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卒後6年以上の医師を対象に、2018年度から「病院総合医」養成開始—日病

2017.7.24.(月)

 多くの病院で求められている「病院総合医」を日本病院会として認証する制度について、来年4月からの運用開始を目指した検討を進めている。卒後6年以上の医師を対象として、▼医療安全▼感染対策▼栄養サポートチーム—などのチーム医療の実施や、地域医療全般に配慮できる能力などを2年間の研修期間で身に着けてもらうことを想定している—。

日本病院会が24日に開いた定例記者会見で、末永裕之副会長(小牧市民病院病院事業管理者)がこういった構想を明らかにしました。

また相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)からは、「公的医療機関などに『改革プラン』の策定が求められることになるが、それを地域医療構想調整会議(以下、調整会議)における本質的議論のきっかけにしてほしい」との考えが示されています。

7月24日に定例会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(向かって右)、末永裕之副会長(中央)、丸山嘉一氏(向かって左)

7月24日に定例会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(向かって右)、末永裕之副会長(中央)、丸山嘉一氏(向かって左)

将来の幹部候補ともなる「病院総合医」を養成、各病院団体とも連携

 中小病院では人手不足の中で「総合的な診療を行える能力を持つ医師」の確保が急務とされ、大病院においても「専門診療科の隙間に陥ってしまいがちな、複数疾病を持つ高齢者に総合的な診療を提供できる医師」の確保が求められています。日病では、前堺会長時代から、こうした能力を持つ医師を、「病院総合医」として新たに養成・認証していく制度の構築を進めています(関連記事はこちらこちらこちら)。

新専門医資格の1つとして総合診療専門医の養成が始まる見込みですが、末永副会長は「総合診療専門医は、主にクリニックにおいてプライマリケアを提供する能力に主眼を置いているとの意見もある。そこで、日病では、これとは別に『病院で必要とされている総合医』の養成を目指していく」と説明しています。

日病において「病院総合医育成プログラム基準」を定め、会員病院がこの基準に則って「育成(研修)プログラム」を作成し、これを日病が認証します。「病院総合医」を育成したいと積極的に考える病院が、この基準に沿って育成(研修)プログラムを作成し、自院の医師を対象に研修を行うことが想定されます。

研修の受講対象は「卒後6年以上の医師」で、認証されたプログラムに沿って2年間(後述するように経歴による短縮も可能)の研修を受け、求められる水準に達していることが当該病院・日病で確認された後に「病院総合医」資格が与えられます。育成(研修)プログラムの内容、つまり「病院総合医に求められる能力」として末永副会長は、▼医療安全▼感染対策▼栄養サポートチーム—などのチーム医療の実施や、地域医療全般に対応する能力(地域医療構想や地域包括ケアシステムへの配慮)などを例示しました。もっとも卒後6年以上の医師が対象となるため、研修と臨床を同時並行で実践しなければならないことから、高すぎるハードルは設定せず、例えば「医療安全については、日病の開催する医療安全管理者養成講習会の受講などで対応する」など現場に配慮した育成(研修)プログラムとなる見込みです。

病院総合医の育成は、JCHO(地域医療機能推進機構)などでも進められる模様で、末永副会長は「日病独自の制度であるが、各病院団体の取り組みを尊重し、認証しあう(例えばA団体で育成研修を受けた場合には、重複する項目については日病の育成研修の当該項目受講完了とみなすなど)仕組みとしたい。いわば各病院団体のミニマムリクワイアメント(最低限必要な研修内容)とする」との考えも示しています。このため、すでに総合診療を実施している医師や、他団体の研修を受講している医師などでは、研修期間が短縮されることになります。今後、「研修期間をどの程度に短縮していくか」「どのような場合に短縮を認めるか」といった点を詰めていくことになります。

日病では、8月から9月初旬にかけて到達目標や認証基準などを盛り込んだ運用細則を固め、10月より「各病院からの育成(研修)プログラム募集」を受け付け、来年(2018年)4月から「病院総合医」育成制度を運用開始したい考えです。

