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1人当たり医療費の伸びの鈍化、総報酬割の拡大などで協会けんぽは4987億円の黒字―全国健康保険協会

2017.7.10.(月)

 昨年度(2016年度)の協会けんぽの医療分の収支は4987億円の黒字となり、7年連続の黒字決算となった。また不測の事態に備えるための準備金は1兆8086億円で、保険給付費の2.6か月分を確保できている―。

 協会けんぽを運営する全国健康保険協会が7日に発表した、2016年度の「協会けんぽの決算見込み(医療分)について」から、このような状況が明らかになりました(2015年度の状況はこちら)(協会のサイトはこちらこちら(概要))。

2016年度には、健保法で定められている「準備金を保険給付費などの1か月分以上」(法160条の2)という規定を大きく上回る2.6か月分の準備金が備えられている

2016年度には、健保法で定められている「準備金を保険給付費などの1か月分以上」(法160条の2)という規定を大きく上回る2.6か月分の準備金が備えられている

収入は前年度から4.1%、支出は1.4%増加し、7年連続の黒字決算

 協会けんぽは、主に中小企業のサラリーマンとその家族が加入する公的医療保険です。

 昨年度(2016年度)の決算(医療分、見込み)を見ると、収入は9兆6220億円で、前年度に比べて3802億円・4.1%の増加となりました。一方、支出は9兆1233億円で、前年度に比べて1268億円・1.4%増加しています。この結果、2016年度の収支差は4987億円の黒字で、黒字幅は前年度に比べて2534億円増加しています。

 協会けんぽは、2009年度に5000億円近い赤字決算に陥り、財政を回復させるために▼国庫補助割合の16.4%への引き上げ▼保険料率の引き上げ(現在は10.00%)▼後期高齢者支援金計算における、段階的な総報酬割の導入(これにより支援金負担、つまり支出が減少する)―などの特別措置が行われました。

 これらの特別措置や、後発医薬品の使用推進などといった協会自身の取り組み、さらには賃金水準の上昇などによって、協会けんぽの財政は2010年度から黒字に転換。今般で7年連続の黒字決算となりました。

 また大災害などが発生し、収入が大幅に減少し、一方で医療給付支出が急増するような不測の事態に備えるために積み立てが義務付けられている準備金は、2016年度には1兆8086億円に膨らむ見込みで、これは保険給付費などの2.6か月分に相当します。

2016年度、協会けんぽの医療分収支は4987億円の黒字となり、準備金は1兆8086億円に達した

2016年度、協会けんぽの医療分収支は4987億円の黒字となり、準備金は1兆8086億円に達した

被保険者増や制度改正、賃金水準増によって収入が増加

 2016年度に収入が増加した主な要因について、全国健康保険協会では▼被保険者数の増加(前年度に比べて3.5%増)▼賃金(標準報酬月額)の増加(同1.1%増)―の2点をあげています。ただし後者については、「制度改正(標準報酬月額の上限引き上げ)の影響も大きく、被保険者の賃金水準が上がったことだけが要因ではないことに留意が必要」とコメントしています。

 また、後期高齢者支援金の計算方法変更(総報酬割部分が従前の2分の1から3分の2に拡大した)などによって、国庫補助における加入者割相当額が減少(逆に従前の2分の1から3分の1に縮小)していますが、国庫補助の対象となる保険給付費(総額、後述)が増加したことから、国庫補助額は全体で82億円増加しました。

ハーボニーなどの影響が去り、1人当たり医療費の伸びは鈍化

 2016年度には収入ほどではないものの、支出も増加しています。この要因について協会では「加入者の増加により、保険給付費総額が前年度から1790億円増加した」ことが大きいと分析しています。ただし、加入者1人当たりの医療費(給付費)は、2016年度に行われた診療報酬本体のマイナス改定、薬剤費の伸びの鈍化によって「1.1%増」に抑えられています(前年度は4.4%増)。

2015年度には、高額なC型肝炎治療薬のハーボニーやソバルディの影響によって薬剤費、医療費が大きく伸びましたが(関連記事はこちら)、これら薬剤には「完治」という効果が期待でき、急激な伸びは終息したものと考えられそうです。もっとも超高額な抗がん剤のオプジーボやキイトルーダは、さらに適用が拡大される見込みであり、これらに伴う薬剤費、医療費増には今後も注視していかなければなりません(関連記事はこちら)。

 なお、支出におけるもう一つの大きな要素である「高齢者医療にかかる拠出金(総額)」は、▼総報酬割の拡大(前述)▼退職者医療制度の新規適用の終了▼精算による2014年度の概算納付分の戻り—などによって494億円・1.4%減少しています。しかし協会では「一時的な複数の要因が重なったことによる減少」であり、今年度(2017年度)以降、「再び増加に転じる」と予想しています。

準備金は1兆8086億円、保険給付費などの2.6か月分を確保しているが・・・

 収入・支出の双方が伸びた結果、2016年度には7年連続の黒字決算となり、不測の事態に備えるための準備金はさらに積み増しされて、1兆8086億円となりました。保険給付費などの2.6か月分に相当します。

 健康保険法では、協会けんぽに対して「保険給付費や拠出金などの1か月分」を準備金として積み立てることを求めており(法第160条の2)、この指示は現時点では、十分クリアできています。(大きく上回っている)できていることになります。

 こうした財政安定状況を踏まえると、「限界」と指摘されて久しい保険料水準についても見直し(引き下げ)を求める声が出てきそうですが、今後も医療費が増加していく状況に鑑みれば、保険料率の引き下げは難しいと言わざるを得ないでしょう。また、2018年度の診療報酬改定についても「保険財政が安定しており、プラス改定を行うべきではないか」との指摘も出てくると考えられますが、国の財政全体(関連記事はこちらこちら)、2025年に向けた急激な高齢化とそれに伴う医療費増)、今年度に行われる国民の負担増(高額療養費や高額介護サービス費の見直し、高額所得者に対する介護保険の自己負担3割導入)などを考慮すれば、財政当局などは「厳しい改定」を強く求めてくるものと思われます。

2003年度の賃金、診療報酬の水準をそれぞれ1とすると、賃金は横ばいなのに、診療報酬は依然として高い水準にあり、協会けんぽは「赤字構造は変わっていない」と主張し、プラス改定論議を牽制している

2003年度の賃金、診療報酬の水準をそれぞれ1とすると、賃金は横ばいなのに、診療報酬は依然として高い水準にあり、協会けんぽは「赤字構造は変わっていない」と主張し、プラス改定論議を牽制している

 

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