国際医療センター・循環器病センター・国がん、ハイレベル実績を持つが大学病院本院と同じ評価基準でよいか—特定機能病院等あり方検討会(2)
2025.6.11.(水)
国立国際医療センター・国立循環器病研究センター・国立がん研究センターは、極めてハイレベルな診療・研究などの実績を持ち、高度医療を牽引する役割を十分に果たしている—。
しかし、「大学病院本院」と同じ評価指標で特定機能病院への指定を考えて良いのか?大学病院本院に新たに求められる「医師派遣」機能に匹敵する別の機能を果たしているのか、などを今後検討していく必要がある—。
6月10日に開催された「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」(以下、検討会)では、こうした議論も行われています。さらに議論を深め「大学病院本院以外の病院」が特定機能病院になる場合の要件などを固めていきます(同日に行われた「特定機能病院の医療安全確保」要件見直しに関する記事はこちら)。
大学病院以外の特定機能病院、極めてハイレベルの診療・研究などの実績もつ
特定機能病院は、我が国で最高水準の医療提供等を行う病院として、次の病院が厚生労働大臣によって指定されています。
▽総合型・大学病院本院:79施設
▽総合型・ナショナルセンター:1施設(国立国際医療研究センター病院)(なお、2025年4月より国立健康危機管理研究機構へ移行)
▽総合型・その他病院:1施設(聖路加国際病院)
▽特定領域型・ナショナルセンター:3施設(国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、国立循環器病研究センター)
▽特定領域型・その他病院:4施設(がん研究会有明病院、静岡がんセンター、大阪国際がんセンター、愛知県がんセンター)
もっとも、医学・医療の高度化が進み、例えば▼一般病院(特定機能病院以外)でも高度医療実施が増え、「大学病院を上回る診療実績を持つ一般病院」が現れてきている▼特定機能病院の中でも診療や研究に係る実績等にバラつきがある—ことなどを踏まえて、検討会では「承認要件の見直し」に向けた議論を行っています。
大学病院本院については、次のような見直し方向が固められ、今後、詳細な基準値を設定していきます(関連記事はこちらとこちら)。
▽特定機能病院として満たさなければならない「基礎的基準」と、より積極的な取り組みをみる「発展的(上乗せ)基準」—の2段階で評価する
▽これまでの「高度な診療・研究・教育」に加えて、新たに「地域医療機関への医師派遣、地域医療を守る」という新たな機能・役割を大学病院本院に求める(4本柱の機能となる)
一方、「大学病院本院以外の特定機能病院」については、診療・研究・教育などの実績をみると▼大学病院本院と、それ以外病院とで大きな違いがある▼大学病院本院「以外」の病院の間でも大きな違いがある—ことなどが明らかになり(関連記事はこちら)、「大学病院本院以外の特定機能病院」から実際にどういった機能・役割を果たしているのかをヒアリングすることになりました。
6月10日の会合には、「大学病院本院以外の特定機能病院」から▼国立国際医療センター▼国立循環器病センター▼国立がん研究センター—の3病院が出席し、次のような機能・実績が紹介されました。
●国立国際医療センター(厚労省サイトはこちら)
【高度医療】全国に4か所ある特定感染症指定医療機関の1つ、初期からの新型コロナウイルス感染症対応、エイズ対策の拠点、スーパーマイクロサージャリーによる高難度再建外科手術実施、大腸がん腹膜播種の集学的治療実施、腹膜偽粘液腫の手術実施、外来アフェレシス実施、脊髄性筋萎縮(SMA)への遺伝子治療実施、毎年1万件超の救急搬送受け入れなど
【研究】毎年、「500件超の研究実施(研究費規模は100億円前後)、Physician Scientistの育成など
【教育】臨床研修医を年間30人程度受け入れ、専門研修を実施し、へき地・離島等を含めた地方への専攻医派遣など

国際医療センターの研修成果例1(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)1 250610)

国際医療センターの研修成果例2(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)2 250610)

