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GemMed塾 DPC特定病院群への昇格・維持のために今やるべきこと

依然「外国人患者を受け入れる医療機関の2割弱」で未収金発生、ごく一部だが「月間500万円超」の高額未収となるケースも―厚労省

2024.8.1.(木)

我が国を観光等で訪れた外国人患者が、傷病にあい、医療機関を受診する場合、通訳等に要するコストを考慮し「1点を15円、20円」などとして医療費を請求することが医療機関判断で自由に行えるが、ほとんどの医療機関は「1点10円」のままで費用請求を行っている—。

また、ほとんどの病院では、請求可能な「通訳費用」を請求していない―。

外国人患者を受け入れた実績のある医療機関の2割弱で未収金が発生しており、ごく一部ではあるものの「月間500万円を超える」大きな未収金が発生するケースもある―。

厚生労働省が7月31日に公表した2023年度の「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」結果から、こういった状況が明らかになりました(厚労省サイトはこちら(概要版)こちら(報告書))(2022年度の調査結果に関する記事はこちら)。

歴史的円安など背景に外国人患者も増加、半数超の病院が「外国人患者の受け入れ」

歴史的な円安などを背景に、本邦を訪れる外国人旅行者が非常に多くなっています。外国人旅行者が増えれば、必然的に、傷病で医療機関を受診する外国人旅行患者(以下、外国人患者)も増加します。その際、外国人患者側には「どの医療機関に行けば良いのかわからない」、医療機関側には「言語対応はどうすればよいのか、費用請求はどのように行えばよいのか迷ってしまう」などのさまざまな疑問が生じます。

こうした疑問を解消し、外国人患者が安心して医療機関にかかれるよう、また医療機関側が安心して外国人患者を受け入れられるような体制整備に向けて、▼外国人患者を受け入れる医療機関リストの作成▼医療機関に向けた外国人受け入れに関するマニュアルの整備(患者が保険に加入しているかなどを事前に確認するとともに、事前に概算費用を提示するなどの重要性を指摘)▼費用負担について、「通訳等に係る費用は実費請求できる」「診療費は自由診療として医療機関が価格を設定できる」ことなどを明らかにする―などの取り組みが行われています(関連記事はこちらこちら)。

厚労省は毎年度、医療機関側の取り組み状況(外国人患者受け入れ体制、受け入れ実態)を調査・公表しており、今般、昨年度(2023年度)の状況が明らかにされました。全国の5000超の病院と、京都府・沖縄県の1500超のクリニックが回答しています。

まず「昨年(2023)年9月における外国人患者を受けた実績」を見てみると、全国の病院の54.3%が「受け入れ実績あり」と回答しています(前年度調査よりも4.3%増加)。受け入れ患者数は「10人以下」が多くなっていますが、1000人を超える病院も一部にあります。

外国人患者受け入れ実績’(2023年度外国人患者受け入れ実態調査1 240731)



また、厚労省の「外国人患者受入れのための医療機関向けマニュアル」について、全国の病院における認知度を見ると、▼内容を知っている:40.8%(前年度から9.0ポイント増)▼名前は知っているが、内容は知らない:39.8%(同7.7ポイント減)▼知らない:19.4%(同1.3ポイント減)—となりました。マニュアルが徐々に医療現場に浸透してきていることが伺えますが、さらなる周知・広報に期待が集まります。

医療機関向けマニュアル等の認知度(2023年度外国人患者受け入れ実態調査2 240731)



また、マニュアル以外の「厚労省による外国人患者受け入れ事業」の認知度(内容を知っている+名前は知っている)を見ると、▼希少言語に対応した遠隔通訳サービス:69.9%(前年度から0.5ポイント減)▼医療機関における外国人対応に資する夜間・休日ワンストップ窓口:54.9%(同0.9ポイント増)▼外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修:55.2%(同0.6ポイント増)▼外国人向け多言語説明資料一覧:58.5%(同0.8ポイント増)▼外国人患者受け入れ情報サイト:52.0%(同4.9ポイント増)▼訪日外国人受診者医療費未払情報報告システム:48.1%(同2.5ポイント増)▼外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP):28.6%(同3.0ポイント増)—となっています。少しずつ認知度が高まっていますが、やはりさらなる周知・広報が必要な状況が伺えます。

医療機関向けマニュアル等の認知度(2023年度外国人患者受け入れ実態調査2 240731)

