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がん基本計画の中間評価論議進む、腫瘍内科を新専門医制度サブスペ領域に位置付け正しい化学療法推進を―がん対策推進協議会

2021.12.8.(水)

本年度(2021年度)中に現在の第3期がん対策推進基本計画の中間評価を行い、来年度(2022年度)から第4期計画の策定論議に入る―。

中間評価では、第3期計画の進捗状況について検証等を行い、「第4期計画へのメッセージ」を打ち出すことになる。例えば「希少がん対策、難治がん対策の充実」「AYA世代がん対策(例えば妊孕性温存など)の充実」「エビデンスに基づいた高齢者のがん対策の在り方」「正しい情報提供性の推進」などが今後の重要課題になると思われる―。

がん治療の中でも「化学療法」について適切な推進が求められ、そこでは腫瘍内科医の育成・配置が極めて重要であるが必ずしも十分に進んでいるとは言えない。例えば、新専門医制度のサブスペシャリティ領域の中に「腫瘍内科」を位置づけるなどの対策を進める必要がある―。

12月3日に開催された「がん対策推進協議会」(以下、協議会)で、こういった議論が行われました。

2021年度に「第3期計画」の中間評価を終え、2022年度から第4期計画論議に入る

我が国のがん対策は、5年を1期とする「がん対策推進基本計画」に沿って実施されています。現在、2018-22年度を対象とする第3期計画が稼働しており、23年度からは新たな第4期計画にバトンタッチされます。

第4期計画では、「第3期計画での積み残し、課題」などを踏まえた改善が行われます。例えば「第3期計画では●●に取り組むことが重視され◆◆という目標値が設定されたが、目標達成ができなかった」という場合には第4期計画で「●●にさらに力を入れる」ことになるでしょう。また「第3期計画を進める中で、新たに〇〇という点に力を入れるべきことが判明した」という場合には第4期計画で「〇〇について取り組むこととし、◇◇を目標とする」という記載を盛り込むことになるでしょう。

こうした改善を行うためには「第3期計画の取り組み状況・目標達成状況を検証する」ことが必要不可欠です。ただし第3期計画の終了を待って効果等を評価し、それを踏まえて第4期計画を策定していたのでは、第3期計画と第4期計画との間に隙間が生じてしまいます。

そこで第3期計画の中間年に「中間評価」を行い、その結果を踏まえて第4期計画策定に向けた議論をしていくこととなっています。中間評価は2020年に行われる予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の大流行があったために2021年度に行うこととなっています。

協議会ではこれまで第3期計画の各項目について、「取り組むべき施策や目標」と「実績」との比較検証を行ってきています。前者(目標など)は計画に記載された内容、後者の実績は「がん登録・統計」や「患者体験調査」、「小児患者体験調査」「がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計報告書」などの各種統計資料から把握されました(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。

第4期がん対策推進基本計画策定に向けたスケジュール(がん対策推進協議会1 201016)

第3期がん対策推進基本計画の達成状況を評価(中間評価)するために140項目の評価指標が設定された(がん対策推進協議会2 201016)



12月3日には各項目の比較検証論議をベースにした「がん対策推進基本計画中間評価報告書(案)」が厚生労働省から提示され、これに基づく議論を行いました。山口建会長(静岡県立静岡がんセンター総長)は、今回(12月3日)と次回の2回の会合で次のような視点に立った議論を行う考えを示しています。

▽報告書の構成に問題はないか。例えば「重点的に取り組むべき課題」として医療従事者の育成や緩和ケアの推進などが掲げられている。いずれも重要な事項であるが、ほかにも小児・AYA世代のがん対策や希少がん対策なども重要で、そちらが「重点課題ではない」と誤解されはしないだろうか、などの問題点がある

▽報告書の内容について、協議会として「第4期計画ではこうした点を推進すべき」というメッセージを打ち出したい

▽第4期計画の策定に向けて、例えば「医療と共生とで項目の整理を行う」「がん患者の4割が75歳以上の後期高齢者である点等を踏まえ、高齢者のがん対策を特別項目の1つに位置づける」「正しい情報の均てん化」「個別患者のリスクに基づく予測医療の推進」などを検討していってはどうか

▽第4期計画の中間評価を見据えて、数値評価にとどまらない「質」の評価、評価指標のない分野(難治性がん、高齢者のがん対策)への指標設定、評価のベースとなるデータの整備(年間データにとどまらず、5年・10年単位のビッグデータでの検証が重要)などを提言していってはどうか



報告書の構成を見ると、大きく(1)全体目標の進捗状況(2)分野別施策の個別目標の進捗状況(3)がん対策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項—の3本柱が立てられています。

このうち(1)の全体目標に関して、報告書案では▼年齢調整死亡率は減少傾向にあるが、引き続き低減させ続けていくため、早期診断を含む予防や治療の改善について、対象を明確化し、改善手法の工夫を凝らしていく▼「患者本位のがん医療」の実現について一定の評価はできるものの、更なる充実を目指し、改善すべき領域を明確化し、その対策に取り組む▼がんの診断時から必要な支援を受け、病気や療養生活に関する相談支援や患者家族の悩みや負担に関する相談支援の体制整備に向けて相談支援センターやがん情報サービス等の更なる周知等を進める―などのメッセージが示されました。

