医療の質向上のため、7割近くの国民が「医療機関の統廃合」を支持―内閣府・世論調査
2019.11.27.(水)
都道府県による医療情報ネット(医療機能情報提供制度)、厚生労働省による#8000(子ども医療電話相談事業)について、国民の8割程度は「知らない」―。
医師の働き方改革について、7割強の国民は「行政、医療機関、民間企業、国民が全体で取り組むべき」と考えている―。
医療の質向上等のために、医療機関の統廃合が必要であることを7割近くの国民が支持している―。
こうした状況が、内閣府が11月22日に公表した「医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査」結果から明らかになりました(内閣府のサイトはこちら)。
目次
かかりつけ医、若年世代で「いない」が多くなる
今般の世論調査では、▼医療のかかり方(医療機関の選び方、休日・夜間の受診、医師の長時間労働の改善、医療機関の機能分化・連携)▼女性の健康―について、18歳以上の日本国民2803名を対象として考え方を調査しました。本稿では「医療のかかり方」に焦点を合わせます。
医師をはじめとする医療従事者の働き方や、地域医療構想の実現が重要な課題となっていますが、そこでは「患者、国民が上手に医療にかかる」、「医療機関の統廃合について一定の理解をする」という協力が不可欠です。
前者では、いかに医師の時間外労働を規制したとしても、患者側が「軽症だが日中の受診は混んでいて、待たされる。空いている夜間の救急外来を受診しよう」と考えたのでは、医師の負担軽減は実現できません(医師の働き方改革に関する厚労省検討会の記事はこちらとこちらとこちらと こちらとこちらと こちらとこちら)。
また後者では、「少子化により全国で患者数が減少傾向にある中では、医療の質を確保し、また医療機関経営を維持するために、一定程度の再編統合や機能集約(小児科や救急科をある病院に集約するなど)が必要」となりますが、住民が「近所の病院がなくなるのは困る」と主張を続けていたのでは、再編統合は進まず、地域の医療提供体制が脆弱化してしまいかねません。
そこで今般、国民の「医療のかかり方」に関する意識調査を行ったものです。
まず医療機関のかかり方について、政府は「まず身近な『かかりつけ医』を受診し、そこから専門病院や大病院の紹介を受ける」という流れを促しています。多くの軽症患者が大病院を受診すれば、大病院の医師が疲弊するとともに、重症患者の医療へのアクセスが阻害されてしまいかねないためです。
この点、「かかりつけ医」のいる割合は、全体では52.7%(男性49.6%、女性55.2%)となりました。年齢階級別にみると、70歳以上の高齢者では80%が「かかりつけ医がいる」と回答していますが、30歳未満では3割に届きません。
「かかりつけ医」のいない人に、その理由を尋ねたところ、▼かかりつけ医の必要性について考えたことがない(27.6%)▼かかりつけ医を選ぶ際の必要な情報が不足している(16.3%)▼かかりつけ医に適していると思う医師がいない(14.6%)▼大きな(複数の診療科があり、病床数も多い)医療機関に行けばよい(14.9%)―という答えが返ってきています。とくに若年世代で「かかりつけ医の必要性について考えたことがない」との回答が多くなっています。若いうちは医療機関にかかることも少なく、また生活習慣病等への罹患も少ないことから「かかりつけ医の必要性」を意識する機会も少ないことが背景にあると考えられます。
また、国民が「かかりつけ医」に何を求めているのかを見ると(かかりつけ医を選んだ理由など)、▼病状、治療内容など、分かりやすく説明をしてくれる医師(60.3%)▼必要なケースで専門医療機関などを紹介してくれる医師(54.0%)▼話を十分に聞いてくれる医師 (47.2%)▼近隣の医師(40.9%)―などが多くなっています。医療機関側と国民側とで、「かかりつけ医」に対するイメージに大きな差はなさそうです。
ところで、都道府県では、住民が医療機関を適切に選択できるような情報を提供する「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」を運営しています。この認知度を見ると「知らないので、利用したことがない」との声が82.6%と圧倒的で、年齢による差はそれほどありません。
