大学病院本院、必須の「基礎的基準」と、積極的取り組みを見る「発展的(上乗せ)基準」の2段階評価へ―特定機能病院等あり方検討会(1)
2025.2.27.(木)
大学病院本院について、▼特定機能病院として満たさなければならない「基礎的基準」▼より積極的な取り組みをみる「発展的(上乗せ)基準」—の2段階で評価する—。
その際、これまでの「高度な診療・研究・教育」に加えて、新たに「地域医療機関への医師派遣」「地域医療を守る」という新たな機能・役割を大学病院本院に求める—。
こうした大きな方針が2月26日に開催された「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」(以下、単に検討会とする)で固められました。今後、この大きな方針を踏まえて「具体的な基準」の議論に入っていきます。厚生労働省は「年度内(2024度年内、2025年3月まで)の意見とりまとめ」を目指していましたが、拙速を避けるために「意見とりまとめが年度をまたぐこともありえる」と判断しています(スケジュール修正)。
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2月26日に開催された「第23回 特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」
目次
大学病院本院、必須となる「基礎的基準」と、プラスαの「発展的(上乗せ)基準」で評価
特定機能病院には「高度医療の提供」「高度医療技術の開発」「高度医療に関する研修」という3つの役割を果たすことが求められ、これに見合った承認要件が定められています(次のような類型がある)。
▽総合型・大学病院本院:79施設
▽総合型・ナショナルセンター:1施設(国立国際医療研究センター病院)
▽総合型・その他病院:1施設(聖路加国際病院)
▽特定領域型・ナショナルセンター:3施設(国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、国立循環器病研究センター)
▽特定領域型・その他病院:4施設(がん研究会有明病院、静岡がんセンター、大阪国際がんセンター、愛知県がんセンター)
もっとも、医学・医療の高度化が進み、例えば▼一般病院(特定機能病院以外)でも高度医療実施が増え、「大学病院を上回る診療実績を持つ一般病院」が現れてきている▼大学病院本院の中でも診療や研究に係る実績等にバラつきがある—ことなどを踏まえて、検討会では「承認要件の見直し」に向けた議論を開始。「まず大学病院本院の機能などを再確認し、承認要件を固める」→「次いで他の特定機能病院の承認要件を固める」こととしています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
大学病院本院については、これまでに▼医師偏在の是正に向けて「医師派遣」を新たに承認要件に盛り込む▼病院の規模や所在地域(1県1大学か否かなど)を踏まえた類型化を検討する—方向を確認しており、2月26日の会合では、厚生労働省医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室の松本晴樹室長から次のような「見直し方針」案が提示されました。
まず、見直しの基本方向として次の2つの考えが示されました。
(1)▼地域(特に医師が少数である等の条件不利地域)において、高度医療等を提供する拠点としての機能▼医師派遣機能—を果たしていることを評価する
(2)「承認要件」を「すべての大学病院本院が満たすべき基礎的基準」として整理し、さらに「個々の病院が地域の実情も踏まえて自主的に実施している高度な医療提供・教育・研究・医師派遣に係る取り組みを発展的(上乗せ)基準」として評価し、その結果を公表する
この(2)から、▼特定機能病院として承認されるためには「基礎的基準」を満たさなければならない▼「発展的(上乗せ)基準」を満たすか否かによって、大学病院本院を、ある意味「類型化」する—ことがうかがえます。この考え方を診療報酬と結びつけると、「発展的(上乗せ)基準」を満たす大学病院本院(特定機能病院)はより高い点数(特定機能病院入院基本料)で評価し、そうでない大学病院本院(基礎的基準のみ満たす特定機能病院)は通常の点数で評価する、といったことが議論される可能性が出てきそうです(中央社会保険医療協議会での議論)。
