法人とそうでない法人との比較分析を行っています。
社会福祉法人は様々な事業を展開していますが、レポートでは▽老人福祉(特別養護老人ホームなど)▽児童福祉(保育所など)▽障害者福祉(障害者支援施設など)―の3事業に絞って経営状況を比較しています。
まず、3事業のいずれか1つを行っている法人の経営指標を見ると、赤字法人比率は▽老人単独では28.5%▽児童単独では23.9%▽障害単独では15.9%―であるのに対し、2事業を行っている法人では、赤字法人比率は▽老人と児童では22.0%▽老人障害では18.9%▽児童と障害では12.2%―となっており、複数の事業を展開する法人ほど「安定した経営状態」にあることが伺えます。
サービス活動収益や、法人の利益を示す「経常増減差額」を見ても、2事業を展開している法人のほうが高い数値を示していることから、この見解が裏付けられています。
「児童→障害」「老人→障害」へと事業展開した法人で、より経営上のメリット
では、社会福祉法人は、既存の事業に組み合わせてどのような事業を展開すべきなのでしょうか。
この点についてWAMは、「既存の事業が何か」→「新規に行った事業は何か」という事業展開パス(経路)別に経営状況を分析しています。
それによると、(1)児童福祉を母体として、障害者福祉を展開(2)老人福祉を母体として、障害者福祉を展開(3)障害者福祉を母体として、老人福祉を展開―という3つの事業展開パスにおいて、とくに経営上のメリットが見られたことを紹介しています。
(1)の「児童→障害」法人では、赤字法人比率はわずか10.2%と低いほか、児童単独施設と比べて人件費比率が5.4ポイント低いにもかかわらず、従事者1人当たりサービス活動収益が100万円近く高くなっています。WAMでは「効率的な運営で得た利益を、従事者の処遇に振り向けている」(従事者1人当たり人件費は、「児童→障害」法人のほうが35万5000円高い)と見ています。
(2)の「老人→障害」法人では、赤字法人比率は22.0%で、老人単独法人よりも6.5ポイント低くなっています。また、従事者1人当たりサービス活動収益は22万1000高い状況です。さらに人件費比率は大差ないものの、従事者1人当たり人件費は老人単独に比べて16万3000円高く、WAMは「スケールメリットを処遇改善に振り向けている」と評価しています。居宅介護や重度訪問介護など、老人福祉と共通点のある事業への展開が見られるようです。
(3)の「障害→老人」法人では、障害単独法人に比べてサービス活動収益、経常増減収益が2倍以上になっており、従事者1人当たり人件費も19万1000円高くなっています。ここでも「従事者の処遇を手厚くしている」状況が伺えます。
1事業であっても、複数施設を運営する法人のほうが単独施設運営よりも経営が安定
また1事業単独のみを実施している法人の中にも、「1施設のみを運営する法人」と「複数法人を運営する法人」があります。
両者を比較すると、複数施設運営法人のほうが経常増減差額が高く(つまり法人の利益が高い)、赤字法人の割合が少ない状況です。
また人件費率に大きな差がない一方で、従事者1人当たり人件費は複数施設運営法人のほうが高くなっており、WAMは「経営を圧迫することなく、従事者の処遇を手厚くしている」と見ています。
従来どおりの事業運営だけでは、法人存続そのものが岐路に立たされる可能性も
こうした比較分析結果を踏まえてWAMは、とくに「安定経営」→「従事者の処遇改善」→「採用活動による優位性」→「人材確保保」という点を強調。従来どおりの事業運営だけでは、「よほど特徴のある選ばれた法人」でなければ存続そのものが岐路に立たされる可能性があると訴えます。
その上で「厳しい経営環境の中でも、あえて一歩踏み出し、事業展開することで見える経営改善もあるのではないか」と述べ、複数事業・複数施設への展開を検討することを提言しています。
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