適切なデータから、各病院が「地域の状況」と「等身大の姿」を把握してほしい―日病・相澤会長インタビュー(1)
2017.8.29.(火)
今年(2017年)5月末に、日本病院会の新会長に相澤孝夫氏(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)が就任されました(関連記事はこちらとこちら)。
グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、かねてより相澤会長・相澤病院と共同研究を続け、例えば「地域医療構想における、医療資源投入量に着目した高度急性期や急性期の切り分け」「重症度、医療・看護必要度のデータ精度向上」などが、国の政策にも取り入れられています。また、日本病院会が展開する出来高算定病院向け戦略情報システム「JHAstis(ジャスティス)」では、GHCが分析やレポート作成の支援を行っております。
このたび、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)代表取締役社長の渡辺幸子と、米国グローバルヘルス財団理事長のアキよしかわが、相澤会長に、日本の医療改革に向けたお考えを詳しく伺いました。
相澤会長インタビューは2回に分けてメディ・ウォッチでお伝えします。第1回は、日本の医療変革において求められる視点と、日本病院会の「病院総合医」構想です。
データを基に、地域と自身の「等身大の姿」を見なければいけない
渡辺:日本最大の病院団体である日本病院会の会長に就任されました。これから2018年度には診療報酬・介護報酬の同時改定が行われ、あわせて第7次医療計画、第7期介護保険事業(支援)計画のスタート、国民健康保険の財政単位都道府県化など、大改革が進みます。今後、病院自らも変革が求められると思われます。日本の医療、さらには病院がどう進んでいくべきか、お考えをお聞かせください。
相澤:日本の医療は嵐の中にあると思います。今、変わらなければいけない。私は、大きく2点の変革が急務であると考えています(関連記事はこちら)。
1つは、自院の機能、等身大の姿を見ることです。
これまで、ともすると「公立病院だから」「大学病院だから」「国が指定した認定病院だから」という設立主体の議論で、役割分担を考えてきたように感じます。
しかし、実際に提供している医療の内容から機能を見ていくことが重要でしょう。各病院が、客観的に「地域の状況」を把握して、「等身大の姿」を見ることがまず必要です。ここがスタートになります。
2つめに、適切なデータの整備が必要です。地域の状況を把握しようとしても、今のところデータはバラバラです。地域の状況が今どうなっていて、将来はどうなるのか、各病院の機能・役割を考えていく上で、こうしたデータが必要不可欠なのです。
日本病院会の会長として、この2点をまず進める必要があると考えています。
この2点を進めた上で、各病院のトップや経営陣が、適切なマネジメントをしていくことが求められます。日本の病院では、例えば肺がんなど、個別の疾患治療に関するマネジメントはしっかり行えていますが、病院という組織全体でのマネジメントは必ずしも適切に行えていないのではないでしょうか。そのために非効率になっている部分があると思います。
チーム医療から病院全体までマネジメントできる「病院総合医」養成
渡辺:非効率というと、具体的にはどういった点でしょうか?
相澤:先ほどの肺がん治療でいえば、執刀医自身が、術後の管理を行い、退院後も外来でフォローしています。これではあまりに非効率・非生産的なので、執刀医が「この先生なら信頼できる」という医師に術後の管理などを任せる仕組みを作りたいと思っています。現在、日本病院会では「病院総合医」養成に向けた体制づくりを進めています。
渡辺:新たな専門医制度の中で、「総合診療専門医」の養成が始まりますが、異なるものなのですか。
相澤:総合診療専門医は、卒後2年間の初期臨床研修を修了した医師を対象としています。しかし、まだ若手の先生であり、例えば肺がんの手術を担当した医師が「安心して任せられる」と考えるかどうか疑問です。これでは、執刀医が「自分で術後の管理も行わなければいけない」と考え、非効率の循環を断ち切れません。
そこで日本病院会では、6年・8年と一定の臨床経験を積んだ医師を対象に「病院総合医」として養成していこうと末永裕之副会長(小牧市民病院病院事業管理者)を中心に検討を進めています(関連記事はこちら)。アメリカでは、病棟管理と総合内科診療を行う「ホスピタリスト」という総合医が活躍しており、日本版のホスピタリストと言えるかもしれません。
10月頃に「病院総合医」の養成カリキュラムを固める予定です。このカリキュラムを実施できる施設を日本病院会で認定し、カリキュラムを修了した医師を「病院総合医」として日本病院会で認定することになります。
渡辺:壮大な計画ですね。術後管理のほかに、どういった役割を担うのでしょうか。
相澤:まず重要なのが「チーム医療のマネジメント」です。執刀医ではない、病院総合医が多職種のチームを調整します。その際、チームのリーダーを看護師が担うケースもあれば、リハビリ専門職が担うケースもあると思いますが、チーム全体のマネジメントは病院総合医に行ってもらう。
こうした経験を積むことで、チームマネジメントとはどういうものかが分かってきます。その上で、病院総合医が病棟全体を管理し、さらには病院全体を管理する院長、副院長になることも期待しています。チーム医療が分かり、地域の状況・病院の組織全体が分かる人間に病院全体を統括してもらいたいと考えています。
組織を統括するためには、「データを見て、考え、どう判断すべきか」を学ぶ必要があります。地域を見ることができ、かつ地域の変化も認識でき、さらに自院の医療も見ることができる。こういう人材が求められています。
各病院でこういう人材を養成できれば、日本の医療全体が良い方向に動いていくでしょう。
病院総合医を養成するには、少なくとも3、4年が必要です。来年(2018年)から養成を初めていけば、2025年にはなんとか間に合うのではないかな、と思っています。
適切なデータをもとに、国への提言を進める
アキ:相澤会長は、地域の医療を考える上でのデータの重要性に着目された草分けです。相澤会長がデータを見ることを初め、それが現在の政策論議にもつながってきています。厚生労働省も地域医療構想の実現に向けて、さまざまなデータを地域に提供していると聞きますが、そうしたデータを活用していくことになるのでしょうか。
相澤:さまざまなデータが出されていますが、まだまだしっくりときません。失礼を承知で言えば、今はまだ「中途半端なデータ」で物事が動いていると言わざるを得ません(関連記事はこちら)。
アキ:データによって、恣意的な導き方もできてしまいますね。だれか1人ではなく、いろいろなグループでデータ分析することが大事だと思います。
相澤:おっしゃる通りです。同じデータでも、切り口が異なれば、まったく異なる結論にたどり着いてしまいます。
先日も「医療計画の見直し等に関する検討会」で、入院前後の患者の動きから病棟の機能が分かるのではないか、といった研究結果の中間報告がなされましたが、どうでしょう。もっと単純に、誰もが納得できる切り口があるのではないでしょうか。
例えば、以前にGHCと共同で「DPCの入院期間に基づき、資源投入量がどう変化していくのか」という研究を行いました。それを見れば、どこで資源投入量が大きく減少しているかが把握でき、それはまさに病棟が提供している医療機能を反映していると言えます。
一部の研究班では、患者が入棟前にどこからきて、退棟後にどこにいくのか、看護配置がどの程度かといった切り口で病棟機能を把握しようとしていますが、そうではなく、もっと明確に考えられると思うのですが。
アキ:「医療」については、なぜか難解に考えたがる傾向があるようですね。
相澤:日本の医療は国の政策に左右されます。厚生労働省や内閣に、おかしいものはおかしいと言わなければいけません。このためにはデータによる裏付けが必要ですね。日本病院会でもデータ整備に力を入れていきます。【続きます】
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