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介護職員の【特定処遇改善加算】、算定ルールを柔軟化すべきか、経験・技能ある介護福祉士対応を重視すべきか―社保審・介護給付費分科会(1)

2020.11.10.(火)

介護職員のさらなる処遇改善を目指して、2019年度の介護報酬改定(消費税改定)で新設された【特定処遇改善加算】について、「より柔軟な算定ルール」とすべきか、「経験・技能のある介護福祉士への重点的な手当て」という考えを厳格に維持すべきか―。

より良いサービス提供を目指して介護福祉士等を多く配置する事業所・施設を評価する【サービス提供体制加算】について、より上位の区分を設けるとともに、財政中立の視点で下位区分の単位数を引き下げるべきか―。

11月9日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こういった議論が行われました。

【特定処遇改善加算】、いわゆる「2対1対0.5」ルールが高いハードルに

お伝えしているとおり、来年度(2021年度)に予定される介護報酬改定に向けた議論が大詰めを迎えています。11月9日の会合では、各サービスの共通・関連する「横断的事項」のうち▼感染症や災害対応力▼介護人材の確保・介護現場の革新▼制度の安定性・持続可能性の確保―について、具体的な見直し方向を探りました。今回も非常に多くの論点が提示されており、本稿では人材確保の中から「処遇改善」に注目してみます。他の事項については別稿で報じます。

●2021年度介護報酬改定に向けた、これまでの議論に関する記事●
【第1ラウンド】

▽横断的事項▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)

▽訪問系サービス(▼訪問看護訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)

▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)介護老人保健施設(老健)介護医療院・介護療養型医療施設—)

【第2ラウンド】
▽横断的事項
(▼人材確保、制度の持続可能性自立支援・重度化防止地域包括ケアシステムの推進―)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型訪問介護、看護小規模多機能型訪問介護(以下、看多機)認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護・認知症対応型通所介護、療養通所介護通所リハビリテーション、福祉用具・住宅改修短期入所生活介護、短期入所療養介護―)

▽訪問系サービス(▼訪問看護訪問介護、訪問入浴介護訪問リハビリ、居宅療養管理指導居宅介護支援(ケアマネジメント)―)

▽施設サービス(▼介護医療院・介護療養型医療施設介護老人保健施設、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)短期入所生活介護、短期入所療養介護―)

▽横断的事項(その2)(▼地域包括ケアシステムの推進▼自立支援・重度化防止の推進(関連記事はこちら(ADL維持等加算)こちら(認知症対策、看取り対応、科学的介護など)―)

▽実態調査(▼介護事業経営処遇改善―)



我が国人口のボリュームゾーンとなっている、いわゆる団塊の世代が2022年度から75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上に到達します。また2025年度から2040年度にかけて高齢者の増加ペース自体は鈍化しますが、現役世代人口が急速に減少していくことが分かっています。こうした「少子高齢化」の進行により、今後、介護保険制度の基板が非常に脆くなっていきます。

とりわけ「介護提供体制の確保」が大きな問題となり、介護人材の確保・定着が最重要テーマの1つとなり、厚生労働省は▼介護職員処遇改善加算(2012年度改定で、介護職員処遇改善交付金を受けて創設され、その後、順次拡充)▼特定処遇改善加算(2019年度改定で創設、主に勤続年数の長い介護福祉士の処遇改善を目指す)―という2つの加算で「賃金・給与の引き上げ」を狙っています。

後者の【特定処遇改善加算】は、後述する【介護職員処遇改善加算】の上位3区分(加算(I)、加算(II)、加算(III))を取得する事業所(高額の賃金改善を行い、職場環境の整備が十分行われている)において、主に「勤続10年以上の介護福祉士」を対象にさらなる処遇改善を狙うものです。しかし、厚労省の調査では「加算取得のベースがある(【介護職員処遇改善加算の上位3区分を取得している】)にもかかわらず、4割弱(36.7%)の事業所では【特定処遇改善加算】を取得していない」ことが分かりました。その大きな理由として、▼職種間の賃金バランスがとれなくなる▼賃金改善の仕組みを設けるための事務作業が煩雑である—ことが明らかになっています。

特定処遇改善加算の概要2(2019年度介護報酬改定)



