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GemMed塾 看護モニタリング

中心静脈穿刺は致死的合併症の生じ得る危険手技との認識を—医療安全調査機構の提言(1)

2017.4.6.(木)

 中心静脈穿刺は、死的合併症が生じ得るリスクの高い医療行為であり、とくに▼血液凝固障害▼血管内脱水―のある患者では致命的となるリスクが高いことから、末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)による代替を含め、合議で慎重に決定すべきである―。

 日本で唯一の医療事故調査・支援センター(以下、センター)である医療安全調査機構は5日、初めての「医療事故の再発防止に向けた提言」として「中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―」を公表し、このような注意喚起を行いました(機構のサイトはこちら)。

2015年10月以降、中心静脈穿刺に係る死亡事例が10例報告

 一昨年(2015年)10月に医療事故調査制度がスタートし、予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産」のすべてをセンターに報告することが医療機関管理者に義務付けられています。この制度は「医療事故の再発防止」を目的としており、センターでは事故事例を集積していく中で具体的な再発防止策などを練っていきます(関連記事はこちらこちらこちら)。今般センターでは、中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析を行い、初の医療事故再発防止策として提言を行ったものです。

 中心静脈カテーテル挿入は日常的に行われている医療行為ですが、中心静脈穿刺(カテーテル挿入のための穿刺手技)に係る死亡事例が10例報告されています。うち8例は「穿刺合併症に関連した死亡」(推定を含む、以下同)、1例は「原因不明」、1例は「現病の進行」という内訳です。また10例中6例は合併症発生率が低いとされている超音波ガイド法によるものでしたが、うち5例が「穿刺合併症に関連した死亡」となっています。

 センターでは事例を詳細に分析し、9つの提言を行いました。

(1)中心静脈穿刺は「致死的合併症が生じ得る危険手技」との認識を持つことが最も重要。血液凝固障害、血管内脱水のある患者は、特に致命的となるリスクが高く、末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)による代替を含め、合議で慎重に決定する。

(2)中心静脈カテーテル挿入時には、必要性・患者個別のリスクを書面で説明する。特にハイリスク患者で挿入が必要と判断される場合は、その旨を十分に説明し、患者・家族の納得を得ることが重要。

(3)内頚静脈穿刺前に、超音波で▼静脈の性状(太さ、虚脱の有無)▼深さ▼動脈との位置関係―確認のためのプレスキャン実施を推奨する。

(4)リアルタイム超音波ガイド下穿刺は、超音波の特性とピットフォール(盲点)を理解した上で使用しなければ誤穿刺となり得ので、シミュレーショントレーニングを受けることを推奨する。

(5)中心静脈カテーテルセットの穿刺針は、内頚静脈の深さに比較し長いことが多いため、内頚静脈穿刺の場合、特にるい痩患者(脂肪組織が病的に減少)では、深く刺しすぎないこと。

(6)穿刺手技時、ガイドワイヤーが目的とする静脈内にあることを超音波やX線透視で確認する。特に内頚静脈穿刺の場合、ガイドワイヤーによる不整脈や静脈壁損傷を減らすために、ガイドワイヤーは20cm以上挿入しない。

中心静脈穿刺における提言(医療安全調査機構) 170405の図表
 

(7)留置したカテーテルから十分な逆血を確認することができない場合は、そのカテーテルは原則使用しない。特に透析用留置カテーテルでは、致死的合併症となる可能性が高いため、カテーテルの位置確認を確実に行う。

(8)中心静脈カテーテル挿入後の管理においては、致死的合併症の発生を念頭においた観察が必要で、▼血圧低下▼息苦しさ▼不穏症状―などの患者の変化や、輸液ラインの不自然な逆流を認めた場合は、▼血胸▼気胸▼気道狭窄▼カテーテル先端の位置異常―を積極的に疑い、迅速に検査し診断する。

(9)穿刺時にトラブルがあった場合などを含め、医師と看護師はこれらの情報を共有し、患者の状態を観察する。合併症出現時に迅速に対応できるよう、他科との連携や、他院への転院を含めたマニュアルを整備する。

 

 このうち(1)では、ハイリスク患者への実施にあたって▼どうしても中心静脈カテーテルを挿入しなければならないか▼抗凝固療法、抗血小板療法の患者は、薬剤の休薬ができないか▼PICCで代替できないか▼致死的な合併症など個別のリスク説明を行った上で同意を得ているか▼血管損傷時に対応できるバックアップ体制があるか▼血管虚脱など挿入が難しい事例は、基幹病院などとの実施連携ができないか—を複数人で検討するよう求めています。

 (5)では、解剖学的に内頚静脈は皮下約1cmの深さに位置しており、内頚静脈と総頚動脈が重なり合う位置関係にあることを踏まえ「通常2cm以内の穿刺で静脈血が吸引され、3cm以上は穿刺しない」よう提言。さらに動静脈の位置関係を考慮し「穿刺方向にも留意が必要」としています。

 また(7)のカテーテル位置確認のほか、X線所見で▼胸腔内液体貯留(血管損傷による血胸)▼気胸▼肺野の浸潤像(肺出血、肺動脈損傷)▼縦隔の健側への偏位(緊張性気胸)▼気縦隔(気管、気管支損傷)▼心陰影、縦隔陰影の拡大(心タンポナーデ、縦隔血腫)―を確認することがポイントとしています。

メーカーに「穿刺の深さを限定できる」ようなデバイスの開発を要望

 これらの提言は医療機関に向けたものですが、医療機関による努力(注意の徹底など)にも限界があります。このためセンターでは、学会や企業などに対して、(a)中心静脈カテーテル挿入の説明同意の標準仕様書の作成(b)リアルタイム超音波ガイド下中心静脈穿刺に関する教育カリキュラムの作成し、医師がそれを受講するシステムの構築(c)中心静脈カテーテル挿入の実施記録用紙、中心静脈カテーテル挿入後における患者観察チェックリストの標準仕様書作成(d)穿刺の深さを限定できるような穿刺針やガイドワイヤー、ダイレーターなどの穿刺器材の開発・技術革新―を要望しています。

  
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