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メンタル疾患、「疾患の種類別」「入院・入院外の別」で医療費の構造が大きく異なる—健保連

2019.6.5.(水)

 ▼統合失調症、統合失調症型障害および妄想型障害(以下、統合失調症等)▼躁うつ病を含む気分[感情]障害(以下、気分障害)▼神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害(以下、神経症性障害等)―の有病者や医療費を分析すると、疾病の種類によって、また同じ疾病でも、入院と入院外では構造が大きく異なる―。

 健康保険組合連合会が5月31日に公表した、2017年度の「被保険者のメンタル系疾患の動向に関するレポート」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)(前年度調査に関する記事はこちら、前々年度調査に関する記事はこちら)。

統合失調症等の入院外医療費、男性のほうが女性よりもわずかに高い

 主に大企業で働くサラリーマンとその家族が加入する「健康保険組合」の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、データに基づく保健事業(データヘルス)に積極的に取り組んでいます(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

今般、1280組合の被保険者(家族を含まないサラリーマン本人)1568万980人(男性:1028万4893人、女性:539万6102人、月平均で算出しており合計と一致しない)のレセプト1億3862万3755件(男性:8603万7725件、女性:5258万6030件)を対象として、▼統合失調症等▼気分障害▼神経症性障害等—などの医療費を分析し、その結果を公表したものです。なお、2017年度には2016年度に続き「入院」「入院外」の双方を調べています。

 
 まず統合失調症等について見てみましょう。入院外では、有病率(被保険者に占める有病者数の割合)は男女とも0.42%。暦月による若干の変動(2017年3月に0.44%とやや高い)があります。

有病者の年齢構成を見ると、男性では45-49歳(18.3%、前年度と同じ)、40-44歳(17.1%、同0.9ポイント減)、50-54歳(15.4%、同0.7ポイント増)、35-39歳(12.7%、同0.9ポイント減)が多く、35-54歳で有病者全体の63.4%(同0.9ポイント減)を占めています。女性では、40-44歳(17.1%、同0.9ポイント減)、35-39歳(15.4%、同0.7ポイント減)、45-49歳(15.4%、同0.8ポイント増)、30-34歳(15.0%、同0.6ポイント減)が多く、30-49歳で有病者全体の62.9%(同1.6ポイント減)を占めています。女性では母数集団(被保険者全体)が男性に比べて若いことが、この結果に影響している可能性があります。また、前年度調査に比べて男性では「55-59歳」(同1.0ポイント増加)、女性では「50-54歳」(同1.2ポイント増加)で有病率が大きく増加している点が気になります。
健保連2017年度メンタル系疾患調査1 190531
 
 1人当たり医療費を見てみると、男性459円(同7円増)、女性437円(同13円増)で、男性のほうがわずかに高くなっています。これを医療費の3要素(受診率、1件当たり日数、1日当たり医療費)に分解してみると、▼受診率は女性が高い(男性:50.4、女性:51.1)▼1件当たり日数は男性(1.7日)のほうが、女性(1.6日)よりわずかに長い▼1日当たり医療費は男性(5515円)のほうが、女性(5432円)よりもわずかに高い—ことが分かりました。

 さらに年齢階層別に1人当たり医療費を見てみると、男性では40-44歳(605円)、45-49歳(586円)、35-39歳(565円)、50-54歳(532円)で高く、女性では40-44歳(576円)、35-39歳(557円)、30-34歳(521円)、45-49歳(498円)で高くなっています。
健保連2017年度メンタル系疾患調査2 190531
 

統合失調症等の入院医療費、女性のほうが男性よりも高い

 入院に目を移すと、有病率(被保険者に占める有病者数の割合)は男女とも0.01%(前年度と変わらず)。有病者の年齢構成を見ると、男性では55-59歳(16.0%、前年度に比べて0.5ポイント減)、50-54歳(15.7%、同1.1ポイント増)、45-49歳(12.9%、同0.2ポイント減)、60-64歳(9.9%、同0.6ポイント減)で多く、45-64歳で有病者全体の54.5%(同0.2ポイント減)を占めています。女性では、、45-49歳(14.5%、同1.8ポイント増)、30-34歳(13.3%、同0.7ポイント増)、35-39歳(12.9%、同0.8ポイント増)、25-29歳(11.4%、同0.8ポイント減)で多く、男性よりも若い世代の有病率の高さが目立ちます。
健保連2017年度メンタル系疾患調査3 190531
 
 推計1入院当たり医療費を見てみると、男性55万1792円(同1万1820円低下)、女性59万1675円(同9725円低下)で、女性の方が高い状況は変わっていません。年齢階層別に見ると、男性では20-24歳(75万6624円)、35-39歳(68万4874円)、25-29歳(67万3094円)と若い世代で高く、女性では70-74歳(144万7939円)、65-69歳(101万504円)と高齢の世代で飛びぬけて高くなっています。
健保連2017年度メンタル系疾患調査4 190531
 