さらに末永副会長は、「病院総合医」育成制度の理念として(1)包括的かつ柔軟に対応できる総合的診療力を有する医師の育成(2)複数診療科、介護、福祉などの分野と連携・調整し、全人的に対応できる医師の育成(3)医療・介護連携の中心的役割を担える医師の育成(4)チーム医療を推進できる医師の育成(5)地域医療にも貢献できる医師の育成―の5点を示し、「総合医が便利屋扱いされてはいけない。院内でも尊敬され、将来の幹部候補となる病院総合医を育成したい」と強調しています。

地域医療構想調整会議、「特定集団による偏った議論」ではいけない

 24日の会見では、相澤会長から「地域医療構想や新専門医研修プログラムのチェックを行う協議会設定など、医療政策に関する権限が都道府県に移譲されてきている。そこには、さまざまな機能を持った病院代表が参画して議論が行われる必要があり、日病の支部役員などが『調整会議などの場への参画できる』ようにすべきである」との考えも示されました。

調整会議では、すでに都道府県が策定した地域医療構想の実現に向けて、地域の医療関係者が集って「機能分化や機能転換」などに向けた協議を行いますが、地域によっては病院団体の代表が参加できないケースがあると言います。相澤会長は「さまざまな機能を持った病院がある。特定の集団の意見のみでは偏った議論になりかねない(ひいては偏った機能分化にとどまってしまう)」と述べ、常任理事会で「各支部から都道府県の担当者に参画要請を行ってほしい」と要請したことも明らかにしました。

ところで19日に開催された厚生労働省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」(医療計画等の見直しに関する検討会の下部組織)では、公的病院や地域医療支援病院、特定機能病院などで、公立病院改革プランと同様に「改革プラン」を作成し、各地の調整会議に提出する方針が固まりました。この点について相澤会長は、「公的病院などでは、域において果たすべき役割が決められており、率先して『自院の役割』などを明らかにすべきであろう。そこから調整会議の議論は始まる。残念ながら、多くの想調整会議は『皆で考えていこう』という場には、まだなっていないようだ。公的病院が改革プランを示し『自院はこういう役割を果たしたい』と意思表明することが、『皆で地域の医療を考える』きっかけになると期待している。そのためにも、調整会議には、さまざまな機能を持つ病院の代表が参画して議論することが大切である」と強調しています(関連記事はこちらこちらこちら)。

大規模災害時の統一診療録となる「災害診療記録」(J-SPEED)

 なお、24日の定例会見には、丸山嘉一氏(日本赤十字社医療センター国内医療救護部長、国際医療救援部長)も列席し、▼日本医師会▼日本集団災害医学会▼日本病院会▼日本診療情報管理学会▼日本救急医学会▼国際協力機構(JICA)―の6団体で構成される「災害時の診療録のあり方に関する合同委員会」がまとめた統一診療記録様式『災害診療記録』(日本版SPEED:Surveillance in Post Extreme Emergencies and Disasters、J-SPEED)についての報告もありました。

そこには患者の氏名や居所(避難所など)、状態(外傷、精神状態)、禁忌(アレルギーなど)、常用薬などが記載され、円滑な医療提供に大きく貢献しています(例えば精神状態を診てDPAT(災害派遣精神医療チーム)につなぎ、自殺を食い止めたなど)。さらに、記録を収集・解析することで災害時の疾病構造が明確になり「DMAT(災害時派遣医療チーム)の撤収時期決定」などにも活用できることから、厚労省は「被災者の診療録の様式は『災害診療記録』を参考にする」よう、通知「大規模災害時の保健医療活動に係る体制の整備について」(2017年7月5日付)の中で都道府県知事に要請しています。

丸山氏は、今後「迅速な情報フィードバックのために、災害診療記録の集積・分析をどこで実施するか」などの課題解決に向けた検討を進める考えを示しています。

 
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