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AI搭載したロボットが高齢者グループの会話を誘導し、認知症予防に―保健医療AI開発加速コンソーシアム

2019.2.19.(火)

 認知症予防策の1つとして「社会的活動」「会話」などがあり、AIを搭載したロボット等を活用して認知症予防などに役立てる研究を進めている。技術革新などを進めるとともに、介護施設の規制緩和などを行い、介護ロボット等の導入をさらに進めるべきではないか―。

 2月14日に開催された「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」で、こういった議論が行われました(関連記事はこちら)。

2月14日に開催された、「第5回 保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」

2月14日に開催された、「第5回 保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」

 

社会的交流の少ない人は、そうでない人に比べて認知症発症リスクが8倍

大量の知識データに対し高度な推論を的確に行うことを目指す人工知能(AI:artificial intelligence)の技術が進み、保健医療分野での活用が既に始まっています。厚生労働省は、(1)ゲノム医療(2)画像診断支援(3)診断・治療支援(問診や一般的検査等)(4)医薬品開発(5)介護・認知症(6)手術支援―の6分野を、AI活用を重点的に進める分野に定め、専門家で構成される「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」(以下、コンソーシアム)においてAI活用推進方策などを議論しています。

2月14日のコンソーシアムでは、(5)の介護・認知症分野におけるAI活用に関し、次の2点の研究報告が行われました。

▼認知症ケアおよび介護におけるAIおよびロボットの活用(近藤和泉:国立長寿医療研究センター健康長寿支援ロボットセンターセンター長)
▼防ぎうる認知症にならない社会に向けた技術開発を起点とする取り組み(大武美保子:理化学研究所革新知能統合研究センター(AIP)認知行動支援技術チームチームリーダー、ほのぼの研究所所長)

 
 後者の大武参考人は、認知症のうち「長年の生活習慣に起因すると考えられる『防ぎうる認知症』」の予防に向けて、AIを搭載したロボットの活用に向けた研究を行っています。

認知症の発症リスクを高める要素の1つとして、「社会的孤立」があげられます。他人とのコミュニケーション、端的に「会話」の不足が、認知症を誘発・重症化させてしまうと考えられます。社会的交流が少ない人は、多い人に比べて、認知症の発症率が約8倍になるという研究結果もあります。

逆に言えば、他人との「会話」の機会が増えれば、それだけ認知症の発症リスクを抑えることができると考えられます。これを実証にするために、大武参考人は「共想法」という手法を用いた研究を実施しています。数人のグループをつくり、▼好きな食べ物▼近所の名所▼おそうじビフォーアフター▼50年後に伝えたい今の暮らし―などのテーマを設けて「話題と写真」を準備し、1人1人の持ち時間を決めてグループ間で会話をするという手法です。そこでは「他人に話す」ことはもちろん、「他人の話を聞く(聞きながら自分の話を考える」「笑う」「話者の交代に注意する」ことが認知機能の低下予防に有用であることが分かってきています。

この研究と併行して大武参考人は、「会話ロボット」を活用した「共想法」の実施研究も実施。AIを搭載したロボットがグループの司会者となり、グループ全員がバランスよく話し、聞くことができるようにするものです。司会者がいることで、「会話が弾まないグループ」ができてしまったり、「1人だけが話してしまうグループ」ができてしまうことを避けるとともに、ロボットの存在により「話を止められたことによる不快感がない(人に止められると不快感があるが、ロボットに止められると、かえって笑いが生まれる)」というメリットがあるようです。
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ロボットを活用することで、「司会をする人」の確保が不要となり、多くのグループを設定することができます(人は少人数で各グループの状況をチェックするのみ)。また、通常のロボットでは「司会」を行うことは困難ですが、AIを搭載することで「司会」までもが可能となります。さらに、グループの中に笑い上戸な人がいると会話が弾みますが、AI搭載のロボットが笑い上戸役を引き受け、すべてのグループで弾んだ会話を引き出すことも可能となっています。

