救命救急センターの充実段階評価、コロナ臨時措置は「現場に影響が出た8項目」除外に縮小―救急・災害ワーキング
2022.2.10.(木)
救命救急センターの診療報酬評価等のベースとなる「充実段階評価」について、2021年評価(2022年度の診療報酬や補助金のベース)では「実際の医療現場に影響が出ている8項目」に限定して臨時除外措置を行う―。
2月9日に開催された「救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ」(第8次医療計画等に関する検討会の下部組織、以下「救急・災害ワーキング」)で、こういった点が決まりました。3月末(2022年3月末)に各病院の充実段階評価が決定します。
個別病院の事情にも配慮するため、丁寧にヒアリングなども実施
救急医療の最後の砦となる「救命救急センター」に対しては、毎年「充実段階評価」が行われ、この結果は診療報酬(A300【救命救急入院料】の「救急体制充実加算」)や各種の補助金に結びつきます。
具体的には、▼救命救急医療を行う体制が整っており、かつ重篤な救急搬送患者受け入れの実績が十分に上がっているか▼是正すべき点はないか―という2軸で評価が行われます。
前者の「体制・実績」については、例えば「救急科専門医数」に関して、救命救急センター(高度救命救急センターを含む)では▼5人以上であれば1点▼7人以上であれば2点―を、地域救命救急センターでは▼2人以上であれば1点▼4人以上であれば2点―を獲得。ほかにも、「休日・夜間帯における救急専従医師数」「救急外来のトリアージ機能」「疾患(内因性疾患、外因性疾患、精神科、小児、産科)への診療体制」「年間受入救急車搬送人員」など合計42項目について「点数と獲得基準」が定められ、その積み上げ(合計点数)が、それぞれの救命救急センターの「評価点」となります。
後者の「是正を要する」項目とは、「救命救急センターとしては不十分な体制・実績である」と評価されてしまう項目です。例えば「救急科専門医数」に関しては、救命救急センター(高度救命救急センターを含む)では「2人以下」の場合に「是正を要する」、地域救命救急センターでは「1人以下」の場合に「是正を要する」と判断されます。ほかにも、「転院・転棟の調整を行う者の配置がない」「疾患(内因性疾患、外因性疾患、精神科、小児、産科)への診療体制が必要な基準を満たさない」など合計20の「是正を要する」項目が定められており、それにいくつ該当するかが、それぞれの救命救急センターについて計算されます。
この「体制・実績の評価点」と「是正を要する項目の該当数」の2つをもとに、各救命救急センターを次表のように「S」「A」「B」「C」の4段階に評価します。
(参考)診療報酬上の評価
A300【救命救急入院料】の「救急体制充実加算」(1日につき)
▽イ 救急体制充実加算1:1500点(S評価の場合)
▽ロ 救急体制充実加算2:1000点(A評価の場合)
▽ハ 救急体制充実加算3:500点(B評価の場合)
ところで、現下の新型コロナウイルス感染症の猛威により、救命救急センターにも大きな影響が出ています。
例えば「患者の受け入れ制限」です。コロナ感染症の重症患者(人工呼吸器やECMOでの呼吸管理が必要)対応には「一般の救急搬送患者に比べて、多くの人手が必要になる」(東京医科歯科大学病院では、重症患者には「1対2」看護配置をしており、通常のICU(2対1看護)の4倍の人手が必要になる)ことが分かっています。このため、いくつかの病棟を一時閉鎖して、コロナ対応病棟に看護師を集約配置するなど工夫が必要となり、結果「病院全体では、受け入れられる患者数が減少する」ことになります。厚生労働省の調査によれば、コロナ禍前の2019年度に比べて、救命救急センター全体の年間重篤患者数は、コロナ禍の2020年に4.9%減、2021年に6.2%減となっています。
また、コロナ感染症対応でスタッフが極めて多忙となり、感染拡大防止の観点からも「脳死判定シミュレーションの実施」や「地域の関係機関(都道府県、医師会、救急医療機関、消防機関等)との勉強会や症例検討会の実施」などが出来ない状況にも陥っています。
さらに、救命救急センターへの「関連病院等からの医師派遣」が滞り(関連病院でもコロナ感染症対応が必要となり、医師を派遣する余裕がなくなる)、「救急科専門医数」が2人以下に陥ってしまう病院も出てきています。
こうした中で、評価基準を通常通りとした場合には「評価結果が下がり、診療報酬や補助金収益が少なくなってしまう」病院も出てきてしまうため、救済措置として「一部の評価項目について臨時的・例外的に除外した評価」が行われています。
