ケアマネ事業所の「主任ケアマネ配置」要件、2027年3月まで猶予措置延長へ―社保審・介護給付費分科会
2019.11.26.(火)
ケアマネ事業所の管理者における「主任ケアマネ要件」について、現場の状況に鑑みて2027年3月31日まで適用を延長し、併せて「中山間地等における特例」も設ける―。
介護報酬単価のベースとなる「地域区分」について、現在の区分をベースとしたうえで、新たな「複数の異なる級地に隣接する場合に、自治体の判断で単価の上げ下げを認める」ルールを導入して公平性を担保する―。
11月15日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、概ねこういった方向が固められました。
「主任ケアマネ研修を修了できない」ケースが相当数あることを踏まえた猶予措置
ケアマネ事業所(居宅介護支援事業所)には、より質の高いケアマネジメント実現に向けて、2018年度の前回介護報酬改定において「管理者が主任ケアマネジャーであること」との要件が設けられました。主任ケアマネが管理者であるケースにおいて、そうでない場合に比べて▼事業所内検討会の定期的な開催▼事業所ケアマネへの同行訪問による支援(OJT)▼ケアマネ業務に関する相談―をより積極的に実施していることなどが明らかになったためです(2015年度の「居宅介護支援事業所および介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究」から)。
ただし、突然の要件化は「ケアマネ事業所の大量閉鎖」を招いてしまうため、「2021年3月末までは主任ケアマネ配置要件の適用を猶予する」との3年間の経過措置が設けられています。ケアマネ事業所には「3年間の間に、自事業所のケアマネに必要な研修を受けさせるなどし、主任ケアマネ配置に努める」こととされたのです。
この点、居宅介護支援・介護予防支援について2018年度介護報酬改定の影響調査からは、以下のように「一定数のケアマネ事業所で、主任ケアマネ配置に苦労している」状況が明らかとなりました。
▽2021年3月までに10.1%・3197か所のケアマネ事業所で主任ケアマネ配置が行えず、2024年3月までに1.6%・505か所で主任ケアマネ配置が行えない
▽主任ケアマネ資格を持たないケアマネ事業所管理者の13.4%が「経過措置期間(2021年3月まで)に主任ケアマネ研修を修了できない」と、7.7%が「修了できるかわからない」と答えている
この結果からは、10%程度・3000か所以上のケアマネ事業所で「2021年4月以降、主任ケアマネを管理者として配置できず、介護保険のケアマネ事業所として運営できない」事態が生じてしまうことが分かります。
このため厚労省老健局振興課の尾崎守正課長は、次のように経過措置を延長するとともに新たな特例を設ける考えを示しました。
(1)2021年3月31日時点で主任ケアマネでない者が管理者の事業所は、当該者が管理者である限り、主任ケアマネ要件の適用を2027年3月31日まで猶予する(2021年4月1日以降に新たに管理者となる者は、いずれの事業所でも主任ケアマネジャーでなければならない)
(2)特別地域居宅介護支援加算または中山間地域等における小規模事業所加算を取得している事業所では、「管理者を主任ケアマネとしない」取扱いも可能とする
(3)2021年4月1日以降、不測の事態(主任ケアマネのヘッドハンティング等による退職や、主任ケアマネの死亡など、今後Q&A等で明確化)により、主任ケアマネを管理者とできなくなってしまった事業所については、「その理由」と「改善計画書」を保険者に届出た場合は、主任ケアマネ要件の適用を1年間猶予する
「(1)経過措置の延長」について介護給付費分科会委員の多くは賛意を示しましたが、「(3)の不足の事態における猶予」については「1年間は短いのではないか、より柔軟な対応を検討してはどうか」との声が複数でています。
また、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)は「主任ケアマネ研修をより受講しやすい対応の実施」を要請。尾崎振興課長も「e-ラーニングの推進など、受講しやすい環境の整備を進める」考えを述べています。
さらに、より具体的に「主任ケアマネ研修の受講費用が地域によってばらついている。より低廉な価格での受講を可能としてはどうか」との声も出ており、尾崎振興課長は「地域医療介護総合確保基金の活用も可能である」旨を説明し、自治体への周知をさらに図る考えも示しています。
第8期介護保険事業(支援)計画策定に向け、地域区分ルールを一部見直し
介護報酬については、地域における人件費水準を考慮し単価の「地域区分」が設定されています。
例えば東京23区では人件費が高いため、ほかの自治体と同じ介護報酬のままでは、介護サービス事業所などの経営が苦しくなってしまいます。このため厚労省は人件費水準に応じて全国の自治体を8つに区分し、介護報酬の単価(1単位=10円)に上乗せを行っています。さらに、「訪問看護や訪問介護ではコストに占める人件費の割合が高いが、施設サービスでは低い」というサービスごとの人件費割合にも着目しており、介護報酬の単価は現在24種類に区分され、最大で14%の上乗せが行われています。
この点、2021年度次期介護報酬改定においては、現在の地域区分を維持しながら、新たに「当該地域の地域区分よりも高い(低い)級地が設定された地域に複数隣接し、かつ、それら隣接地域の中に当該地域と4級地以上の級地差がある地域が含まれている場合(引き上げについては、地域手当の級地設定がある自治体を除く)には、隣接地域の地域区分のうち一番低い(または高い)地域区分までの範囲で引き上げる(または引き下げる)ことを認める」という新規ルールを設ける方針が厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長から示されました。公平性の確保を目指すもので、自治体関係者委員からは歓迎の声が出ています。
自治体の「地域区分」は介護保険料に影響するため、2021-23年度の第8期介護保険事業(支援)計画策定に間に合うよう、早め(2019年12月中)に方針を固め、国と自治体とで協議を進めることになります。
なお、今年(2019年)10月の消費税率引き上げに合わせて創設された新たな【特定介護職員処遇改善加算】の効果検証に関する調査について、介護給付費分科会で実施内容が了承されています。来春(2019年3月頃)に速報値が報告・公表される見込みです。
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