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特定機能病院、「医療安全対策基準のさらなる厳格化」「検体検査の精度管理義務化」方針を決定―特定機能病院等あり方検討会(2)

2025.2.28.(金)

患者取り違えなどの重大な医療事故頻発を踏まえて、特定機能病院には「厳しい医療安全対策」の基準(承認要件)が設けられている。しかしその取り組み内容を詳細に見るとバラつきもあることから、さらなる医療安全の確保を実現するために、「より厳格な医療安全対策」基準(承認要件)へと見直してはどうか—。

検体検査の精度管理が、2018年から医療機関全体に「努力義務」化されている。すべての特定機能病院では検体検査の精度管理が実現できていること、高度医療提供が行われていることなどを踏まえて、特定機能病院においては検体検査の精度管理を「義務」化してはどうか—。

2月26日に開催された「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」(以下、検討会)では、こうした具体的な方針も概ね固められました。今後、他の承認要件と併せて見直しが行われます(他の承認要件見直しに関する記事はこちら)。

2月26日に開催された「第23回 特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」

特定機能病院の「医療安全対策」の基準(承認要件)を厳格化、さらなる安全対策求める

特定機能病院は、我が国で最高水準の医療提供を行う病院として厚生労働大臣から指定されます。しかし、複数の特定機能病院において患者の取り違えなど重大な医療事故が相次いだことなどを踏まえ、例えば、▼「第三者評価の受審」を承認要件に盛り込む▼ガバナンスを強化する(外部監査委員会の設置など)▼医療安全体制を強化する(副院長をトップとする医療安全管理部門の設置など)―などの体制強化が順次なされてきています(関連記事はこちらこちらこちら)。

このうち「医療安全対策」については、例えば次のような取り組みを行うことが特定機能病院に求められています。

(1)医療安全管理責任者を配置する
→責任者は▼医療安全管理部門▼医療安全管理委員会▼医薬品安全管理責任者▼医療機器安全管理責任者―を統括する

(2)医療安全管理部門(専従の医師、薬剤師、看護師を配置)を設置する
→医療事故などが発生した場合に▼診療録などの確認▼患者・家族への説明▼発生原因の究明▼対応状況の確認▼従事者への必要な指導―などを実施する

(3)高難度新規医療技術・未承認医薬品を用いた医療提供の適否などを決定する部門を設置し、これらの医療提供を行う場合に遵守すべき事項などを定めた規定を作成する
→高難度新規医療技術とは、「当該病院で実施したことのない医療技術で、実施によって患者の死亡その他の重大な影響が想定されるもの」を指す

(4)監査委員会(3名以上で、委員長と委員の過半数は「病院と利害関係のない者」から選任)を設置し、委員名簿と選定理由を厚生労働大臣に提出し、公表する

(5)入院患者が「死亡した場合」や「死亡はしていないものの、通常の経過では必要ない処置・治療が必要になった場合(特定機能病院の管理者が定める水準以上の事象に限る)」には、(2)の医療安全管理部門に事実と発生状況を報告する(モニタリング)

(6)他の特定機能病院と連携し、年に1回以上、他の特定機能病院に職員を立ち入らせ、必要に応じて医療安全管理の改善に向けた技術的助言を行う(合わせて立ち入りを受け、助言を受ける、いわゆるピアレビュー)

特定機能病院における医療安全管理要件の見直し(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)10 250226)



これら医療安全対策は承認要件の1つに位置付けられており、当然、現状でもすべての特定機能病院でこれらの取り組みが行われています。しかし、検討会では「形だけに終わっている面があるのではないか、実質的な取り組み状況にはバラつきもあるのではないか」との指摘がなされ、今般、厚生労働科学研究の一環として「特定機能病院の医療安全対策の実態」調査が行われました。2月26日の検討会では、研究班のトップである永井良三参考人(自治医科大学長)から次のような調査結果報告が行われています。

【モニタリング等】(上記(5)関連)
▽諸外国で「ネバーイベント」(起きてはいけない事象)などとして「確実な把握や検証」が求められている重大事象について、2―4割程度の特定機能病院では院内の第三者部門(医療安全管理部門等)が確実に把握する体制とはなっていない

重大事象モニタリングの実態1(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)1 250226)

重大事象モニタリングの実態2(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)2 250226)



▽院内の第三者部門(医療安全管理部門等)の「診療に介入する基準」設定は24%にとどまった

重大事象が生じた場合の診療介入基準(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)3 250226)