2021年度の診療報酬・補助金のベースとなる2020年評価については、「救命救急センター専従医師数のうち救急科専門医数」や「救命救急センター長の要件」「年間に受け入れた重篤患者数(来院時)」など16項目が除外されました(関連記事はこちらとこちら)。
コロナ感染症が猛威を振るい続けている現状に鑑みれば、2022年度の診療報酬・補助金のベースとなる2021年評価についても救済措置が必要と考えられます。
ただし、厚労省と日本救急医学会の調査・分析によれば「16項目のうち、実際に『実績低下』が有意に見られたのは以下の7項目にとどまっている」ことが分かりました。逆に「7項目以外の9項目については、臨時的な除外によって、かえって充実段階評価を押し上げてしまっている」ことになります。実際に、コロナ禍前の2019年評価では、S評価は76施設でしたが、16項目を除外した20年評価では104施設に増加。これを後述する「7対1」項目除外にとどめると、19年評価並みの「S評価73施設」となります。
▼年間に受け入れた重篤患者数(来院時)
▼救命救急センターを設置する病院の年間受入救急車搬送人員
▼地域の関係機関との連携
▼救急救命士の挿管実習および薬剤投与実習の受入状況
▼救急救命士の病院実習受入状況
▼医療従事者への教育
▼災害に関する教育
また、「脳死判定および臓器・組織提供のための整備等」に関しては、直近3年間実績で評価する(2019・20・21年の実績)ことになりますが、「20年・21年はコロナ感染症の影響を極めて大きく受ける」と考えられます。
こうした状況を踏まえ、救急・災害ワーキングでは上記の「7+1」の8項目を臨時的・例外的に除外して、2021年の体制・実績を評価する方針を決定しました。
【2021年評価で除外される項目】
▼年間に受け入れた重篤患者数(来院時)
▼救命救急センターを設置する病院の年間受入救急車搬送人員
▼脳死判定および臓器・組織提供のための整備等
▼地域の関係機関との連携
▼救急救命士の挿管実習および薬剤投与実習の受入状況
▼救急救命士の病院実習受入状況
▼医療従事者への教育
▼災害に関する教育
もっとも、コロナ感染症への救命救急センターの対応は地域・病院によって区々です。「すべての救命救急センターにコロナ対応病床を割り振る」地域もあれば、「Aセンターはコロナ患者に対応するが、Bセンターはコロナ以外の救急患者に対応する」という役割分担をしている地域もあります。また、コロナ感染症の拡大状況、医療資源の充実度合などには地域によって大きな差があります。
このため長島公之構成員(日本医師会常任理事)、坂本哲也構成員(日本救急医学会代表理事)、溝端康光構成員(日本臨床救急医学会代表理事)ら多くの構成員から「評価が従前よりも下がる病院については個別にヒアリングを行い、必要に応じた対応(救済措置)を行ってほしい。コロナ感染症をはじめ、重篤な救急患者に最前線で対応する救命救急センターがさらに疲弊することのないようにしてほしい」との要望が出ています。厚労省担当者も「個別病院の事情を踏まえ、丁寧に対応していく」考えを明確化しています。
今後、「2021年データに基づく評価」+「個別病院からのヒアリング」などを行い、この3月末(2022年3月末)に「2022年度におけるS・A・B・C評価結果」が決定・公表されます。
なお「充実段階評価」については、2020年に「厳格化」が完了しています(従前は評価基準が緩すぎるとの問題があり、2018→20年と厳格化が行われた)。厚労省担当者は「今後は、2024年度からの第8次医療計画実施に向けて、項目の見直しなどを研究・検討していきたい」との考えを明らかにしています。
また、2月9日の救急・災害ワーキングでは「日本DMAT活動要領の改正」(新興感染症発生時にDMATが対応を行う際に派遣要請方法、活用内容、費用支弁方法を盛り込むなど)や「DMAT(災害派遣医療チーム)体制整備事業の拡充」(2022年度には前年度比1.9億円増の予算を計上)について報告を受けました。
感染症へのDMAT対応については、DMAT事務局の小井戸雄一事務局長から「感染症専門医とDMATが連携する。その際、DMATは感染症治療を行うわけではなく、感染症専門医の治療をサポートするという役割を担う。事務局にも感染症専門家に入っていただき、助言を受けるとともに、研修内容にも意見を反映させていく」考えを明らかにしています。
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