これに対し、▼年齢調整死亡率は5大がん等のみならず、患者増が著しい「膵臓がん」などにも着目していくべきである(中釜斉委員:国立がん研究センター理事長、羽鳥裕委員:日本医師会常任理事、松田一夫委員:福井県健康管理協会副理事長・日本消化器がん検診学会監事、大西啓之委員:キュアサルコーマ理事長・日本希少がん患者会ネットワーク副理事長)▼がん患者の予後が良好になる中で、病院外のサポート(ピアサポートや職場でのサポートなど)を充実する方向も打ち出してはどうか(久村和穂委員:金沢医科大学医学部腫瘍内科学学内講師・日本サイコオンコロジー学会代議員)▼地域間・施設間の格差是正に向けた方策(例えばオンラインでの情報共有など)にも言及すべき(三上葉子委員:東京女子医科大学病院脳神経外科家族の会「にじいろ電車」代表)▼我が国のがん対策の効果を正確に把握するために、海外との比較(例えば大腸がん・乳がん・子宮頸がんなど世界的に検診が進んでいるがん種での比較)を行うべき(松田委員)—などの意見が出ています。全体目標の中で言及するのか、あるいは後述していく個別目標の中で言及するのかなどの振り分けを今後検討していくことになります。

希少がん・難治がん対策、高齢者のがん対策などを第4期計画において充実すべき

(2)の分野別施策について、12月3日の協議会では▼がん予防・がん検診の充実▼患者本位のがん医療の実現—を議題に据え、▼尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築▼基盤整備―は次回の検討テーマとなりました。

まずがん予防・がん検診の充実に関しては、多くの委員から「職域検診の精度管理」に関する意見が出ています。がん検診には、大きく「市町村検診」と「職域検診」がありますが、精度管理が行われているのは前者の「市町村検診」のみで、後者の「職域検診」については「法的根拠が十分でない」「十分な精度管理がなされていない」という問題点のあることが従前より指摘されています。厚労省では「職域におけるがん検診に関するマニュアル」作成・普及などを通じて精度向上方策を探っていますが、松田委員や羽鳥委員は「十分ではない。取り組みを一歩進める必要がある」と訴えています。早期発見・早期治療が極めて重要であり、第4期計画に向けた重要ポイントの1つになりそうです。

後者の「患者本位のがん医療」には、▼ゲノム医療▼手術療法、放射線療法、薬物療法、免疫療法の充実▼チーム医療の推進▼リハビリ▼支持療法▼希少がん、難治がん対策▼小児・AYA世代・高齢者のがん対策▼病理診断▼がん登録▼医薬品・医療機器の早期開発・小児など―といった幅広い項目が含まれています。

報告書案では、多くの項目について「成果が見られる、改善が見られる」と高評価をしていますが、例えば「希少がん対策について患者への情報提供や医療機関の連携を一層推進する必要がある」「難治性がん対策については、第3期基本計画で中間評価指標の設定がない。次期計画でどのような評価指標を用いることが可能か検討せよ」との厳しめのメッセージも打ち出しています。

これらの項目については、▼化学療法については、腫瘍内科医配置などが必ずしも十分とは言えない点を考慮すべき(石岡千加史委員:東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授・東北大学病院腫瘍内科長・日本臨床腫瘍学会理事長)▼小児がんでは希少がんも多く対策が遅れないように配慮すべき旨の考えを打ち出すべき(大賀正一委員:九州大学大学院医学研究院成長発達医学分野教授・日本小児・血液がん学会理事長)▼チーム医療について「地域での多職種連携」の重要性にも言及すべき(鶴岡優子委員:つるかめ診療所所長・日本在宅医療連合学会理事)▼標準治療について、時間の経過とともに古い内容となることも少なくない。エビデンスを踏まえて常に「新しい標準治療を作っていく」ことの重要性を強調すべき(土岐祐一郎委員:大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学教授・日本癌治療学会理事長)▼がんゲノム医療について、遺伝子変異が判明したが治療薬がないというケースが少なくない。医薬品の研究開発にさらに力を入れていくべき(中釜委員、土岐委員、山口会長)—といった意見が出ています。第4期計画に向けた協議会メッセージとして、報告書案の中に盛り込まれていきます。



協議会では、次回会合で残されたテーマ(▼尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築▼基盤整備―など)を議論し、本年度(2021年度)中に中間評価をまとめます。その後、来年度(2022年度)からは「第4期計画の策定」論議に入っていきます。

腫瘍内科を「新専門医制度のサブスペシャリティ領域」に位置付け、育成強化を

なお、がん化学療法の推進に向けては「腫瘍内科医の育成とがん診療連携拠点病院等への配置」が極めて重要ですが、「育成がなかなか進まない」点が大きな課題となっており、12月3日の協議会でも改めて議論が行われました。

日本臨床腫瘍学会の理事長である石岡委員は「地方大学の医学部には腫瘍内科やがん薬物療法を専門とする講座などがなく、医学生が腫瘍内科の存在を十分に意識・経験していない地域もある」と指摘。また土岐委員は「新専門医制度の中で腫瘍内科医の位置付けが明確でない」と石岡委員は「臓器横断的な医療提供が求められているが、新専門医制度のサブスペシャリティ領域にはそういった視点が十分でないようだ」と言及し、日本専門医機構の理事でもある羽鳥委員からは「私も同様の見解である。腫瘍内科がサブスペシャリティ領域として認められるよう、機構に伝える」考えを示しています(関連記事はこちら)。

山口会長も「腫瘍内科医が病院に配置されることで、標準治療の推進にとどまらず、その先の治験情報などにもアクセスしやすくなる。また副作用が生じた際に十分な知識を持ち、適切な対応を行うという点で最も詳しいのは腫瘍内科医である。均てん化が極めて重要である」とし、厚生労働省や文部科学省、日本専門医機構、学会、病院が「腫瘍内科医の育成と配置」に尽力していくことに期待を寄せています。



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