また、12.1%の人は「医療情報ネットを知っているが、利用したことがない」と答えており、その理由としては▼かかりつけ医がいるので、利用する必要がない(44.4%)▼受診する医療機関を決めている(34.0%)▼インターネット上で検索すれば、医療機関の情報が得られる(22.5%)―などが多くなっています。
国民の43%、「緊急性を判断」できず夜間に医療機関を受診する
上述のように医師の負担軽減等を考慮すれば、できる限り診療時間内、つまり「日中」に受診することが期待されます。
とはいえ、「仕事のために平日、日中の受診が難しい」人が少なくないという現実もあります。この点、国民の43.8%は「自分の職場は平日受診に向けて取り組んでいると思う」と考えてり、またさらなる平日受診の拡大に向けて、▼体調が悪いときは休みがとれる雰囲気を作り出してほしい(70.9%)▼職員の健康を守ることを、組織の基本方針の一つとしてほしい(54.8%)▼業務代行できるよう職員間の情報共有を推進してほしい(43.6%)▼勤務時間が柔軟となるような働き方(フレックスタイム制、1時間単位の休暇制度など)を推進してほしい(34.6%)―などに期待しています。
「緊急性がある」と考えられる場合に、夜間の医療機関受診をすることは当然ですが、国民の43.0%は「症状から緊急性が判断できない場合」に夜間受診を選択すると考えています。ほとんどの国民は医療に関する知識が乏しく、自分自身や家族の症状をみても「緊急の医療機関受診が必要なのか、それとも朝まで様子を見ればよいのか」の判断がつかないためです。
この点、小児医療については厚生労働省が「#8000」(子ども医療電話相談事業)を実施しています。休日や夜間に「子どもの様態がおかしいが医療機関を受診すべきか」などの相談に小児科医等がアドバイスを行うものですが、8割近く(76.7%)の国民が「知らないので、利用したことがない」と答えており、「知っていて、利用したことがある」人は6.3%、「知っているが、利用したことはない」人は15.6%にとどまっています。
さらなる普及啓発に努めるとともに、一部に▼電話がつながるまでの時間が長い(21.6%)▼助言の内容は理解できるが、相談したことが解決しない(19.9%)―という不満もあり(不満なしが半数程度)、事業内容の改善の余地もまだありそうです。
医師の働き方改革は、国全体で取り組むべき
ところで、冒頭に述べた「医師の長時間労働」是正に向けて、7割強(71.7%)の国民は「行政、医療機関、民間企業、国民が全体で取り組むべき」と考えており、決して「他人事」とは捉えていません。
このため国民側も、例えば「病状について、主治医以外の医師が説明する」ことに70.9%が賛成しています。ただし、その際には▼診療方針が主治医と異ならないようにしてほしい(59.7%)▼主治医以外の医師が説明することについて、あらかじめ了承を得てほしい(57.6%)▼説明内容を主治医に報告してほしい(53.1%)▼きめ細やかなコミュニケーションを心がけてほしい(43.3%)―という配慮も求めいています。いわゆる「複数主治医制」などを採用する場合に参考にすべきでしょう。
医療機関の統廃合、7割近くの国民が支持
また医療機関の統合再編等について、「複数の医療スタッフで業務を分担しながら24時間診療が行えるよう、いくつかの医療機関を統廃合することで医療スタッフを集めるという考え」には68.9%の国民が賛意を示しましたが、28.2%は反対しています。
反対派にその理由を尋ねたところ、▼統廃合により医療機関が減るので、医療機関を選択しにくくなると思う(32.7%)▼医療機関までの所要時間が長くなると思う(34.2%)▼医療機関を統廃合してまで24 時間診療する必要性を感じない(22.8%)―などが多くなっています。
医療機関までの所要時間に関する国民の感覚を見ると、「入院の必要がない病気やケガ」では▼15分以上30分未満(50.9%)▼30分以上1時間未満(30.1%)▼15分未満(14.6%)―などが多く、「数日間の入院が必要な病気やケガ」では▼30分以上1時間未満(43.7%)▼15分以上30分未満(35.2%)▼1時間以上1時間半未満(9.6%)―などが多くなっています。
再編統合を考える際の「1つの目安」になるでしょう(関連記事はこちらとこちら)。
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