「病棟の機能」にとどまらず、「病院の機能」も踏まえた診療報酬が必要—日病・相澤会長
2017.8.28.(月)
地域包括ケア病棟の機能には「急性期後の患者受け入れ」(いわゆるpost acute)と「在宅患者が急変した場合の受け入れ」(いわゆるsub acute)とあり、双方とも重要な機能である。500床以上の大病院などでは、地域包括ケア病棟を1病棟しか設置できない制限があるが、地域によっては、1病棟のみで双方の機能を果たせないケースもあるのではないか。病院の機能・病棟の機能について一度、きちんと整理した上で、診療報酬の在り方を議論してく必要がある—。
日本病院会が28日に開催した定例記者会見で、相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)はこういった考えを明らかにしました(関連記事はこちら)。
「入院基本料とは何か」、時間をかけて議論する必要がある
相澤会長は、日病会員から「中央社会保険医療協議会の議論を見るにつけ、2018年度の診療報酬改定を受けて医療提供を継続できるのか不安になる」との声が数多く上がっていることを紹介。例えば、▼地域包括ケア病棟の設置制限▼医師の働き方改革▼超過勤務手当—などにより、地域の急性期基幹病院がその機能を果たすことが難しくなっているとの悲鳴が上がっているといいます。
そうした中で、日本の医療を守るために大きく2つ点を考えていかなければいけないと相澤会長は提案します。
1つ目は「国民にも、病院へのかかり方を考えてほしい」という点です。例えば、「平日は病院の外来が混んでいる」とし、必要性が低いにも関わらず休日、夜間に、しかも救急車を使って受診する患者がすくならからずいます。こうした意識を改革してもらわなければいけない、と相澤会長は訴えています。
2つ目は、「病院・病棟の機能をどう考えるのか」という点です。地域医療構想の実現に向けて、「病棟ごとの機能分化」が進められていますが、その場合「病院の機能」はどうなるのか、という疑問・不安が医療現場にあります。相澤会長は、「国民から見て『この病院(病棟でなく)はどういう機能を持っている。私の傷病はこういう状態なので、この病院にかかればよいのか』という点を分かりやすく示す必要があるのではないか」との考えを示しました。医療関係者だけでなく、国民も交えた議論をしっかり行う必要があると相澤会長は訴えます。
とくに後者について相澤会長は「入院基本料とは何か」に遡った、根本的な議論を行うべきとの考えを示しています。現在、中医協などで7対1病棟の施設基準、とくに重症度、医療・看護必要度に関する論議が進められていますが、「本来は看護配置ではなく、どれだけ重症の患者を受け入れているのかなどによって入院基本料を評価すべき」との考えを示しました。この点、中医協の下部組織では、厚労省が2000年度診療報酬改定における【入院基本料設置の経緯】に遡った、根本的な議論が行う姿勢を示しており(関連記事はこちら)、相澤会長はこの動きを高く評価していると考えられます。
もっとも、2018年度の次期診療報酬で、こうした大改革が行われれば医療現場がさらに混乱してしまうため、「時間をかけて、『入院基本料とは何か』から、しっかり議論したい。拙速に進めれば、2025年までそれを引きずってしまうことになる」とも付言しています。
地域包括ケア病棟、「地域の実情を踏まえた設置」を認めるべき
「病院の機能」に関連して相澤会長は、「地域包括ケア病棟の在り方」にも言及しています。地域包括ケア病棟には、▼急性期後の患者受け入れ(posu acute)▼在宅復帰▼在宅患者の緊急時の受け入れ(sub acute)―の3つの機能を持つことが求められますが、7対1などの急性期病院における地域包括ケア病棟と、慢性期病院に設置された地域包括ケア病棟では、自ずと役割が変わってくることでしょう(前者では急性期後患者の受け入れが主となり、後者では緊急時の受け入れが多くなる)。
また500床以上の大病院やICUなどを設置する病院では、地域包括ケア病棟は1病棟しか設置することができません(従前から地域包括ケア病棟を複数設置する病院は除く)。しかし、この1病棟で上記の3機能を併せ持つことは難しいのではないかとの指摘もあります。
この点について相澤会長は、「日病内で緻密な意見のすり合わせができていない」と前置きをした上で、「地域の実情を踏まえ、それに合わせて地域包括ケア病棟の設置を選択する方向で議論してはどうか」との考えを示しています。例えば、高度急性期から慢性期までのすべての機能を1つの基幹病院が担わなければならない地域では、複数の地域包括ケア病棟を設置することが切望されているケースもあります。こうした地域それぞれの事情を勘案し、「地域全体で医療提供体制を考えていく必要がある」と相澤会長は述べています。
なお、地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長も24日の記者会見で同様の考えを述べ、「大病院が複数の地域包括ケア病棟設置を希望する場合には、地域医療構想調整会議で協議してはどうか」との見解を示しています(関連記事はこちら)。相澤会長も、「調整会議において皆で、地域の医療提供体制のあり方を考える必要がある」と述べるとともに、「『診療報酬では地域医療構想調整会議のことは知らない』となってはいけない。地域全体でバランスのよい医療提供体制が構築できるように診療報酬も変わっていくとよい」とコメントしています。
さらに、地域の医療提供体制を考える上では、入院医療にとどまらず、外来医療も含めた「地域全体の医療機能を、住民を交えて考えていく時期に来ている」と相澤会長は指摘します。
このように見ると、個別に「7対1の施設基準をどうするべきか」「地域包括ケア病棟の設置を何病棟まで認めるか」といった議論をする前に、「地域においてどのような医療提供体制を構築するのか」を考える必要があるでしょう。地域医療構想の実現をはじめとする医療提供体制改革は厚労省医政局が所管し、診療報酬については厚労省保険局が所管しています。2018年度には、新たな医療計画のスタート(第7次医療計画)、診療報酬・介護報酬の同時改定、国民健康保険の都道府県単位化などが行われる重要な節目であるからこそ、行政・医療関係者・住民が垣根を越えて、「病棟の機能」にとどまらず、「病院の機能」も見据えた議論を行うことが期待されます。
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