必須となる「基礎的基準」の中に「医師派遣機能」を追加
次に「基礎的基準」と「発展的(上乗せ)基準」の内容を見てみましょう。
まず「基礎的基準」については、▼現在の「承認要件」をベースに考える▼「大学病院本院が自動的に特定機能病院とされる」という考え方はしない—ことを確認し、下表のような考え方が示されています(このうち「医療安全」要件については、別稿で報じます)。
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大学病院本院の基礎的基準の大枠案(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(1)1 250226)
「※」が付された項目(専攻医数)などについては「地域の実情を踏まえた評価」などを検討する方向が示されています。例えば「大都市部の病院での基準、地方の病院での基準」とする考え方、「規模などに左右されないようにベッド当たりの基準値を設定する」考え方など、様々な手法が検討されます。
また太字が「新たな要件」となりますが、それ以外の紹介率などについても「基準値の見直しが必要ではないか」などの検討が進められます。
これまで「高度な診療・教育・研究を行う」ことが大学病院本院に求められてきましたが、新たに「地域の医療機関へ医師派遣を行う」こと、つまり「地域医療を守る」ことも新たに求められる役割となります。大学病院本院の位置づけが大きく見直されると考えることもできそうです。
各大学病院本院の独自の取り組みを「発展的(上乗せ)基準」で評価
また「発展的(上乗せ)基準」については、次のように様々な項目(言わばオプション)が設けられます。これにより「大学病院本院を一律の基準で評価する」のではなく、「大学病院本院が『自院の強み』を活かせる」環境が整備されることになると考えられます。例えばA病院は「高度医療」機能を強みとして「発展的(上乗せ)基準」を満たすが、B病院は「医師派遣」機能を強みとして「発展的(上乗せ)基準」を満たすというイメージが浮かんできます。
【基本的な考え方】
▽大学病院本院の自主性を尊重しつつ、取り組み状況に応じた適切な評価を行えるよう、個々の大学病院本院が自主的に実施している高度な医療提供・教育・研究・医師派遣に係る取り組みを「発展的(上乗せ)基準」として評価し、結果を公表する
▽「地域の実情によって当該基準の達成が著しく困難」とならないよう留意し、「医師が少数であるなどの条件不利地域で医療を提供している」ことなどの評価のあり方を引き続き検討する
→例えば「大都市」と「地方」とで異なる状況がある点を踏まえて評価の在り方を検討する(上述のような都市部基準・地方基準などに分ける考え方や、ベッド当たりの基準値を設定する考え方など、様々な手法がありうる)
【医療提供に関する発展的(上乗せ)基準】
▽「複数の合併症を抱える症例」や「一定の重症度の救急症例」を受け入れるなど、地域の最後の砦としての機能を担っていること等を評価してはどうか
(例)
・地域医療構想調整会議等での協議を踏まえ、「救急や高度な手術等の観点で一定の重症度等の患者を受け入れていること」や「希少性等が高い患者を受け入れていること」などについて、地域における受け入れ体制、救急応需体制との関係など様々な観点も含め検討してはどうか
・特に高度な医療(移植医療、ゲノム医療等)の実施なども評価してはどうか
【教育に関する発展的(上乗せ)基準】
▽医師派遣と組み合わせ、医師を地域に「循環」させて教育を行う場合を評価してはどうか
(例)
・医師多数県以外の道県の地域枠の受け入れ、全国から医師を受け入れて行うサブスペシャリティ医師の育成、全国的に希有な専門性の涵養(かんよう=育成)など、全国的な医療提供体制の強化につながる教育体制を評価してはどうか
・研修医数、専攻医数等について評価すべき点があるか、引き続き検討する
【研究に関する発展的(上乗せ)基準】
▽研究実施体制、研究基盤等についても評価してはどうか
(例)
・総数だけでなく、医師1人当たりの論文数、競争的研究費の獲得、TOP10%論文数等において、高い実績を出していることを評価してはどうか
【医師派遣に関する発展的(上乗せ)基準】
▽「地域の医療提供体制の維持」の役割に鑑み、特に都道府県と連携した「医師が少数である地域等への医師派遣」の取り組みを評価してはどうか
(例)
