一般病院、在院日数短縮と病床利用率向上を両立するともに、高機能化が進む―WAM・2015年度の病院経営分析参考指標
2016.10.31.(月)
2015年度における病院の決算状況を見ると、一般病院では平均在院日数の短縮と病床利用率の向上が両立されたが、療養病床では平均在院日数は短縮したものの利用率は低下してしまった。ただし、病床1床当たり・患者1人1日当たりの医業収益は一般・療養のいずれでも増加しており、病院の機能性が向上している―。
こういった状況が、28日に福祉医療機構(WAM)が公表した2015年度決算分の「病院の経営分析参考指標」から明らかになりました。
ただし、2016年度には重症度、医療・看護必要度や退院支援加算(退院調整加算からの組換え)などについて大きな診療報酬の見直しが行われており(関連記事はこちらとこちら)、それを踏まえた分析が待たれます。
一般病院、平均在院日数の短縮と病床利用率向上を両立
WAMでは医療・福祉事業に対する資金貸付を行っており、債権管理の一環として貸付先の法人から財務諸表と事業報告書の提出を求めています。この情報を分析し、「経営分析参考指標」として毎年度取りまとめており、28日には2015年度決算分の「病院の経営分析参考指標」を公表しました。
調査対象は、1579病院で、その内訳は一般773施設(一般病床の割合が5割超)、療養520施設(療養病床の割合が5割超)、精神286施設(精神病床8割超)となっています。
まず一般病院の経営状況を見てみると、医業収益に対する費用の割合は98.9%で、前年度と変化していません。「人件費」の割合は52.4%(前年度比0.1ポイント増)、医薬品や医療材料などの「医療材料費」の割合は21.5%(同0.3ポイント増)、経費の割合は17.9%(同0.5ポイント減)、「減価償却費」5.4%(同0.1ポイント増)などとなっており、診療に影響を及ぼさないようなコストコントロールがなされていると言えそうです。
また経常収益に対する計上利益の比率は1.5%、医業収益に対する医業利益の比率は1.1%で、前年と変わっていません。
一方、経営の余力がどれだけあるかを示す「損益分岐点比率」は99.7%で、前年度よりも0.1ポイント低下したものの、病院経営が厳しい状況にある点は変わっていません。今後、適切な人事計画の立案や、医薬品や医療材料の価格を抑えるための「後発医薬品の選択」や「共同購買」なども検討する必要がありそうです。
また労働者1人当たりの年間医業収益は119万5300円で、前年に比べて2300円・0.2%の微増。一方、労働者1人当たりの人件費は62万6700円で、同じく3300円・0.5%の増加となりました。
次に病床1床当たりの医業収益を見ると、200万4600円で、前年に比べて5万6500円・2.9%増加。患者1人1日当たりの医業収益は、入院では4万6911円(同627円・1.4%増)、外来では1万2177円(同467円・4.0%増)となりました。さらに患者100人当たりの従事者数に目を移すと、医師は常勤9.9人(同0.2人増)・非常勤2.4人(同増減なし)、看護師・准看護師・看護補助者は65.7人(同1.4人増)となっており、WAMでは「機能性が高まっている」と見ています。
また平均在院日数が前年度に比べて0.4日短縮して19.2日となると同時に、病床利用率も前年度に比べて0.5ポイント向上し80.7%となりました。平均在院日数の短縮と、利用率の向上を両立しており、一般病院総体として効率的な経営が進められていることが伺えます。
療養病院、平均在院日数は短縮したが、病床利用率が低下
療養病床の経営状況に目を移すと、医業収益に対する費用の割合は94.4%で、前年度から0.1ポイント上昇しました。「人件費」の割合は58.5%(前年度比0.7ポイント増)、医薬品や医療材料などの「医療材料費」の割合は8.7%(同増減なし)、経費の割合は19.5%(同0.6ポイント減)、「減価償却費」4.2%(同0.1ポイント増)などとなっています。慢性期疾患の患者が多いため、医療材料費のシェアが一般病院と比べてかなり低いことが改めて認識できます。
経常収益に対する計上利益の比率は6.3%(同0.3ポイント減)、医業収益に対する医業利益の比率は5.6%(同0.1ポイント減)となりました。また「損益分岐点比率」は94.1%で、前年度から変化していません。全体として見ると数字上は「一般病院に比べて経営に余力がある」と考えることもできそうですが、人件費比率の高まりは「看護職員などの加配」が進んでいる可能性を物語っており、徐々に経営環境は厳しくなっているようです。
また労働者1人当たりの年間医業収益は89万9900円で、前年に比べて1300円・0.1%の微増。一方、労働者1人当たりの人件費は52万6600円で、同じく6900円・1.3%の増加となりました。
病床1床当たりの医業収益は99万3000円で、前年に比べて2万7100円・2.8%増加。患者1人1日当たりの医業収益は、入院では2万3748円(前年度比7万6500円・3.3%増)、外来では9830円(同212円・2.4%増)となりました。さらに患者100人当たりの従事者数に目を移すと、医師は常勤3.3人(同0.1人増)・非常勤1.7人(同増減なし)、看護師・准看護師・看護補助者は59.4人(同1.4人増)となっており、比較的重症の患者の受け入れに力を注いでいる状況が伺えそうです。
また平均在院日数は前年度に比べて3.6日短縮して97.5日、病床利用率は前年度に比べて0.5ポイント低下し90.8%となりました。平均在院日数を短縮したにもかかわらず、新患の獲得が必ずしも十分になされておらず、利用率が低下したものと言えるでしょう。今後、地域の急性期病院や回復期病院と連携して、「急性期後」の患者を受け入れることがますます重要になってきています。
【更新履歴】
患者1人1日当たり医業収益について誤りがございました。お詫びして訂正いたします。本文は修正済です。
【関連記事】
介護療養から医療療養などへの転換進むが、人件費増などで利益率は低下―福祉医療機構
設備投資行えない赤字病院、自院の機能を根本的に見直すべき―福祉医療機構
医療法人の利益率、13年度は3.1%で過去最低、設備投資と費用コントロールが重要―福祉医療機構
病院の1割弱が資金不足で必要な施設整備できず-福祉医療機構調べ
人件費増が病院経営圧迫、13年度「ほとんど減益」-WAM「経営分析参考指標」
【16年度改定答申・速報1】7対1の重症患者割合は25%で決着、病棟群単位は18年3月まで―中医協総会
【16年度改定答申・速報2】専従の退院支援職員配置など評価する「退院支援加算1」、一般600点、療養1200点―中医協総会