物価高騰・円安進行で「薬剤・医療材料の購入価格や消費税負担」が上昇、歯科貴金属参考に物価連動型診療報酬改定を—全自病・望月会長
2025.1.17.(金)
物価の高騰や円安の進行などで、病院による「薬剤や医療材料の購入価格」が急騰し、それに伴って「消費税負担」も上昇している。消費税負担については診療報酬での補填がされているが、こうした状況を勘案すれば「補填が不十分」なことは明らかである—。
こうしたコスト増が病院経営を厳しくしており、公民問わず倒れる病院が出かねない。補助金や地域医療介護総合確保基金を活用した「当面の経営支援」とともに、歯科の貴金属価格改定を参考にした「物価連動型の診療報酬」、消費税の課税化などを検討する必要がある—。
全国自治体病院協議会の定例記者会見が1月16日に開催され、望月泉会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)ら幹部から、こうした考えが示されました。
病院経営は危機的状況、このままでは公民問わず倒れる病院が出てくる
Gem Medで繰り返し報じているとおり「病院経営の厳しさ」が増しています。日病・全日本病院協会・日本医療法人協会による病院経営定期調査では「医業収益は増加しているものの、費用増(材料費など)がそれを上回り、さらに補助金減なども手伝って、赤字病院が大きく増加し、赤字幅も大きくなっている」状況が明らかにされました。
また全国自治体病院協議会の経営状況調査では、2023年度には「10.3%の赤字」であったところ、2024年度には「14.5%の赤字」に悪化し、危機的な状況にあることが示されています。
1月16日に開かれた全自病の幹部会議(会長、副会長、常務理事の会合)では「増収減益」の背景の1つとして、「高額薬剤、高額医療材料が増加している」こと、さらに「昨今の物価・エネルギー費・人件費・流通費などの高騰で薬剤や材料の購入価格が増加し、それに伴って消費税負担も増加している」ことなどが指摘されました。
上述のとおり、高額薬剤や医療材料の登場が相次いでいます。これらを使用すれば医療機関の収益は増加します。しかし、その収益のほとんどは医薬品卸会社への支払い(高額医薬品等の購入費)に充てられるため、「病院の利益」にはほとんどつながりません。
さらに「この4月(2025年4月)から薬剤や医療材料の納入価格を引き上げる」との通達が卸業者からきている病院が少なくないことを望月会長は報告します。製品によっては「逆ザヤ」(購入価格が薬価や材料価格よりも高くなり、購入するだけで赤字になってしまう)となるものも出ているといいます(関連記事はこちら)。。
また、医療機関では薬剤や材料をはじめ多くの物品を購入し、それに伴って「消費税」を納めます。
保険医療においては「消費税は非課税」とされ、医療にかかる消費税は患者ではなく、医療機関が最終負担しています。この消費税負担を補填するために、特別の診療報酬改定(消費税対応改定)が行われていますが、「エネルギー費や流通費の高騰、さらに歴史的円安などで薬剤や医療材料の購入価格が高騰しており(医療材料では海外からの輸入品が多い)、それに伴って諸費税負担も増加する。ある時点で『診療報酬による消費税補填』が行われたとしても、その後の物価等急騰を考慮すれば、現時点では『診療報酬による消費税補填は十分にはなされてない』ことは明らかであろう」と小阪真二副会長(島根県立中央病院長)は指摘します。
例えばある病院で「1年間に1億円分の物品購入をしていた」とすると、その年に支払う消費税(10%)は1000万円になります。診療報酬では、この「1000万円の消費税負担」を補填するために入院料や初再診料などの引き上げが行われています(関連記事はこちら)。
しかし、物価や流通費の急騰が生じれば、「同じ製品を同じ量購入したとして、その費用が1億5000万円に膨れ上がる」ことなどが生じます。その際、医療機関が納める消費税は1500万円となり、上記の「消費税負担1000万円を想定した補填」では、「500万円分の補填不足」が生じてしまいます。
小阪副会長は、まさにこうした事態に直面していること、物品の購入量・高額が大きな急性期病院では、とりわけ「大きな補填不足」が生じていることを強調しています(島根県立中央病院では年間4500万円程度の補填不足が生じている)。
この点について望月会長・小阪副会長は「物価等に連動した診療報酬」の仕組みを検討する必要があるのではないかと指摘します。
例えば、歯科用の貴金属(金・銀・パラジウム)については価格変動を踏まえた「年4回の基準価格改定」や、ウクライナ情勢を背景とする価格急騰に対する特別の緊急価格改定が行われています。小阪副会長は、こうした仕組みを参考に「少なくとも高額薬剤や高額医療機器については、物価の変動をタイムリーに捉えた薬価・材料価格の見直しを行うべきではないか」と提案しています。
もっとも、歯科では「医療費のシェアが大きくない」(価格引き上げを行っても医療費全体に及ぼす影響が小さい)、「小規模クリニックが多い」(購入価格上昇が経営に及ぼす影響が相対的に大きい)という背景があり上記の仕組みを導入しやすいという背景がある点にも留意が必要でしょう(医科では逆に、医療費のシェアが大きいことから、改定に必要な財源が大きくなるため、導入ハードルが高くなる)。
さらに消費税問題については、「診療報酬による補填」の仕組みには、▼上述のように物価急騰時には補填不足が生じる▼医療機関により物品購入の状況・診療報酬の算定状況は全くことなり、個別医療機関単位で「過不足のない補填」を完全に実現することはできない—などの問題があります。
そこで望月会長・小阪副会長は「課税制度への移行」が必要であるとの考えを改めて示しました。もっとも▼例えば「医療ではゼロ%の消費税とする」などの仕組みとした場合に、医療機関へ消費税を還付する財源をどう確保するか▼課税制度とした場合、過去の「消費税補填に宛てた診療報酬」を引きはがすこととなるが、それをどう実現するか—などの課題もあり、今後も全自病や、さらに病院団体間で検討を深めていく必要がありそうです(関連記事はこちらとこちら)。
あわせて望月会長・小阪副会長は、▼来年度(2025年度)の病院経営が心配である。公民を問わず物価高騰等で倒れる病院が出てくると考えており、補助金や地域医療介護総合確保基金を活用した手厚い経営支援が必要となる▼入院時食事療養費等が20円引き上げられ、24年度にも30円アップしているが、とても物価増・人件費増などに追いついていない。30年近くで「50円」しか上がっていない点をしっかり考えるべき▼ベッドの稼働率・利用率が注目されるが、例えば現下のインフルエンザが猛威を振るう中では、稼働率は100%となり、予定入院の延期対応などが必要になる点なども考慮すべきである(一定のゆとりがなければ地域医療を守ることができない)▼医師働き方改革は、思ったほどは地域医療に悪影響を及ぼしていないが、若い医師の自己研鑽・研究時間が減少しており、中長期的に我が国の医療へ悪影響がでないか危惧している▼医療従事者の賃上げに向けたベースアップ評価料創設などが行われたが、自治体病院では都道府県人事委員会の勧告を踏まえて「4-5%程度の賃上げ」を行うこととなり、ベースアップ評価料等では不足する点も、経営を厳しくする一因となっている—などの見解も示しています。
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