・派遣医師の総数だけでなく、医師1人当たり派遣医師数などの観点でも評価することや、医師の派遣には一定の医師確保が前提となることから、「医師の確保等に係る前提条件」など(大学病院本院立地自治体の医師の多寡や医学部数等を含む)について一定の勘案を行うなどの対応も検討してはどうか
こうした方針によれば、大学病院本院は▼「発展的(上乗せ)基準」を満たす病院▼「発展的(上乗せ)基準」を満たさない病院—に分かれる可能性があります(もちろん、すべての病院が積極的な取り組みを進め、すべてが「発展的(上乗せ)基準」を満たす可能性もある)。
この場合には、前者(「発展的(上乗せ)基準」を満たす病院)は、より多くの努力をし、より多くのコストをかけていると考えられ、相応の経営的評価をする必要が出てくるでしょう(さもなくば努力しようとのモチベーションが低下してしまう)。
現在、大学病院本院は、診療報酬上「特定機能病院入院基本料」「DPCの大学病院本院群(旧、I群)として一律に評価されていますが、「発展的(上乗せ)基準」を満たす病院については、より高い報酬設定などを検討し、努力に応える必要が出てきそうです。今後の検討会意見とりまとめ、中医協議論に注目が集まります。
このほか、特定機能病院の承認要件見直しに関し次のような考え方も厚労省から示されました。
▽特定機能病院の安定的な経営・運営に向け、今でも行われている「承認要件等に関する実績報告」などに加えて、「経営・運営状況、タスクシフトなどに関する実績報告と必要に応じた改善」なども求めてはどうか
▽現在「承認要件等に関する実績報告」を毎年度求め、承認要件を一時的に満たせない場合には「改善計画の提出」を求めているが、さらに「基準の達成度等についての確認」体制構築を求めてはどうか
▽「医師が少数である等の医療資源が比較的少ない地域に所在する大学病院本院」同士で、医師確保・育成等の取り組みを相互改善していく仕組みを構築してはどうか
▽「大学病院本院以外の特定機能病院」のあり方についても、併せて検討していく
こうした方針に異論・反論は出ていませんが、構成員からは▼医師派遣の定義明確化、実態把握が極めて重要となり、それらの検討もしっかり進める必要がある(泉並木構成員:日本病院会副会長、山崎元靖構成員:神奈川県健康医療局医務担当部長、門脇則光構成員:香川大学病院病院長)▼医師派遣について、メジャー診療科とマイナー診療科では状況が異なる点への配慮(メジャー診療科では常勤派遣のみを評価するが、マイナー診療科では非常勤派遣も評価するなど)をすべきであろう(相良博典構成員:昭和大学病院病院長)▼「総合診療科」を設置していない大学病院本院もある。将来的には新専門医制度の19基本領域すべての診療科を持つことが期待されるが、基礎的基準については当面の措置を考える必要がある。またサブスペ領域の診療科設置を発展的(上乗せ)基準の中で評価することも考えられる(吉村健佑構成員:千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センターセンター長/特任教授、今村英仁構成員:日本医師会常任理事、門脇構成員)▼すべての大学を同じ考え方・基準で評価するのではなく、地方大学病院本院の特性・実情を踏まえた評価が重要であろう。例えば絶対数でなく「医師1人あたり」「ベッドあたり」などの基準値を考えるべき(村松圭司構成員:産業医科大学医学部公衆衛生学教室准教授、今村構成員、門脇構成員)▼「研究を通じた人材育成」も大学病院本院の重要な役割であろう。学位取得者数なども評価してはどうか(川上純一構成員:日本薬剤師会副会長)—などの提案・要望の声が出ています。
今後、こうした提案・要望を踏まえて、上記方針に肉付けした「具体的な基準案」を厚労省で作成。それをもとにさらに議論を深めていきます。
厚生労働省は「年度内(2024度年内、2025年3月まで)の意見とりまとめ」を目指していましたが、拙速を避けるために「意見とりまとめが年度をまたぐこともありえる」と判断しています(スケジュール修正)。
その後、検討会意見を踏まえて法令改正が行われますが、「どの要件をいつから施行するのか」などについても慎重な検討が必要となります(大学病院本院側の準備期間なども考慮する必要がある)。
なお、「医療安全」要件については、別に詳しい見直し案が示されており別稿で報じます。
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