JMIPもしくはJIH認証医療機関で「外国人患者の受け入れ」体制が充実

次に、外国人患者の受け入れ体制を見ると、次のようになっています。

【自院における外国人患者の受診状況を把握しているか】
▽病院全体:詳しく把握11.2%(前年度から0.4ポイント減)、大まかに把握51.7%(同1.1ポイント増)、把握していない37.1%(同0.7ポイント減)
▽拠点的医療機関:詳しく把握12.2%(同0.6ポイント増)、大まかに把握55.7%(同0.5ポイント減)、把握していない32.1%(同0.1ポイント減)
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:詳しく把握74.1%(同3.5ポイント減)、大まかに把握22.2%(同0.2ポイント減)、把握していない3.7%(同3.7ポイント増)

【外国人患者の受入れ体制の現状を把握し、課題を抽出しているか】
▽病院全体:実施7.1%(同1.4ポイント減)、実施を検討中4.6%(同4.6ポイント増)、未実施88.2%(同3.3ポイント減)
▽拠点的医療機関:実施23.9%(同0.3ポイント減)、実施を検討中6.2%(同6.2ポイント増)、未実施70.0%(同5.8ポイント減)
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:実施92.6%(同3.9ポイント減)、実施を検討中2.5%(同2.5ポイント減)、未実施4.9%(同1.4ポイント減)

【自院で「外国人患者受入れ体制整備方針」を策定しているか】
▽病院全体:整備完了4.1%(同0.1ポイント増)、作成中8.2%(同0.4ポイント減)、未整備87.6%(同0.1ポイント増)
▽拠点的医療機関:整備完了19.5%(同2.4ポイント増)、作成中15.3%(同2.1ポイント減)、未整備65.2%(同0.2ポイント減)
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:整備完了90.1%(同0.5ポイント減)、作成中6.2%(同0.9ポイント減)、未整備3.7%(同1.3ポイント増)

【外国人対応マニュアルを整備できているか】
▽病院全体:整備完了5.4%(同0.2ポイント増)、整備中8.1%(同0.2ポイント減)、未整備86.4%(同0.1ポイント減)
▽拠点的医療機関:整備完了22.8%(同2.0ポイント増)、整備中15.2%(同1.3ポイント減)、未整備62.0%(同0.7ポイント減)
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:整備完了90.1%(同1.7ポイント減)、整備中4.9%(同0.2ポイント増)、未整備4.9%(同1.4ポイント増)

外国人患者に対する体制整備状況(2023年度外国人患者受け入れ実態調査3 240731)



拠点的医療機関は「各都道府県で、外国人患者の受け入れ等を積極的に行ってもらうとして指定された医療機関」、JMIP認証医療機関は「日本医療教育財団が運営する外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)の認証を受けた医療機関)」、JIH認証医療機関は「Medical Excellence JAPANにより、渡航受診者の受け入れに意欲と取り組みのある病院として推奨されている医療機関」をさします。JMIPもしくはJIH認証医療機関で「外国人患者を受け入れる体制、取り組み」が進んでいることが伺えます。拠点的医療機関には「さらなる取り組み」に期待したいところでしょう。なお、本調査への回答は任意であるため、「2022年度と23年度との厳密な比較」を行うことは困難です(回答施設が異なっている)。

また、外国人患者受入れ医療コーディネーターの配置・業務の状況を見ると、上記と同じように「JMIPもしくはJIH認証医療機関で配置等が進んでいる」ことが分かりました。コーディネーターの役割としては、▼患者や患者家族とのコミュニケーション▼自身による通訳の実施▼院内の部署・職種間の連絡調整▼外国人患者対応に特有の院外関係者との連絡調整—など、幅広いものとなっています。

「外国語対応可能な医療機関」が1か所以上整備される2次医療圏が、やや減少

次に、2次医療圏における多言語対応(医療通訳・電話通訳・ビデオ通訳・自動翻訳デバイス等)の状況を見ると、▼医療通訳者が配置された病院がある2次医療圏:139(全体の41.5%、前年度から19医療圏・5.7ポイント減)▼電話通訳が利用可能な病院がある2次医療圏:212(同63.3%、同23医療圏・6.8ポイント減%)▼ビデオ通訳が利用可能な病院がある2次医療圏:108医療圏(同32.2%、同5医療圏・1.5ポイント減)▼外国人患者の受け入れに資するタブレット端末・スマートフォン端末等を医療機関として導入している病院がある2次医療圏:284315(同84.8%、同31医療圏・9.2ポイント減)▼前述のいずれかが利用可能な病院がある2次医療圏:290328(同86.6%、同38医療圏・11.3ポイント減)—となっています。

多言語化対応状況(2023年度外国人患者受け入れ実態調査4 240731)



多くの2次医療圏で「何らかの外国語対応が可能な病院」が存在している状況ですが、前年度調査結果から「外国語対応可能な病院がある2次医療圏が減少している」点が気になります。継続して状況を注視していく必要があります。

