医学生が臨床実習で実施可能(実施すべき)な医行為を再整理―厚労省
2018.8.2.(木)
厚生労働省は7月30日に通知「医学部の臨床実習において実施可能な医行為について」を発出し、医学生が臨床実習で実施可能な医行為を(1)必ず実施(経験)すべき必須項目(2)実施(経験)が望ましい推奨項目―に分けて例示しました。
患者等への同意を得て、指導医の指導・監視の下でこれらの医行為を医学生が実施した場合には、基本的に違法性が阻却されます。
医学生の適切な臨床実習を推進するため、今後、法令上の対応も必要
手術や注射など、多くの医行為は患者の身心に侵襲を与えるため、外形的には傷害罪の構成要件に該当します。しかし、刑法第35条の「正当行為」として違法性が阻却されます。
この点、医師が実施する医行為はもちろん、医師免許を取得していない医学生が臨床実習の中で行う医行為も「正当行為」に該当します。ただし医行為の幅は極めて広いため、難易度や患者の侵襲性を考慮して、1991年に「医学生が実施できる医行為の範囲」が整理されました(いわゆる前川レポート「臨床実習検討委員会最終報告」)。
そこから30年近くが経過し、医療・医学の水準が大きく進展していること、医学教育の内容も大きく変わったこと(例えば2004年度からの初期臨床研修の必修化、2001年度からの医学部教育におけるモデル・コア・カリキュラムの導入と、その後の見直し、CBT・OSCEといった共用試験の導入など)を踏まえ、「医学生が実施できる医行為の範囲」も見直す必要が出てきました。そこで昨年(2017年)に厚労省の研究事業「医学部の臨床実習において実施可能な医行為の研究」(研究代表者:門田守人・日本医学会連合会長)において、詳細な臨床実習の実態調査、法令面の検討などを踏まえた再整理が行われ、今般、研究報告(いわゆる門田レポート)がまとまったものです(関連記事はこちら)。
厚労省は本通知を都道府県知事・地方厚生(支)局長に宛てて発出。大学病院はもちろん、一般の医療機関でも医学生の適切な臨床が阻害されないように周知されることが期待されます。
新たな「医学生が実施可能な医行為」は、次の2カテゴリーに大別できます。各大学において、医学生能力や臨床実習カリキュラム、指導体制などを踏まえて「許容される医行為」を診療科別に定め、運用指針に記載することが求められます。なお、医行為は膨大であり、そのすべてを整理することは困難です。門田レポートでも、整理した医行為は「例示」であり、それ以外の医行為も「例示と同等の侵襲度・難易度」と各大学等で判断されたものは、教育上の必要性を考慮し、臨床実習での実施が許容されると述べています。
(1)医師養成の観点から臨床実習中に実施が開始されるべき医行為(必須項目)
(2)医師養成の観点から臨床実習中に実施が開始されることが望ましい医行為(推奨項目)
行為の詳細は下表に譲りますが、(1)の必須項目としては、例えば「気道内吸引」「皮膚縫合」「尿道カテーテル挿入・抜去」「気道確保」「胸骨圧迫」「酸素投与量の調節」などが、(2)の推奨項目としては「直腸鏡・肛門鏡」「カニューレ交換」「膿瘍切開・排膿」「創傷処置」「熱傷処置」「電気ショック」「気管挿管」などが盛り込まれています。
また、これらの医行為を医学生が臨床実習の中で実施するにあたっては、▼指導医による指導・監視が必須となる(指導医が実習生の医行為実施を認識し、必要があれば、当該医行為を直ちに制止し、あるいは介入できる状況であることが必要)▼実習生(医学生)は少なくともCBT(医学医療に関する知識の修得状況を審査する共用試験、Computer Based Testing)における全国一律の合格基準に達していることが求められる▼患者等に「医学生が行う医行為の範囲」を示し、包括的同意を文書または口頭で得ている(患者側が同意後に撤回することも可能)—ことが前提となる点には、最大限の留意が必要となります。
なお門田レポートでは、「どこまでの医行為が違法性阻却に該当するか、臨床現場では不明確」(そのため、医学生による医行為に慎重になりがちである)である点を指摘。今後、「医学生が実施できる医行為」について、より一層の明確化と現場への周知を図るために、「一定の法令上の対応を行うことが必要」と強く訴えています。全国医学部長病院長会議の山下英俊新会長も、同旨の見解を7月31日の記者会見で強調しています(関連記事はこちら)。
【関連記事】
医学部卒業前の「臨床実習」強化、「医学生の医行為」の法的位置づけ明確に―医学部長病院長会議
医学部教育における「臨床実習」が年々充実、3000時間近い医学部も―医学部長病院長会議
初期臨床研修をゼロベースで見直し、地方大学病院の医師確保を—医学部長病院長会議
論理的に考え、患者に分かりやすく伝える能力を養うため、専門医に論文執筆は不可欠—医学部長病院長会議
新専門医制度によって医師の都市部集中が「増悪」しているのか―医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、偏在対策の効果検証せよ―医師養成と地域医療検討会
医学生が指導医の下で行える医行為、医学の進歩など踏まえて2017年度に再整理―医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、都道府県協議会・厚労省・検討会で地域医療への影響を監視—医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、地域医療への影響を厚労省が確認し、問題あれば対応—塩崎厚労相