【管理者、医療安全管理責任者、医療安全担当者、各部門の長、部署の医療安全担当者の背景や役割】(上記(1)(2)関連)
▽医療安全管理責任者(副院長)の「医療安全の経験」にはバラつきがあり、「医療安全管理部門の専従/専任/兼務医師の経験」を有する医療安全管理責任者は58%にとどまった

医療安全管理責任者の経験(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)4 250226)



▽「医療安全管理部門での従事経験を有する医療安全管理責任者(副院長)」のほうが、そうでない場合と比較して医療安全業務に積極的にかかわっている

医療安全管理責任者の経験と診療介入(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)5 250226)



【監査委員会】(上記(4)関連)
▽88%の病院で監査委員会の構成員に「医療安全の有識者」が含まれ、46%の病院で監査委員会の構成員として「特定機能病院の専従医師の経験者」が含まれている

監査委員会メンバー(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)6 250226)



▽監査委員会で実施されている監査の内容にはバラつきがある

監査委員会の監査内容1(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)7 250226)

監査委員会の監査内容2(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)8 250226)



これらの状況を見ると「特定機能病院の中でも、医療安全対策の取り組み状況には差があり、さらなる医療安全対策強化を進めていく必要がある」と考えられます。例えば、「モニタリング」については、諸外国で「ネバーイベント」などに位置付けられている事項が十分に把握されていない特定機能病院もあり、「先進諸国の基幹病院と同程度の取り組みを求めていく」ことが重要でしょう。

こうした状況を受けて厚生労働省医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室の松本晴樹室長は、「特定機能病院に、さらなる医療安全確保に向けた取り組みを行ってもらう」ために、医療安全対策の基準(承認要件)を次のように見直してはどうかと提案しました。

【モニタリング等】(上記(5)関連)
▽重大事象を次のA・B・Cに区分し、医療安全部門への報告内容などを求める
▼A類型
→患者への影響度が大きく、確実に回避する手段が普及している事象(諸外国でネバーイベント等として定義されている事象等
→例)誤認手術、異物遺残、ABO不適合輸血、高濃度カリウム液や抗がん剤の過量投与、投与経路間違えなど
→これらは事象を明確に定義(別途リスト化)したうえで、「医療安全管理部門への報告」を求め、全例について検証(医療安全管理部門と当該事象が発生した部署等が中心となって検証し、結果を医療安全管理委員会・登録分析機関に報告する)と再発防止対策の実施を求める

▼B類型
→患者への影響度が大きいが、事例によって回避可能性が異なる事象(ただし、繰り返される場合には、構造的な背景要因が存在する可能性があるため検証が必要)
→例)ハイリスク医療における合併症(侵襲的手技の重大合併症、化学療法による有害事象での重症化等)、医学的管理の問題(患者状態変化への対応等)、療養上の問題(転倒転落・身体拘束による重症化、自殺等)など
→これらは事象を明確に定義(別途リスト化)したうえで「医療安全管理部門への報告」を求め、医療安全管理委員会で発生の傾向を把握し、疑義がある場合には検証(上記)・再発防止対策を実施する

▼C類型
→患者への影響度が比較的小さい事象
→これらは医療安全管理部門への報告が望ましく、「報告・学習の意義等に関する従業者の 認識を高める」「特に回避可能性の高い事象については、手順見直しや職員教育等の改善活動を継続する」こととする

▽A類型・B類型事象のうち「再発防止対策が必要」と判断されたものについては、以下のプロセスで再発防止対策を講じる(プロセスを定める)
▼現行どおり、医療安全管理部門は従業者に必要な指導を行う(既存の医療事故報告等義務にプラスアルファする)
▼医療安全管理部門が「重大な事案が生じた」と認める場合には、医療安全管理委員会で「当該部署等への必要な介入(特定技術の一時的な停止などを含む)」を議論し、管理者(院長等)に報告する
▼管理者(院長等)は「医療安全管理委員会の報告を受けた場合には、当該部署等に介入する」ものであることを明確化する。ただし「緊急を要する」と認める場合には、医療安全管理委員会の議論を経ず、「管理者の判断で当該部署等に介入」する
▼監査委員会で「医療安全管理部門の指導」「医療安全管理委員会の議論」「管理者の判断の状況」の記録を監査する
▼上記の権限・責務・意義などを「管理者への医療安全研修」に盛り込む

モニタリング要件の見直し方向(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)9 250226)