なお、すべての医療機関で外国語対応を求めることは非現実的です。外国語対応が難しい医療機関では、外国人患者が来院し「自院では対応が困難(外国語に対応できない)である」と判断した場合には、2次医療圏内の「外国語対応が可能な医療機関」を紹介することに期待が集まります。

外国人患者の診療費、通常と同額とするところが多く、通訳費請求はごく一部にとどまる

次に、注目される「外国人患者の診療費用」を見てみると、次のように「診療報酬点数表に沿い、1点単価(通常は10円)を割り増す形」をとっている病院が一部にあるものの、多くの病院では「通常と同様に1点単価=10円」の診療費を徴収していることが分かります。

【1点あたり「20円超」とする】(通常の2倍)
▽病院全体:2.5%(前年度から0.2ポイント増)
▽拠点的医療機関:8.2%(同0.3ポイント増)
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:39.5%(同3.4ポイント減)

【1点あたり「15円超20円以下」とする】(通常の1.5倍以上2倍未満)
▽病院全体:4.8%(同増減なし)
▽拠点的医療機関:9.7%(同0.7ポイント増)
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:29.6%(同5.8ポイント増)

【1点あたり「10円超15円以下」とする】(通常より高く1.5倍未満)
▽病院全体:7.3%(同0.1ポイント減)
▽拠点的医療機関:8.1%(同0.1ポイント減)
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:2.5%(同2.3ポイント減)

【1点あたり「10円以下」とする】(通常と同額)
▽病院全体:85.4%(同0.2ポイント減)
▽拠点的医療機関:74.0%(同0.8ポイント減)
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:28.4%(同0.2ポイント減)

(再掲)【1点あたり「10円超」とする】(通常よりも高い診療費を設定)
▽病院全体:14.6%(同0.1ポイント増)
▽拠点的医療機関:26.0%(同0.9ポイント増)
▽JMIPもしくはJIH認証医療機関:71.6%(同0.1ポイント増)

外国人患者の診療価格(2023年度外国人患者受け入れ実態調査5 240731)



我が国の医療保険に加入していない外国人患者の診療は「自由診療」となり、その費用は医療機関が独自に設定することになります。その際、個々の医療機関で「通訳のコストとしてどの程度かかるか」「診療時間が通常よりもどの程度増えるのか(外国語対応、医療制度の違いの説明などで通常患者よりも多くの時間を割くケースが増える)」などを勘案して設定することが原則です。拠点医療機関やJMIP(日本医療教育財団の認証)・JIH(Medical Excellence JAPANの認証)登録医療機関では、外国人患者へ対応する体制を充実させており、その分、多くのコストを単価に上乗せする必要があると考えていることが分かります。

ところで、国などが「外国人患者では1点●円での診療が望ましい」などの基準を示すことは、公正な取り引きに反するため、なされません。



なお、診療費以外に「通訳費」を請求する医療機関はわずか2.2%にとどまっています(前年度から増減なし))。厚労省は2019年3月28日に通知「社会医療法人等における訪日外国人診療に際しての経費の請求について」を発出し、「外国人患者への診療において医療通訳を活用した場合、その費用を患者に請求することが可能である」旨を明確にしていますが、この内容を知らない医療機関も存在する可能性があり、留意・確認が必要です(関連記事はこちらこちらこちら)。

医療通訳の費用(2023年度外国人患者受け入れ実態調査6 240731)

外国人患者受け入れ医療機関の2割弱で未収金発生、一部に月500万円超の未収金も

さらに、外国人患者においては言葉の壁、慣習の違いなどから、「未収金の発生」も問題視されています。今般の調査では、▼外国人患者受け入れ実績のある病院(2813施設、全体の54.3%)のうち、18.3%で「未収金」が発生した(前年度から1.6ポイント減)▼月間の未収金発生件数は「5件以下」が多いが、一部に「31件以上」というところもある▼月間の未収金総額は「1万円以下」が多いが、一部に「500万円超」というところもある▼1件当たり未収金額は「1万円以下」が多いが、一部に「100万円超」というところもある—ことが分かりました。未収金発生の状況は、前年度調査から大きく変わっていません。

未収金発生状況(2023年度外国人患者受け入れ実態調査7 240731)



未収金は病院経営を圧迫する大きな問題です。この点、「外国人患者受入れのための医療機関向けマニュアル」では、未収金発生防止のために、例えば▼外国人患者が海外旅行保険に加入しているか、また「これから実施する治療が当該保険でカバーされるか」の保険会社への確認をとったか、などを医療機関で事前にしっかりと確かめる▼医療費(概算)の事前説明を丁寧に行う―ことなどが重要とアドバイスしています(関連記事はこちら)。



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