 また推計平均在院日数は、男性で63.9日(前年度から1.1日短縮)、女性で52.2日(同0.2日短縮)と男性で長く、また年齢階層別に見ると、男性では「年齢とともに緩やかに在院日数が長くなる」、女性では「60歳代後半を過ぎると、急激に在院日数が長くなる」ことが分かります。

 なお推計新規入院件数(1000人当たり)は、▼男性で0.39、女性で0.34と、男性でやや多い▼年齢階級別に見ると、男女とも60歳代後半で急増する―ことなどが分かりました。2017年度結果の特徴として「10代女性での入院が多い」ことがあげられ、今後の動向に注目する必要があります。

気分障害の入院外医療費、男性のほうが女性よりも高い

 次に気分障害について見てみましょう。入院外の有病率は男性2.03%(前年度から0.06ポイント増加)、女性1.83%(同0.08ポイント増加)と男性で高くなっています。

 有病者の年齢構成を見ると、男性では45-49歳(18.3%、前年度から0.5ポイント減)、50-54歳(17.0%、同1.0ポイント増)、40-44歳(15.8%、同1.1ポイント減)、55-59歳(12.0%、同1.1ポイント増)で多く、前年度より有病者の年齢が上がっています。40-59歳で有病者全体の63.1%を占めています。女性では、40-44歳(16.0%、同1.0ポイント減)、45-49歳(15.9%、同0.7ポイント増)、35-39歳(13.6%、同0.8ポイント減)、30-34歳(13.5%、同0.6ポイント減)で多く、30-49歳で有病者全体の59.0%を占めています。前述の統合失調症等と同様の傾向があります。
健保連2017年度メンタル系疾患調査5 190531
 
 1人当たり医療費を見てみると、男性3010円(同増減なし)、女性2470円(同113円増)と男性のほうが高くなっています。医療費の3要素に分解すると、▼受診率は男性(248.1)のほうが、女性(223.2)よりも高い▼1件当たり日数は男女で変わらず(1.5日)▼1日当たり医療費は男性(8114円)のほうが、女性(7305円)よりも高い—ことが分かりました。男性は女性に比べて「気分障害で受診する頻度が多くて長く、かつ1回の医療費も高い」と言えます。

 年齢階層別に1人当たり医療費を見ると、男性では50-54歳(4425円)、45-49歳(4306円)、40-44歳(3829円)、55-59歳(3467円)で高く、女性では40-44歳(2994円)、45-49歳(2886円)、35-39歳(2807円)、30-34歳(2682円)で高くなっています。女性に比べて、男性では「年齢階層別の1人当たり医療費のバラつきが大きい」ことも特徴と言えるでしょう。
健保連2017年度メンタル系疾患調査6 190531
 

気分障害の入院医療費、男性のほうが女性よりも高い

 気分障害による入院に目を移すと、有病率(被保険者に占める有病者数の割合)は男女とも0.01%(前年度と変わらず)。有病者の年齢構成を見ると、男性では55-59歳(18.5%、前年度から0.7ポイント増)、50-54歳(17.7%、同0.3ポイント増)、45-49歳(14.6%、同0.8ポイント減)、40-44歳(10.8%、同0.1ポイント減)で多く、40-59歳で有病者全体の61.5%を占めています。女性では50-54歳(13.2%、同1.2ポイント増)、45-49歳(12.8%、同1.4ポイント減)、40-44歳(12.3%、同1.7ポイント減)、35-39歳(11.8%、同0.7ポイント増)で多く、入院外に比べて入院のほうが「幅広い年齢層に有病者が分布している」状況です。
健保連2017年度メンタル系疾患調査7 190531
 
 推計1入院当たり医療費は、男性29万7328円(前年度から9052円低下)、女性26万8999円(同402円低下)で、男女の差が前年度よりも広がっています。年齢階層別に見ると、男性では45-49歳(35万5097円)、55-59歳(33万886円)、20-24歳(31万8467円)で高く、女性では70-74歳(47万1526円)、65-69歳(31万5782円)、15-19歳(30万1618円)で高く、特段の傾向は見出せません。
健保連2017年度メンタル系疾患調査8 190531
 
 また推計平均在院日数は、男性で45.1日(前年度から0.6日短縮)、女性で36.8日(同0.4日短縮)と男性で長く、年齢階層別に見ると、統合失調症等と同様に、男性では「年齢とともに緩やかに在院日数が長くなる」、女性では「70歳代に入ると急激に在院日数が長くなる」ことが分かります。

