地域医療介護総合確保基金、人材確保などにも十分に活用すべき―医療介護総合確保促進会議
2018.9.18.(火)
地域医療構想の実現や医療・介護人材の確保のために創設された「地域医療介護総合確保基金」について、これまでの交付・執行状況を見ると「人材確保」への充当が少ない。地域医療構想の実現に向けた施設・設備整備等も重要であるが、医療・介護人材の確保にも十分に資金を充てるべきである―。
9月14日に開催された「医療介護総合確保促進会議」(以下、促進会議)でこういった議論が行われました。
総合確保基金、医療・介護人材確保などにも十分な活用を
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが飛躍的に増加していくと予想されます。このため国は、2013年に「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(医療介護総合確保推進法)を制定。同法を受けて、「地域医療構想の策定・実現」や、医療計画・介護保険事業(支援)計画の上位方針となる「総合確保方針」に基づく計画の策定・推進が行われています。
さらに、2014年度からは、消費税増収分等を活用して地域における医療・介護提供体制の総合的な確保を進めるために、各都道府県で「地域医療介護総合確保基金」(以下、総合確保基金)が設置されています。現在、総合確保基金は(1)地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設・設備整備(2)居宅等における医療提供(3)介護施設等の整備(地域密着型サービス等)(4)医療従事者の確保(5)介護従事者の確保—の5事業に活用することが可能です。また(1)の医療機関の施設・設備整備では、いわゆる「箱モノ」(ハード面)だけではなく、例えば地域医療ネットワークや医療に関するデータベースの構築、地域医療構想の実現に向けた人材育成などの「ソフト」面や、さらに、今年度(2018年度)からは「医療機関のダウンサイジング」に向けた▼建物の改修(病院病棟から他用途への転換等)▼不要となる建物・機器の処分▼早期退職制度—などにも活用することが認められています。また、近く、2018年度の追加申請募集も予定されています。
厚生労働省は、9月14日の促進会議で、2014-16年度の執行状況(介護分は2015-16年度)、2017年度の交付状況、2018年度の内示状況について報告を行いました。
まず2014(15)-16年度の執行状況を見ると、医療分(上記(1)(2)(4))では交付額2711億円(国費分は1807億円)に対し、執行額1729億円(同1153億円)で、執行割合は63.8%(同63.8%)、介護分(上記(3)(5))では交付額1448億円(国費分は966億円)に対し、執行額876億円(同584億円)で、執行割合は60.5%(同60.5%)となっています。執行割合が6割程度にとどまっている点について厚労省は「▼複数年度にわたる事業▼今後実施予定の事業―があるため(2014-18年度の5か年計画を立てている場合、2017・18年度の事業はまだ実施されておらず、執行割合が低くなる)で、次第に未執行分は解消される」と見通しています。
また2017年度の交付状況を(1)-(5)の事業別に見ると、次のような状況です。
(1)地域医療構想の達成に向けた施設・設備整備:504億円(国費分は336億円)
(2)居宅等医療:39億円(同26億円)
(3)介護施設等整備:583億円(同389億円)
(4)医療従事者の確保:361億円(同241億円)
(5)介護従事者の確保:77億円(同51億円)
医療分((1)(2)(4))全体に占める各事業の割合は、(1)施設整備等:55.8%(2)居宅等医療:4.3%(4)医療従事者確保:39.9%―、介護分((3)(5))全体に占める各事業の割合は(3)施設整備:88.3%(5)11.7%―という状況です。今村聡構成員(日本医師会副会長)や齋藤訓子構成員(日本看護協会副会長)らは、「地域医療構想の実現などに向け、(1)や(3)の施設整備ももちろん重要であるが、(4)や(5)の人材確保にも十分に資金を充てるべき」と強く指摘しています。
総合確保基金は、「他の事業で補助・助成が行われている事業」の経費に活用することはできず、例えば「介護人材の処遇改善」については、介護報酬の【介護職員処遇改善加算】で手当てがなされるために、基金を充てることはできません。このため東憲太郎構成員(全国老人保健施設協会会長)らは「効果的な活用に向けて、国が指導等を行う時期に来ているのではないか」との考えを示しています。この点、末永裕之構成員(日本病院会副会長)は「医療・介護従事者の確保について、こういった事業が効果的であるといった検証が可能なよう、事業の内容と成果・効果を分析していく必要がある」と提案しました。