こうした状況を踏まえて厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は「賃金額改善に係るルール(いわゆる2対1対0.5ルール)を柔軟化してはどうか」と提案しています。

【特定処遇改善加算】を取得する際には、「主に勤続10年以上の介護福祉士」の処遇を改善するという趣旨を損ねないために、▼勤続10年以上の介護福祉士等▼その他の介護職員▼それ以外のスタッフ―の賃金改善額を「2対1対0.5」の範囲に収めることが求められています。しかし、精緻な賃金テーブルを設けている先進的な介護事業所・施設では、かえってこの「「2対1対0.5」ルールが足枷となり、「賃金体系を守るために、あえて【特定処遇改善加算】を取得しない」ケースもあるのです。

特定処遇改善加算の概要1(2019年度介護報酬改定)



そこで眞鍋老人保健課長は、「『勤続10年以上の介護福祉士等の賃金改善額』 > 『その他の介護職員の賃金改善額』 > 『それ以外のスタッフの賃金改善額』」という柔軟なルールに変更することを提案しているのです。

これにより、介護事業所・施設の裁量幅が大きくなり、「既存の賃金テーブルを崩さずに、【特定処遇改善加算】を活用した賃金改善が可能になる」と期待されることから、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)や東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)、今井準幸委員(民間介護事業推進委員会代表委員)ら多くの委員がこの方向を歓迎しています。

ただし、2019年度に導入されたばかりの加算であり「見直しは拙速ではないか」という声も小さくありません。安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)や藤野裕子委員(日本介護福祉士会常任理事)、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)、河本滋史委員(健康保険組合連合会理事)らは「経験・技能のある介護福祉士の定着を目指す」という目的が損なわれてしまうのではないか、とも危惧しています。

両者の意見ともに頷ける部分が多くあり、さらに議論を深める必要があるでしょう。



あわせて2019年度改定時にも論点となった「経験・技能のある介護職員が多い事業所や職場環境が良い事業所をより精緻に把握する方法」についても、来年度(2021年度)改定で何らかの工夫が行われる見込みです。

現在は、「勤続10年以上の介護福祉士」配置を確認する方法がなく、当然、データも存在しないことから、代替手法として「介護福祉士配置等を要件とする【特定事業所加算】などの取得」を見て加算の付与が行われていますが、例えば【特定処遇改善加算】の取得要件に「自施設における勤続10年以上の介護福祉士の配置状況の報告を求める」ことなどを盛り込み、そのデータを踏まえて2024年度の次期改定で精緻な要件化を行う、ことなどが考えられそうです。江澤委員は「経験・技能のある介護職員の配置状況に応じた加算とすべき」と提案しています。

「職場環境等要件」、現在・将来の取り組みを評価対象へ

また【特定処遇改善加算】と【介護職員処遇改善加算】の双方の要件に盛り込まれている「職場環境等要件」についても見直しが行われます。

賃金等の改善は介護人材の確保・定着に向けて非常に大きな要素となりますが、「給与・賃金が高い」だけでは人材は集まりません(集まったとしても定着しない)。やはり「働きやすい」「キャリアアップができる」などの環境が整っていることが、とりわけ「人材定着」には重要となるのです。

このため【特定処遇改善加算】と【介護職員処遇改善加算】には、▼資質の向上(働きながら介護福祉士資格を取得可能となるような支援など)▼労働環境・処遇改善(子育てと仕事の両立や腰痛予防、職場内コミュニケーションの円滑化、健康診断など)▼その他(経営理念の明確化、非正規から正規雇用への転換など)―の「職場環境等要件」が盛り込まれているのです。

職場環境等要件の概要(介護給付費分科会(1)1 201109)



前者の【特定処遇改善加算】では、職場環境等要件について「複数の取り組みを行っている」ことが求められています。例えば「働きながら介護福祉士資格を取得可能となるように研修受講費を一部支援する」とともに「腰痛予防」のためのロボットを導入する、「非正規雇用から正規雇用への転換」を進めると同時に「定期ミーティング・会議によるコミュニケーション確保」を図る、などです。