 なお推計新規入院件数(1000人当たり)は、▼男性で0.70、女性で0.55と、男性でやや多い▼年齢階級別に見ると、男女ともに年齢が上がるにつれて徐々に高くなり、70歳代で急増する―ことが分かりました。

神経症性障害等の入院外医療費、女性のほうが男性よりも高い

 最後に神経症性障害等を見てみましょう。入院外の有病率は男性1.59%(前年度から0.6ポイント増)、女性1.84%(同1.0ポイント増)で、統合失調症等や気分障害とは異なり女性で高くなっています。

 有病者の年齢構成を見ると、男性では45-49歳(16.2%、前年度から0.3ポイント減)、50-54歳(15.2%、同0.6ポイント増)、40-44歳(14.8%、同0.7ポイント減)、55-59歳(11.8%、同0.6ポイント増)で多く、40-59歳で有病者全体の58.0%を占めています。女性では、45-49歳(15.5%、同0.5ポイント増)、40-44歳(15.3%、同0.6ポイント減)、35-39歳(12.6%、同0.8ポイント減)、30-34歳(12.4%、同0.5ポイント減)で多く、30-49歳で有病者全体の55.8%を占めています。統合失調症等や気分障害と比べて、幅広い年齢層に分布しています。
健保連2017年度メンタル系疾患調査9 190531
 
 1人当たり医療費は、男性563円(同25円増)、女性719円(同40円増)と女性のほうが高く、医療費の3要素に分解すると、▼受診率は女性(225.5)のほうが男性(195.3)よりも高い▼1件当たり日数は男女とも同じ(1.5日)▼1日当たり医療費は女性(2197円)のほうが男性(1996円)よりも高い—ことが分かりました。女性で1人当たり医療費が高い原因は、「受診率」と「1人当たり医療費」にあることが分かります。

 年齢階層別に1人当たり医療費を見ると、男性では50-54歳(659円)、40-44歳(643円)、45-49歳(642円)などで高く、女性では40-44歳(817円)、35-39歳(781円)、45-49歳(780円)などで高くなっています。
健保連2017年度メンタル系疾患調査10 190531
 

神経障害等の入院医療費、女性のほうが男性よりも高くなった

 神経障害等による入院に目を移すと、有病率(被保険者に占める有病者数の割合)は男女とも0.01%(前年度から増減なし)。有病者の年齢構成を見ると、男性では50-54歳(16.2%、同1.5ポイント増)、55-59歳(14.2%、同1.9ポイント減)、45-49歳(13.7%、同0.2ポイント増)、40-44歳(11.2%、同0.5ポイント増)で多く、40-59歳で有病者全体の55.3%を占めています。女性では30-34歳(16.2%、同2.0ポイント増)、45-49歳(12.9%、同0.8ポイント増)、35-39歳(11.8%、同0.9ポイント減)、50-54歳(11.3%、同0.4ポイント増)で多くなっています。やはり入院のほうが「幅広い年齢層に有病者が分布している」状況です。
健保連2017年度メンタル系疾患調査11 190531
 
 推計1入院当たり医療費は、男性5万426円(同259円増)、女性5万810円(同5047円増)、女性での増加が著しく、男女が逆転しました。年齢階層別に見ると、男性では15-19歳で飛びぬけて高く(10万9584円)、女性では20-24歳で飛びぬけて高い(11万2613円)ことが注目されます。
健保連2017年度メンタル系疾患調査12 190531
 
 また推計平均在院日数は、男性で31.8日(前年度から1.2日延伸)、女性で22.6日(同0.1日短縮)と男性で長く、さらに延伸している点が気になります。年齢階層別に見ると、カーブは異なりますが男女ともに「年齢とともに在院日数が長くなる」傾向が伺えます。

 なお推計新規入院件数(1000人当たり)は、▼男性で0.58、女性で0.69と、女性でやや多い▼年齢階級別に見ると、男女ともに年齢が上がるにつれて徐々に高くなり、70歳代で急増する―ことが分かりました。
 
 
 
 このように、メンタル系疾患と一口に言っても、疾病の種類によって有病者の発生状況や医療費の構造(つまり診療内容)は大きく異なっています。また同じ疾病でも、入院外(比較的軽度者)と入院(比較的重度者)では、医療費の構造が全く異なることも明らかになりました。

国は、事業者に「従業員に対するストレスチェック」を義務付けするなどメンタルヘルスにも力を入れており、今後、疾病別・性別・年齢別・重症度別の「きめ細かいフォロー」が、有病者の抑制(医療費の抑制、生産性の向上、国民自身のQOL向上につながる)に効果的であると考えられます。

 

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