また、武久洋三構成員(日本慢性期医療協会会長)は、「介護施設に従事する介護職員には【介護職員処遇改善加算】で給与等引き上げの原資を確保できる。しかし、病院などの医療施設にも介護福祉士等が従事しているが、給与等引き上げのための原資はない。より柔軟に活用できるように検討すべき」と要望。さらに武久構成員からは、「小さな自治体では、介護保険料の急騰を危惧し、医療療養から介護医療院への転換に『待った』を掛けているところもある」点が改めて指摘され、厚労省医政局地域医療計画課の鈴木健彦課長と保険局医療介護連携政策課の宮崎敦文課長は、「介護療養から介護医療院への転換には総合確保基金の(3)を活用できる。医療療養から介護医療院への転換には、総合確保基金は使えないが、保険局の『病床転換助成事業』で一定の手当てが行われる」ことを説明した上で、厚労省の医政局・老健局・保険局が連携していくことを強調しました。
他方、(1)の施設整備については、上述のように「ソフト面」の整備にも活用が可能ですが、加納繁照構成員(日本医療法人協会会長)は、「電子カルテについてベンダー間でデータコンバートができないことなども問題となっている。都道府県別に個別にネットワーク等を構築しているようだが、基礎仕様が統一されていない中で、貴重な資金を使うことに問題はないのだろうか」と疑問を呈しています。
総合確保基金の使途や効果を事後評価するため、国で評価指標を設定
総合確保基金について「適切かつ効率的な活用」が求められていることは述べるまでもなく、厚労省では、構成員の意見・提案を踏まえた工夫を行っていきますが、すでに「事業評価を実施し、PDCAサイクルを回して改善していく」枠組みも設けられています。
2016年度の事業評価結果を眺めると、例えば▼具体的な目標が設定されておらず、目標の達成状況が確認できない都道府県もある▼目標が未達成の場合でも、改善の方向性を記載していない都道府県もある▼同様の事業でも、都道府県によって指標が異なり、ベンチマーク分析が困難なケースがある―ことが分かりました。今年(2018年)6月の総務省の行政評価・監視でも同様の指摘があります。
宮崎医療介護連携政策課長は、こうした課題を踏まえて、事業評価の内容を次のように改善してはどうかと提案しています。
▽計画・事業評価の記載例について、できるだけ「定量的な目標」を設定し、達成時期の明記や、未達の場合の改善方向などの記載を求める(実施済)
▽個別事業の評価指標について、厚生労働科学研究や促進会議の議論を踏まえて、国で設定する(今後、実施)
後者については、例えば▼地域医療構想に沿って、基金を活用して整備した病床機能毎(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)の病床数▼地域医療連携ネットワークの閲覧施設数・登録者数▼訪問看護ステーションの事業所数・従事者数▼特別養護老人ホーム等のユニット化率▼院内保育所の設置数▼介護サービス従事者数▼介護従事者の離職率▼看取り介護加算の算定事業所数―などが指標例として提示されました。
こうした改善方向については異論が出ていませんが、構成員からは指標の内容などについていくつか注文が付いています。例えば今村構成員は「国の定めた指標のみとすることは厳しすぎる。『指標数値のクリア』だけが目的化してしまうことが懸念される」と指摘。介護人材の確保では、「基金の活用」だけが「離職率低下」に結びつくものではなく(他の要素も関係してくる)、さらなる研究が必要ではないかと提案しています。なお宮崎医療介護連携政策課長は、「地域の実情に応じた評価が可能となるよう、各都道府県で独自の指標を追加的に設定することも可能」と説明しています。
また末永構成員も、「国が指標を定めた場合、都道府県の担当者は指標の数値クリアのみを目標としてしまう。国は『考え方』を示し、都道府県の担当者が『自分で考える』ような工夫をしてはどうか」と提案しました。
さらに加納構成員は、「大阪では特定のサービス付き高齢者向け住宅に併設する訪問看護ステーションなども多い。事業所や施設の内容・実態などを見ずに、ステーションの数や従事者数のみを指標とすることにはリスクも多いのではないか」とコメントしました。
田中滋座長(埼玉県立大学理事長)は、「構成員の指摘等を踏まえ、事業評価内容について丁寧に研究・検討してほしい。また都道府県にも事業評価の趣旨などを適切かつ丁寧に説明する必要がある」と厚労省に指示しました。来年度(2019年度)から都道府県で事業評価が可能となるよう、国で指標内容等を整理してくことになります。
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