特養ホームや老健での介護事故、インシデントとアクシデントに分けて調べるべきか―介護給付費分科会・研究委員会
2018.10.4.(木)
2021年度の次期介護報酬改定に向けて、今般の2018年度改定の効果・影響を調査する。2018年度には、▼介護ロボット▼介護医療院におけるサービス提供実態▼介護老人福祉施設や介護老人保健施設における安全・衛生管理体制等の在り方―などを調べるが、安全・衛生管理については「事故」と「ヒヤリ・ハット」を明確に分けて調べることとしてはどうか―。
10月3日に開催された、社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護報酬改定検証・研究委員会」(以下、検証・研究委員会)でこういった議論が行われました。
松田晋也委員長(産業医科大学教授)が、委員から出された意見・提案などを整理して調査票を修正し、近く開催される介護給付費分科会に報告。そこでの了承を待って調査を実施し、年明け(2019年)3月頃には結果速報が報告される見込みです(関連記事はこちら)。
2021年度の次期介護報酬改定に向け、2018・19・20年度に「2018年度改定」の効果検証
介護報酬・診療報酬改定の目的の1つに「介護、医療現場の課題を解決し、介護・医療の質を向上させる」ことがあります。このため、ある年度の改定においては「前回改定で、課題解決に向けて行った見直し(改定内容)の効果・影響はどうであったか」を見極め、それをベースに考えていくことになります。例えば、訪問看護において、「機能強化に向けて、重度者・重症者をより多く受け持つ訪問看護ステーションに加算を設ける」との改定が行われたとして、改定後に「加算の取得は十分に進んでいるか、逆に進み過ぎていないか」「加算創設によって、目的である『機能強化』が進んでいるか、想定とは別の方向に進んでいはしないか」を調査し、その結果をもとに「加算の継続・修正・廃止」などを検討していくことになります。
例えば、想定をはるかに超えた加算取得が進んでいれば「要件が緩すぎた」可能性が、想定とは異なる方向に進んでいれば「要件内容を読み間違えた」可能性が伺え、次期改定に向け、「要件の厳格化」や「異なる要件の設定」などを考えていく必要があるのです。
さらに、改定論議には時間・財源の制約などもあるため、「●●まで議論したかったが、今回は○○で抑えておこう」という判断も必要となります。この場合には「次期改定に向けて●●に向けた検討をする必要がある」との宿題が残されます。
この点、介護給付費分科会では、次期2021年度介護報酬改定に向けて、2018年度には次の7項目の調査を行うことを固めています(まず改定の効果・影響が出やすい項目や、2018・19・20と継続調査を行う必要なある項目など)。2019年度・20年度の調査内容は別途、介護給付費分科会で検討されます(関連記事はこちら)。
(1)介護保険制度におけるサービスの質の評価
(2)介護ロボットの効果
(3)居宅介護支援事業所・介護支援専門員の業務等の実態
(4)福祉用具貸与価格の適正化
(5)介護医療院におけるサービス提供実態等
(6)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方
(7)介護老人保健施設における安全・衛生管理体制等の在り方
10月3日の検証・研究委員会には、厚生労働省から調査票案が提示され、これに基づいた議論が行われました。
例えば、(5)の介護医療院については、▼類型(I型・II型などで、どの報酬区分を届け出いているか)▼併設する医療機関の有無と種類(病院か、診療所か)▼併設医療機関の病床種別(一般病棟入院基本料、地域包括ケア病棟入院料、療養病棟入院基本料などのいずれを届け出ているか)▼実施している居宅介護サービス▼母体法人などが開設している施設・地域密着サービス▼臨床検査の委託状況―などの基本情報のほか、次のような点を調べます。
▽職員配置
▽介護医療院への転換を決めた理由(理念、利用者の状況、報酬など)
▽開設準備状況(パーテーションなどの購入状況、助成金の活用状況、経過措置の活用状況など)
▽生活施設としての環境を整えるための工夫
▽介護医療院の課題(医療提供、職員のモチベーション、利用者・家族への説明など)
▽入所者の状況(医療区分、ADL区分、要介護度、寝たきり度(日常施かつ自立度)、認知症高齢者の日常生活自立度など)
▽実施した医療処置、リハビリテーション
▽ACP(Advanced Care Planning)への取り組み状況
▽ターミナルケアの実施状況
また(6)(7)の安全・衛生管理体制は、「国として実施する初めての調査」となります。介護保険施設で、生じることの多い▼転倒▼転落▼誤嚥▼異食▼褥瘡▼離設▼誤薬▼医療的ケア関連(チューブ抜去など)—といった介護事故について、どのように把握、市区町村に報告しているかを調べ、今後の安全管理体制構築につなげる狙いがあります。
ほかに、▼ヒヤリ・ハット事例の取扱いに関する施設内ルール(取り決めの有無、記録するか否か、分析するか否か、など)▼クレーム対応体制(整備しているか否か、窓口はどこか)▼事故防止のための研修状況(実施しているか、研修内容など)—も調べることになります。
この点、検証・研究委員会では、介護事故を「▼インシデント(ミスをしたが、事故には至ってない)▼アクシデント(事故に至ってしまった、過誤)—に分けて調査すべき」といった提案が、藤井賢一郎委員(上智大学准教授)をはじめ複数の委員からなされました。
医療においても、「事故」と「ヒヤリ・ハット(ミスに気付いたインシデント)」に分けて事例を収集・分析しており、「入所者に実際に害が及んだか、害はどの程度か」「害が及ばないインシデントにとどまった場合、その要因は何か」といった詳細な分析をベースとすることで、的確な再発防止策を講じることができるため、こうした指摘には十分に頷けるものがあります。
しかし、介護分野においては、「用語の定義についてすら施設間でバラつきがある」との指摘もあり、仮にインシデントとアクシデントを分けて調査したとしても、不十分な内容に終わる可能性があると福井小紀子委員(大阪大学大学院教授)や小坂健委員(東北大学大学院私学研究科国際歯科保健学分野)は説明。また粟田主一委員(東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と介護予防研究チーム研究部長)は「インシデントなのか、アクシデントなのかは、収集・解析の段階で明らかになることもある」とも指摘しています。
厚労省と松田院長とで、こうした意見を整理し、調査の趣旨に沿って調査票・内容の修正を行うべきか否かを検討することになりました。「国で実施する安全管理体制等に関する初の調査」であることを踏まえると、当初は「大づかみ」に調査内容を設定し(例えば、今回はアクシデント・インシデントを分けず、各施設の考える「介護事故」を収集する、など)、その分析結果を踏まえて「精緻化」を行っていく(介護事故をインシデントとアクシデントに明確に分け、両者をきちんと定義づけた上で、今後、両者を別個に調査する、など)といったやり方も考えられそうです。
厚労省では近く介護給付費分科会を開催し、そこに修正した調査票案を提示。そこでの議論・了承を待って、調査を実施し、年明け(2019年)3月頃に結果速報が明らかにされる見通しです。
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