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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

急性期入院基本料の再編、診療実績に応じた評価は賛成だが、看護必要度には疑問も—日病・相澤会長

2017.11.27.(月)

 厚生労働省が提示した「7対1・10対1入院基本料を統合・再編する」提案について、診療実績に応じた評価は必要であるが、「現在の重症度、医療・看護必要度が、本当に急性期入院医療の大変さを表しているのか」を十分に検証する必要がある。また、7対1相当の新たな入院基本料において「消費増税補填分がどのように手当てされるのか」を明確にする必要がある―。

 日本病院会が11月27日に開催した定例記者会見で、相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)はこのようにコメントし、「詳細が明らかになっておらず、手放しで賛成はできない」と態度を保留しています。

11月27日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)

11月27日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)

急性期入院料の大変さと、現在の看護必要度にはズレがあるのではないか

 11月24日の中央社会保険医療協議会・総会で、厚労省保険局医療課の迫井正深課長は、事実上の「7対1・10対1入院基本料の再編・統合」案を提示しました。

 次の2本(基本部分と段階的評価部分)を柱に、「現在の7対1と10対1の中間的水準の評価を設定する」(7対1から10対1への円滑な移行を可能とする)、「診療実績が最も高い病院では、現行報酬との整合性を考慮して、7対1看護配置を求める」、「評価の単位は『病院単位』を念頭に置いている」ことを迫井医療課長は示しています。

▼(1)看護職員配置や平均在院日数などを施設基準とする「急性期の入院基本料の基本部分」を設定する(例えば10対1看護など)

▼(2)重症患者割合などの診療実績に応じた「急性期の入院基本料の段階的評価部分」を設定する

7対1と10対1を再編統合し、新たな急性期の入院基本料(10対1看護配置などを勘案する基本部分+重症患者割合などの診療実績に応じた段階評価部分)を検討していく

7対1と10対1を再編統合し、新たな急性期の入院基本料(10対1看護配置などを勘案する基本部分+重症患者割合などの診療実績に応じた段階評価部分)を検討していく

 

この提案について相澤会長は、「日病の理事会では、診療実績に応じた評価という点には賛成できるという意見が多数を示した」ことを紹介。

しかし、具体的な制度設計にあたっては次のような課題もあり、「詳細が明らかにならない段階で簡単には賛成できない」とも述べ、現時点での賛否表明は留保しました。

課題の1つ目は「診療実績をどのように評価するのか」という点です。相澤会長は「重症度、医療・看護必要度を指標とすることになるのだろうが、今の重症度、医療・看護必要度が本当に急性期入院医療の大変さを表しているか疑問だ。現場感覚とはズレがある」と指摘。2年ほどかけて「診療実績を評価する指標の在り方」「仮に重症度、医療・看護必要度を用いる場合には、項目の妥当性」「DPCのEF統合ファイル(出来高実績)を用いる場合にはロジックの妥当性」などをしっかり議論し、皆で「急性期入院医療の大変さを評価するものとして妥当である」というコンセンサスを得る必要があると強調しています。もっとも、2018年度の次期診療報酬改定で「重症度、医療・看護必要度などを用いて診療実績を評価する」こと自体には異論を唱えてはいません。

課題の2つ目は「消費税」の問題です。2014年度に消費税率が8%に引き上げられ、医療機関の負担する控除対象外消費税(いわゆる損税)を補填するために、特別の診療報酬プラス改定が、通常の診療報酬改定とセットで実施されました。病院については、▼初診料に12点▼再診料・外来診療料に3点—を上乗せした上で、入院料について「平均プラス2%の上乗せ」が行われました(個別点数に配分すれば偏りが生じることから、すべての病院が算定可能な基本診療料に上乗せを行っている)。

2014年度の消費増税(5%→8%)に対応するために、特別の診療報酬プラス改定が、通常改定とセットで行われた

2014年度の消費増税(5%→8%)に対応するために、特別の診療報酬プラス改定が、通常改定とセットで行われた

 
この点について相澤会長は、「中医協資料(上図)では、(1)の基本部分が10対1入院基本料に相当し、そこに診療実績に応じた段階的評価を行うように見える。すると、7対1入院基本料において消費増税対応分(2%上乗せ)がどのように扱われるのか、きちんと見える化しなければならない」旨を強く訴えています。医薬品や医療材料を大量に消費する急性期入院医療においては控除対象外消費税も多く、「消費増税引上げ分が、診療報酬改定では十分に補填されておらず、経営がさらに厳しくなっている」と指摘されています。相澤会長は「急性期の入院基本料見直しで、補填がさらに少なくなっては困る」点に言及したものと言えます。

 
なお、相澤会長は短期滞在手術等基本料(ここでは短手3)の見直しにも言及。厚労省は「入院医療等の調査・評価分科会」(中医協の下部組織)で、▼新たに▼K863-3【子宮鏡下子宮内膜焼灼術】など4手術・検査を短手3に追加する短手3は出来高医療機関のみを対象とし、DPC病院では短手3対象患者でもDPC点数に基づいた診療報酬算定とする—との考えを示しています。相澤会長は、とくに後者の見直し案について「そもそも短手3を創設した際の考え方に逆行するのではないか。見直しを行うのであれば、もう一度創設時に戻り、理念などを根本から整理する必要があるのではないか」との見解も示しています。

宿直に関する旧厚生省通知の見直しをしなければ、急性期病院の経営は破綻

また日病理事会では、「医師の働き方改革」に関して次の3点を議論していくことを確認した旨が相澤会長から報告されています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

(1)昭和24年(1949年)に発出された厚生省(当時)の【医師、看護師等の宿直許可基準】では「定時巡回、異常事態の報告、少数の要注意患者の定時検脈、検温などの業務が稀で、一般的に見て睡眠が十分にとりうる場合には宿直を認めるが、その業務時間は割増し賃金を支払うこと」といった旨の通知が示されている。この通知改正がなければ、病院経営、とくに急性期病院の経営は危機的状況となる。
(2)医師法の応召義務(第19条第1項など)は医師個人を射程としているが、「病院」「地域」での患者対応との間に乖離が生じている。この点をきちんと議論する必要がある。
(3)「タスクシェア・タスクシフトで医師の勤務環境が劇的に改善する」といった「雰囲気」の議論がなされているが、本当にそうなのか。タスクシフトなどで業務時間がどの程度、短縮するのかを実証した上で「タスクシェア・タスクシフト推進」の議論を進める必要がある。

さらに相澤会長は、「いつでも、どこでも保険証1枚で質の高い医療を受けることができる」という我が国の医療の良さを大事にした上で、「行き過ぎれば医師負担が過重になる。場合によっては国民の理解を得て、意識、考え方の変革を求めることも必要になっているかもしれない」旨に言及しています。例えば、ごくごく軽症の患者が、「待ち時間がない」からとの理由で夜間救急を受診したり、救急車をタクシー代わりに利用するといった不適切受診は、我々国民も厳に慎む必要があります。

 
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