大武参考人は、「認知症になる手前で、現在の認知能力を維持できるようにする必要がある。8020運動により、自分の歯牙を保有する高齢者の割合は飛躍的に向上した(歯牙喪失高齢者の割合は1975年の20%から、2005年には2%に激減)。この取り組みを参考に認知症対策を進めるべきである」と強調。あわせて「公的年金の受給開始時点で認知機能検査を行い、データ収集するなどの大規模な調査を行うべき」とも提案しています。

 
 また近藤参考人は、アミロイドβ(アルツハイマー型認知症の原因物質の1つと考えられている)などの蓄積が始まってから脳構造変化・認知機能低下が生じるまでには20年ほどかかる。また、アミロイドβなどが蓄積しても認知機能が低下しない高齢者がいることも併せて紹介し、「認知機能低下が生じる前に、さまざまな対策、とくに『活動』を積極的に行うことが認知症予防で極めて重要である」と強調。

 やはりロボットやAIを活用した、『活動支援』=『認知症予防』等に取り組んでいる現状を紹介しました。そこでは、コミュニケーションロボット(トヨタ自動車と共同開発しているポコビィ)のほか、▼杖ロボット(二足に比べて歩行が著しく安定する)▼夜間排尿サポートシステム(見守りセンサー・ポコビィ・歩行器ロボットを組み合わせたシステム)―なども開発している状況が報告されました。
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 近藤参考人は、介護施設や高齢者施設における規制緩和や補助を、AI等に関する技術革新と組み合わせることの重要性も指摘しています。

 
 少子高齢化が進行する中では、特に介護分野でマンパワーが不足すると予想されます。そうした中で、ロボットやAIを積極的に導入し、マンパワー不足を補っていくことが求められます。すでに2018年度の介護報酬改定では、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設、短期入所生活介護)において見守り機器などのロボットを「0.1名」にカウントし、人員配置要件を緩和するなどの取り組みが始まっており、その効果検証を踏まえて、2021年度以降の介護報酬での拡大も期待されています(関連記事はこちら)。

がん患者のゲノムデータや臨床情報、優れた治療法開発のため2次利用を認めるべき

 2月15日の会合では、がんゲノム医療の推進に関して、間野博行構成員(国立がん研究センター研究所長)からのプレゼンも行われましたが、その中で「データ入力の手間」が論点の1つとなりました。

 「患者の遺伝子情報を解析し、より効果のある治療方法(抗がん剤など)を選択する」がんゲノム医療の推進が求められています。例えば、次のような流れで治療法選択を補助する仕組みが考えられています。

▼患者の同意の下で、検体を遺伝子解析(エキスパートパネル検査と呼ばれる、多くの遺伝子解析を一度に行う手法)する

▼臨床情報と遺伝子情報を国立がん研究センターの「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT:Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics)に集積されたデータと照らし合わせ、最適な治療法を提示する
保健医療分野AI活用推進コンソーシアム5 190214
 
「ある遺伝子に変異のあるがんでは、この抗がん剤治療が効果的である」という情報が徐々に明らかになってきており、個々のがん患者に最適な治療法が見つかることが期待されます(もちろん、まだ最適治療法が見つかっていない遺伝子変異なども多いが)。

この点に関連して、宮田裕章構成員(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授)らは、優れた医薬品開発などのためにも、「登録情報の2次活用(例えば製薬企業などへの提供)を解禁すべき」と提案しています。ゲノム医療等の情報が、特定個人を特定できる場合には「個人情報」に該当し、患者の同意のない限り、その情報を製薬企業等に提供することはできません(個人を特定できない、匿名加工を施すなどすれば、一定の情報提供が可能)。個人情報保護のために重要な仕組みですが、医薬品に限らず「優れた治療方法の開発」といった公益目的のための活用を一定程度認めるべきと宮田構成員らは強く訴えています。

 
また、山内英子構成員(聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長)らは、「情報の入力は依然として人手に頼っており、ここにこそAI等を活用できないものか。医師の負担軽減にもつながる」とコメント。間野構成員も賛意を示した上で、臨床情報は、電子カルテなどから吸い上げる仕組みができつつあることなどを紹介。さらに羽鳥裕構成員(日本医師会常任理事)は、「電子カルテの最低限の指標を定め、それに合致しないシステムは電子カルテとして認めないなどの対策をとるべき」と提案しています。

 
 
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