介護事業経営概況調査、回答者には経営指標サービス等のインセンティブ付与―介護事業経営調査委員会
2019.1.25.(金)
2021年度の次期介護報酬改定(通常改定)に向けた、2019年度の「介護事業経営概況調査」では、有効回答率の向上を目指し、「電子調査票に入力すると経営分析に参考となる指標(例えば、人件費比率や収支差率、経費率など)が得られる計算式を組み込む」といった工夫を行う―。
1月24日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護事業経営調査委員会」で、こういった内容が概ね固められました。近く開催される親会議(介護給付費分科会)の了承を経て、調査が実施されます。
2017・18年度の経営状況を「2019年度概況調査」で把握、回答率向上が課題
介護報酬改定においては、介護事業所・施設の経営状況を踏まえることが重要です。経営状況が厳しければ、安定的な介護サービス確保のために、経営の下支え(プラス改定等)が必要となるためです。
現在、介護事業所・施設の経営状況(収支や人員配置、利用者数など)を把握するための調査として、▼介護事業経営概況調査▼介護事業経営実態調査―の2種類があり、両者の関係は次のようになっています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
▽前回改定(ここでは2018年度改定)の翌年度(ここでは2019年度)に「介護事業経営概況調査」を行い、前回改定前後2年度分(ここでは2017年度および2018年度)の経営状況を把握する
▽前回改定(同)の翌々年度(ここでは2020年度)に「介護事業経営実態調査」を行い、次期改定の翌年度(ここでは2019年度)の経営状況を把握する
定点調査(同一の事業所・施設のデータを3年度分収集する)ではないため、厳密な比較こそできませんが、介護事業所・施設の経営状況の大枠を3年度分把握することができ、介護報酬改定に向けた重要なエビデンスの1つとなります。
1月24日の介護事業経営委員会では、2019年度に実施する介護事業経営概況調査(2017年度・18年度の経営状況を把握する)の詳細を固めました。前回調査(2018年度改定に向けた2016年度調査(2014・15年度の経営状況を把握))と比べ、次のような点で修正・改善が図られます。
▼介護事業所・施設のサービス毎の抽出率を見直す(事業所数の動向等を踏まえ、的確な解析に必要なデータ数の確保を目指す)
▼抽出の母集団について、従前の「介護サービス施設・事業所調査」をやめ、新たに「介護保険総合データベース」(介護DB、介護報酬レセプトと要介護認定情報を格納)とする(全事業所・施設が母集団となり、廃止・休止事業所等の除外が可能となる)
▼有効回答率の向上に向けた取り組み・工夫を行う
▼介護医療院に関する調査も実施する
有効回答率向上策としては、「電子調査票(オンライン調査)の活用推進(現在、2割程度がオンラインで回答)」「回答が困難な部分などに関するアンケート実施」「電子調査票に入力すると経営分析に参考となる指標が得られる計算式の組み込み」などの工夫がなされます。こうした工夫を介護事業経営調査委員会の委員は高く評価しています。
このうち経営分析参考指標は、回答者へインセンティブを付与するもので、例えば、小規模事業所などで経営分析等に明るくない経営者に「人件費比率」「収支差率」「経費率」などを示すことなどを厚生労働省は考えています。この指標をきっかけに、経営改善に向けた第一歩を踏み出すことが期待されます。
また、すでに経営分析等をしている介護事業所・施設においても、この指標は有用です。複数サービスを展開する介護事業所・施設では、独自にサービス種類毎に人件費を按分するなどして分析を行っていることでしょう(管理会計)。これに対し、指標では厚労省が一定の考えに基づいてサービス種類ごとに人件費按分等を行い、分析結果を提示することになります。藤井賢一郎委員(上智大学准教授)は、「国の考えに基づく按分の分析結果を示すだけでも意味がある」とコメント。
ただし、例えば人件費比率について、介護事業所・施設サイドが「正しい人件費比率はこの程度であれば自施設は高すぎる。給与カットを行おう」など誤った判断をしないような工夫が必要とも藤井委員、田中滋委員長(埼玉県立大学理事長)は指摘しています。
なお、藤井委員は「有効回答率の向上に向けた余地はまだあると思う。検討の場を設置して一度議論してもよいかもしれない」「回答率向上は重要だが、母集団から偏りのない回答を得るという点も非常に重要である。回答結果と母集団を比較検証する必要もある」などとも提案しています。将来的に重要論点となることでしょう。
また、介護医療院については、徐々に介護療養型医療施設や介護老人保健施設などからの転換が進んでおり、今後の重要な介護保険施設類型となるため、その経営状態をしっかり把握する必要があります。ただし、「2018年度改定前後での経営状況比較が難しい(2017年度は介護医療院は存在せず、別の施設類型であり、報酬体系も当然ことなっていたため)」「データ数が少数にとどまる可能性がある」「転換に当たっての特別費用(設備整備、転換前の清算分など)を考慮しなければならない」といった要素があり、2019年度の概況調査では「参考資料」にとどまる可能性もあります(解析の結果判明する)。
近く開催される介護給付費分科会の了承を待って、今年(1019年)5月頃に調査を実施。年末(2019年12月)には解析結果が報告される見込みです。
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