在宅医療の推進、地域医師会を中心に関係団体が集約し、エネルギー分散を避けよ―全国在宅医療会議
2017.3.16.(木)
在宅医療を適切に推進していくためには、数多ある関係団体が地域医師会を中心にまとまり、エネルギーの分散を避ける必要がある―。
15日に開催された全国在宅医療会議で、大島伸一座長(在宅医療推進会議座長、国立長寿医療研究サンタ―名誉総長)をはじめ、複数の構成員からこうした指摘がなされました。会議では、在宅推進に向けた「重点分野」として、▼医療連携・普及啓発モデルの蓄積▼エビデンスの蓄積―の2点を了承しており、これらに向けた取り組みも各団体がより連携を深め、ベクトルを合わせていくことが重要です。
在宅医療の推進、「医療連携・普及啓発」と「エビデンス蓄積」が重要
いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年に向けて、医療・介護ニーズが飛躍的に高まるため、▽住まい▽医療▽介護▽予防▽生活支援―を総合的・一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築が重要課題となっています。要の1つとなる在宅医療についても推進・充実が急がれますが、エビデンスに基づいた「在宅医療のメリット(QOLの向上など)」が明確に示されていない、医療者側には「在宅医療の推進は医療費削減にある」という誤解がある、などさまざまな課題もあります。
そこで厚労省は、昨年(2016年)7月に全国在宅医療会議を設置。在宅医療推進のための「重点分野」を定め、比較的長期なスパンで「在宅医療の臨床指標を構築し、それに基づいて在宅医療のメリットを可視化。国民に適切に情報提供していく」ことなどを目指しています。したがって2018年度の診療報酬・介護報酬改定に向けた提言などは検討テーマに入っていません。
重点分野については、下部組織の全国在宅医療会議ワーキンググループから、(1)医療連携・普及啓発モデルの蓄積(2)在宅医療に関するエビンデンスの蓄積―の2点としてはどうかとの提案が行われ、15日の会合でこれを了承しました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
併せて、重点分野に対し、国民・行政・関係団体・学術団体がそれぞれどのような取り組みを進めるべきかも確認。例えば、医師会などの関係団体には、行政と車の両輪として▼医療従事者への教育・研修の充実▼エビデンスに基づく医療が実践される環境整備▼学術団体と連携した、症例数蓄積に向けた環境整備―などを担う役割が、学術団体には在宅医療に関する研究はもとより、▼在宅医療手法の標準化▼研究成果を集約するデータベース構築▼関係者に情報発信するためのwebサイト(ホームページ)構築―などの役割が求められます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
在宅医療の推進・充実には、エネルギー・資源の集約化が必要
ところで、全国在宅医療会議には在宅医療の関係団体代表者が多数参加しており、15日の会合では、各団体から上記2つの重点分野について「現在行っている取り組み」と「今後行っていく取り組み」が紹介されました。
多くの団体が「研修」や「連携体制の整備」などを行っていますが、武久洋三構成員(日本慢性期医療協会会長)は「似た名称・内容の団体が数多くあり、国民はどこに相談すればよいか分からない。全国に組織が整備されている医師会に各団体が所属するようになれば、住民は『とりあえず医師会に行けばよい』と分かりやすくなる。各団体の団結は喫緊の課題である」と指摘。また、鈴木邦彦構成員(日本医師会常任理事)も「多くの組織がばらばらに動けば、在宅医療の現場は混乱する。すでに地域では、医師会・歯科医師会・薬剤師会・看護協会が密接に連携している。独自に在宅医療の団体をつくり専門特化していく動きを否定しないが、地域ではそのようなことをやっている時間はない」と強調しています。
さらに大島座長も「在宅医療体制を整備するまでの時間はごくごく限られている。各関係団体がそれぞれ取り組みを行っているが、動きに違いもある。エネルギーが分散しないよう、集約化を図っていくべきとの考えには同感だ」とコメントしています。
憲法第21条で「結社の自由」が保障されていることから、厚労省が「●●在宅医療協議会は、◆◆団体と統合しなさい」などと命令することはありません。しかし、各団体の目指すところは「独自団体の結成」ではなく、「在宅医療の推進・充実」であるはずです。この目的に向けて、限られたエネルギー・資源が分散してしまわないように考え、動くべきでしょう。例えば研修などについては、各団体が個別に行うよりも、複数の団体が合同で実施するほうが、効率的かつ効果的です。各団体が自主的に合同・連携を図ることが求められます。
厚労省医政局地域医療計画課在宅医療推進室の伯野春彦室長は、「今後、各団体の取り組みのフォローアップをしていく」との考えを示しています。
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