国際医療センターの研修成果例3(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)3 250610)
●国立循環器病センター(厚労省サイトはこちら)
【高度医療】循環器病分野における高い救急応需(95%程度)、心臓移植、神経難病CADASILへの医師主導治験、ロボット支援下低侵襲心臓弁形成術の実践、脳動静脈奇形の複合治療など
【研究】英文の原著論文数は年間400件程度、臨床研究実施件数は年間700件程度、
【教育】全国各地からレジデント・専門修練医が集合し「全国的な循環器医師ネットワーク」を構築、循環器疾患の高度急性期の実践経験を積んだ人材を全国の大学病院等に輩出、医師以外の医療従事者に対する高度研修などを実施

循環器病研究センターの研修成果例1(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)4 250610)

循環器病研究センターの研修成果例2(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)5 250610)

循環器病研究センターの研修成果例3(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)6 250610)
●国立がん研究センター(厚労省サイトはこちら)
【高度医療】早期がん病変に対する内視鏡治療・IVR(画像下治療)・高精度放射線治療・ロボット支援による低侵襲手術等・隣接臓器や転移した臓器の合併切除を含めた拡大手術などを実施、アジアがん医療ネットワーク(ATLAS)の構築、希少がん開発プラットフォーム試験(MASTER KEY Project)の実施など
【研究】日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の運営、低侵襲の外科治療技術開発を行うMIRAI Project、希少がん・難治がんなどの治療薬開発やドラッグラグ・ロスの解消を目指すFUTURE Projectの実施など
【教育】直近10年間で636名の医師へ研修を提供、全国の病院へのがん診断支援など

国がんの人材育成成果例(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)7 250610)

国がんの研究成果例(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)8 250610)
こうした診療・研究・教育の実績を踏まえ、多くの検討会構成員から▼貢献度が高い(相良博典構成員:昭和医科大学病院病院長)▼極めてハイレベルの「尖った」機能を果たしている(今村英仁構成員:日本医師会常任理事)—など3病院を賞賛する声が相次ぎました。「我が国の医療を牽引する大きな役割を果たしている」ことに疑いはないでしょう。
「大学病院以外の特定機能病院」、大学病院本院とは異なる機能を果たしているようだ
もっとも、「大学病院本院とはやはり異なる機能・役割を果たす病院である」との声も多数出ています。例えば▼大学病院本院がすでに実践し、今後、承認要件に盛り込まれる『医師派遣』機能面が見えにくい(相良構成員)▼医師以外の医療従事者(看護師、薬剤師など)への教育・研究機能面が見えにくい(吉川久美子構成員:日本看護協会常任理事)▼国立がん研究センターは「全国のがん医療を統括」する役割を果たしているが、国立国際医療センターや国立循環器病研究センターでは、そうした「特定分野の医療を統括」する役割を果たしているのかが見えにくい(山崎元靖構成員:神奈川県健康医療局医務担当部長)—などの意見が目立ちます。
このため、今後の検討において「大学病院本院以外の特定機能病院が、どのような機能を果たしており、それが現在の承認要件と照らしてどこまで合致しているのかなどを整理して検討する必要がある」(今村構成員)、「大学病院本院に求められることにある『医師派遣機能』に匹敵するような、何か別の特筆すべき機能を『大学病院本院以外の特定機能病院』がどこまで果たしているのかを今後見ていく必要がある」(吉村健佑構成員:千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センターセンター長/特任教授)、「『大学病院本院以外の特定機能病院』が卒前教育に対しどういった役割を果たしているのか、それが体系化されているのかなども見る必要がある」(村松圭司構成員:千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センター特任教授)、「ヒアリングに出席された3病院は世界に目を向けていることが確認できた。地域の砦となることが期待される大学病院本院とは評価の視点を変えていく必要がある」(猪口雄二委員:全日本病院協会会長)などの提案が出されています。
また松本真人構成員(健康保険組合連合会理事)は「大学病院本院の承認要件論議の中で、『特定機能病院には診療・研究・教育・医師派遣の4機能が求められる』といった方向が整理されたと感じている。新たな地域医療構想の考え方も踏まえて、大学病院本院以外の特定機能病院にも『高度医療+都道府県と連携した3次医療圏全体のカバー(砦機能)+医師派遣』の機能を求めるべきである」と指摘しています。
「大学病院本院以外の病院」を特定機能病院として指定する場合の要件(承認要件)論議がさらに続けられます。
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