この「職場環境等要件」について眞鍋老人保健課長は、次の2つの見直しを行ってはどうかと提案しています。

(1)「過去に行った取り組み」ではなく「当該年度における取り組み」の実施を求める
(2)介護現場に長く働き続ける環境整備を進めるために、項目の見直しを行う

(1)は、【介護職員処遇改善加算】において、加算(I)(II)では「2015年4月以降に実施した取り組み」、加算(III)(IV)では「2008年10月以降に実施した取り組み」を実績として認めていますが。「過去の取り組み」ではなく、「現在および将来(加算を取得する当該年度)」の取り組みのみを実績としてカウントする方向へ見直すものです。「より働きやすい職場環境の確保」を目指すもので伊藤委員や小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会理事)ら多くの委員がこの方向に賛同しています。

また(2)は、「職場環境等要件」の項目について、例えば▼職員の採用や、定着支援に向けた取り組み▼職員のキャリアアップに資する取り組み▼両立支援(子育てと仕事など)に関する課題や、腰痛を含む業務に関する心身の不調に対応する取り組み▼生産性向上につながる取り組み▼仕事へのやりがいの醸成や、職場のコミュニケーションの円滑化等による勤務継続を可能とするような取り組み―などがより促進されるような見直しを行うものです。例えば、これらの項目を「選択必須」としたり、あるいは「項目の重みづけ」を行うことなどが考えられるでしょう。

河本委員らは、この見直し案を歓迎するとともに、「各項目1つ以上の実施を求めるなどの厳格化も検討すべき」と提案しています。

介護職員処遇改善加算の(IV)と(V)、廃止の方針を再確認

また従前からの【介護職員処遇改善加算】のうち、加算(IV)と加算(V)については2018年度の前回介護報酬改定で「廃止」の方向が固められています。ただし、より上位の加算(加算(I)(II)(III))への移行・転換を促進することとされ、現時点では経過的に「継続」となっています。

眞鍋老人保健課長は、社会保険労務士の事業所派遣などによって「上位加算への転換が進んでいる」状況を説明したうえで、「廃止方針」を再確認しています。

依然として加算(IV)(V)を算定する事業所が存在する(700事業所強)ために、一定の経過措置が設けられますが、「前回改定から、現在までに廃止が実現していない」状況なども踏まえて「比較的短い期間の経過措置」にとどまると考えられます。

【サービス提供体制加算】に上位区分を設け、その分、下位区分の報酬を下げるべきか

眞鍋老人保健課長は、【サービス提供体制強化加算】において、「より介護福祉士割合が高い事業所」「勤続年数が長い事業所」に対する評価を財政中立を念頭に高くするなどの見直しを行ってはどうか、とも提案しています。

より質の高い介護サービスを提供する事業所・施設を評価するために、代替指標として「介護福祉士等の配置状況」に着目して加算の算定を可能とするものです。例えば通所介護では、▼介護福祉士割合50%以上の場合:18単位▼介護福祉士割合40%以上:12単位▼勤続3年以上のスタッフが30%以上の場合:6単位—と設定されています。

各サービスにおける【サービス提供体制加算】の概要(介護給付費分科会(1)2 201109)



ここに、より介護福祉士割合の高い加算区分(例えば、介護福祉士割合60%以上:20単位など)を設定するとともに、財政中立の視点で下位区分の加算単位数を引き下げる(例えば、勤続3年以上30%配置を4単位にするなど)というイメージです。

上位区分の創設は「より良いサービス提供を目指す」もので今井委員や東委員、河本委員らは歓迎していますが、「報酬体系が複雑になってしまう」(小泉委員)と慎重意見もあります。また岡島さおり委員(日本看護協会常任理事)からは「財政中立とした場合、専門スタッフ確保が難しい小規模事業所では収益減になってしまうので、一定の配慮をすべき」と、堀田聰子委員(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)からは「ストラクチャー評価からアウトカム評価に移行していくべき」との注文も付いています。

さまざまな意見が出ており、今後の議論・調整を見守る必要があるでしょう。

あわせて、【介護職員処遇改善加算】(算定率が非常に高い)で求められる項目と同趣旨の要件(研修実施、会議開催、健康診断)については、廃止する方向も示されています。



なお、介護人材確保に関しては「見守りセンサーを導入した場合の夜間人員配置の柔軟化」を進める提案などもなされており、別稿で見ていきます。

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