【管理者、医療安全管理責任者、医療安全担当者、各部門の長、部署の医療安全担当者の背景や役割】(上記(1)(2)関連)
▽医療安全のガバナンスのために「医療安全管理責任者に求められる役割・業務」などを明確化する
▽医療安全管理責任者の要件として「医療安全管理部門での業務経験」(専任以上であることが望ましい)を求める
▽別に「医療安全管理に資する医師」の計画的育成を進める



【監査委員会】(上記(4)関連)
▽監査委員会に「医療に係る安全管理に関する識見を有する者」を置くことを必須とし、当該者には「特定機能病院の医療安全専従者の一定の経験」(例えば3年以上)を求める
▽監査委員会の業務に「管理者の業務の状況の確認」を追加し、監査内容に「重大事案について医療安全管理委員会から報告を受けた場合に、当該部署等に対し必要な介入を行った記録の確認等を行う」ことを追加する
▽監査委員会の既存の業務である「医療安全管理部門、医療安全管理委員会の業務状況の確認」について、それぞれ「従業者に必要な指導を行っているか」「医療安全管理部門が重大な事案が生じたと認めた場合に当該部署等への必要な介入を議論し、管理者に報告しているか」に関する記録の確認等が含まれることを明確化する
▽他の外部評価(ピアレビュー等)との関係を整理する



「かなり具体的な見直し内容となっている」ものと、「細部(経験年数など)をより具体的に詰める」ものとがありますが、これらの内容は概ね了承されました。今後、さらに詳細を詰め、他の承認要件見直し(基礎的基準・発展的(上乗せ基準)の2段階評価、医師派遣実績の要件化など)と同じタイミングで、医療安全対策要件の見直しが行われます。



ところで、上記の医療安全対策の実情については、松本真人構成員(健康保険組合連合会理事)や山崎元靖構成員(神奈川県健康医療局医務担当部長)、本田麻由美構成員(読売新聞東京本社医療部編集委員)から「必ずしも十分な医療安全対策が行われているわけではない点に驚いた。『医療安全の確保が最優先事項である』と意識改革をしてもらわなければ根本的な解決にならない」「大学病院本院は地域全体の医療安全を牽引すべきであり、地域の医療安全確保への貢献度合いを承認要件に盛り込むことも考えたい」といった厳しい指摘も出ています。

こうした声にもしっかりと耳を傾ける必要がありますが、安全対策・事故報告などに関しては「報告しない場合にペナルティを課すような厳しい対応」をとった場合には「ペナルティを厭い、事故などを隠蔽してしまう」ケースが起きてしまします。松本医療安全推進・医務指導室長は「細部の問題点をあげつらうのではなく、特定機能病院が医療安全の取り組みを強化できる、しやすい環境・体制を整えたい」旨の考えを示しています。

なお、本調査には20病院(全体の2割強)が回答していないことを問題視する構成員もいましたが、調査(昨年(2024年)12月20日から本年(2025年)1月24日)が大学にとって極めて多忙な時期(入試等)であったことも勘案する必要があるでしょう。

検体検査の精度管理、特定機能病院では努力義務から「義務」へ厳格化

2月26日の検討会では「検体検査の精度管理」も議題にあがりました。

医療機関における検体検査の精度管理については、2017年の医療法改正で「国による基準設定」の根拠規定を創設。さらに「検体検査の精度管理等に関する検討会」の議論を踏まえて、遺伝子関連・染色体検査「以外」についての内部精度管理の実施、外部精度管理調査の受検について努力義務が課されています(2018年12月施行、関連記事はこちら)。

検体検査の精度管理の義務化状況(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)11 250226)



この点、特定機能病院についても上記努力義務が課されていますが、「すでに、すべての特定機能病院で精度管理が実施されている」実態があります(ISO認定以外も含めれば全病院で精度管理が行われている)。

特定機能病院における検体検査精度管理は確実に実施されている(ISO以外の含めると100%になる)(特定機能病院・地域医療支援病院在り方検討会(2)12 250226)



松本医療安全推進・医務指導室長は、こうした実態や、高度医療を提供する特定機能病院等には「より高いレベルでの検査の精度管理」が求められている点などを踏まえ、遺伝子関連・染色体検査「以外」についての内部精度管理の実施、外部精度管理調査の受検について、現在の「努力義務」から「義務」に格上げすることを提案しました。

すでにすべての特定機能病院で十分な精度管理が行われ、これを後追いする形で今般の提案が行われたため、構成員から異論・反論は出ていません。

上述した「医療安全対策に係る承認要件の見直し」「他の承認要件見直し(基礎的基準・発展的(上乗せ基準)の2段階評価、医師派遣実績の要件化など)」と同じタイミングで、精度管理の義務付けが行われます。



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