「在宅・生活復帰支援のアウトカム評価」導入で、稼働率に依存しない地域包括ケア病棟に—地域包括ケア病棟協会
2017.8.28.(月)
現在の診療報酬体系では、「在宅・生活復帰支援に力を入れ平均在院日数を短縮する地域包括ケア病棟」と「稼働率維持のために平均在院日数を伸ばす施設」との経営面を比べると、前者のほうが高コストで利益が出にくくなっている。今後、在宅・生活復帰支援に関するアウトカム評価を行い、地域包括ケア病棟が「病床稼働率に依存しない」経営を目指せるようにすべきである—。
地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長・安藤高朗副会長は24日、厚生労働省にこういった提言を行いました(協会のサイトはこちら(診療報酬改定に関する要望・提言)とこちら(介護報酬改定に関する要望・提言))。あわせて、2018年度の次期診療報酬・介護報酬改定に向けて、「緊急時の受け入れ」や「入退院支援」の評価を充実するよう要望しています。
目次
緊急での患者受け入れ、入院前からのケアマネとの連携を評価せよ
地域包括ケア病棟協会では、2016年度・17年度に「地域包括ケア病棟の機能等に関する調査」を実施(17年度には616病院、地域包括ケア病棟を届け出ている1894病院の32.5%が回答)。そこから、「地域の医療ニーズに応えたいが、地域包括ケア病棟の届け出が難しい」「在宅・生活復帰支援の充実が難しい」といった課題が浮かび上がりました(協会のサイトはこちら(2017年度調査の概要)とこちら(2016年度調査の抜粋))。
仲井会長・安藤副会長は、この課題を深掘りし、次のような対応を図るよう厚労省に要望しています。
(1)地域包括ケア病棟に緊急入院した患者の1割超が救急搬送されており、他の患者よりも医療資源投入量が多いと考えられる。より積極的な「緊急患者の受け入れ」を進めるために、「緊急で受け入れ、在宅・生活復帰を促す」点についてプロセス評価・アウトカム評価を行うべき
(2)ほとんどの地域包括ケア病棟では「発症前・入院前のアセスメント」を行っており、これが▼在宅・生活復帰支援のゴール▼元の暮らしに戻るための基準▼予測医療資源投入量の把握—となる。アセスメントに伴い、「入退院前後で、生活支援の程度を重くしない、軽減させる」点についてプロセス・アウトカム評価を行うとともに、「入院前・入院後超早期に医師などからケアマネジャーに『介護福祉情報』提供を依頼し、それに基づく『予後』『在宅医療介護福祉サービスの変化予測』を含めた診療計画のケアマネジャーらへの提供を評価するべき
(3)「在宅・生活復帰支援に力を入れ平均在院日数を短縮する地域包括ケア病棟」と「稼働率維持のために平均在院日数を伸ばす施設」との経営面を比べると、前者のほうが高コストで利益が出にくくなっている。今後、在宅・生活復帰支援に関するアウトカム評価を行い、地域包括ケア病棟が「病床稼働率に依存しない」経営を目指せるようにすべき
(4)全国統一の院内・地域内共通のアセスメント票を開発し、それに基づく評価データの提出をプロセス評価すべき。これにより、▼地位包括ケア病棟で、どのような患者を受け入れているのかの実態を精緻に分析し、地域医療構想の実現に貢献できる▼2020年度以降のデータヘルス改革にも結び付けられる▼人材養成課程の見直しにも活用できる—といったメリットがある
(5)地域によって求められる病院機能は異なり、大規模病院が複数の地域包括ケア病棟が必要な地域もある。地域特性に配慮し、「地域包括ケア病棟と高度急性期病床との組み合わせに関する診療報酬上の制限」を緩やかにし、地域医療構想調整会議において「大病院における地域包括ケア病棟の複数設置の可否」などを話し合ってはどうか
アウトカム評価により、病床削減しても収益を確保できる構造に
このうち(3)は、メディ・ウォッチでもたびたびお伝えしている「平均在院日数を延伸して、病床稼働率を維持する」動きを牽制するものです(関連記事はこちら)。
平均在院日数の減少は医療安全の確保やADLの維持などのメリットがありますが、新規患者の獲得などができなければ病床稼働率の低下(つまり収益の悪化)につながってしまいます。地域では人口、つまり入院患者数そのものが減少し、新規患者の獲得が難しいところも出てきています。このため病床稼働率(つまり収益)を維持するために平均在院日数を延伸させる病院も出てきていると予想されます。特に包括報酬が設定されている地域包括ケア病棟では、この傾向が強くなります。
このため「病床削減」や「近隣病院との統合・再編」を視野にいれた病床戦略が必要になりますが、仲井会長は「アウトカムに着目した評価を導入すれば、病床削減への抵抗感が薄れる」と予測。「在宅・生活復帰支援」のアウトカム評価を導入し、成績の良い施設へのプラス評価を行うべきと強く求めています。
地域によっては「大病院における複数の地域包括ケア病棟設置」も認めよ
また(5)は、例えば東京などの大都市では、病院が多く「機能分化・連携の推進」が可能ですが、例えば「公立病院が高度急性期から慢性期まで幅広い機能を持たなければいけない」地域も少なくありません。しかし後者の地域では、▼許可病床数500床以上の病院▼救命救急入院料・特定集中治療室管理料・ハイケアユニット入院医療管理料・脳卒中ケアユニット入院医療管理料・小児特定集中治療室管理料を届け出ている病院―において「地域包括ケア病棟は1病棟のみ」との設置制限があり、適切な医療提供体制の確保が難しいとの指摘もあります。そこで仲井会長は「制限を緩やかにし、地域医療構想調整会議で『大病院における複数の地域包括ケア病棟設置』を議論してはどうか」と提案しています。
2018年度の次期診療報酬改定で実施可能な提言(例えば(5)の設置制限緩和)と、数年かけての検討が必要な提言(例えば(4)の共通指標構築)とあり、今後、厚労省や中央社会保険医療協議会、社会保障審議会・介護給付費分科会でどう取り扱われるのか注目したいところです。
なお、2018年度の次期診療報酬・介護報酬改定に向けて、▼「緊急時の受け入れ」の評価充実(例えば【救急・在宅等支援病床初期加算】の充実など)▼「入退院支援」の評価充実(例えば入院前・入院後超早期の支援に対する【退院支援加算】での評価、ケアマネジャーの【入院時情報連携加算】の充実など)―も要望しています。
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