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GemMed塾 大学病院本院群を取り巻く現況を解説 ~昨今の特定病院群・標準病院群の経営努力とは~

BRCA1/2遺伝子変異、乳・卵巣・膵・前立腺がん以外に、胆道・食道・胃がん発症リスク上昇に関連―国がん等

2022.4.20.(水)

BRCA1/2遺伝子の変異が「乳がん」「卵巣がん」「膵がん」「前立腺がん」の発症リスクを高めることは知られている―。

さらに今般、広範な遺伝子解析を行ったところ、BRCA1/2遺伝子の変異がほかにも「胆道がん」「食道がん」「胃がん」などの発症リスクと深く関係していることが判明した―。

国立がん研究センター、東京大学、愛知県がんセンター、理化学研究所、杏雲堂病院、昭和大学病院、岡山大学、日本医療研究開発機構は4月15日に、こうした内容の研究結果「10万人以上を対象としたBRCA1/2遺伝子の14がん種を横断的解析」を公表しました(国がんのサイトはこちら)。患者個々の遺伝子変異などに合わせた「個別化医療」に向けて、また1歩前進しています。

統計的信頼性はやや低くなるが、「肺がん」「肝がん」「腎がん」などとの関連も

ゲノム(遺伝情報)解析技術が進み、▼Aという遺伝子変異があるとがんが発症しやすい▼A遺伝子によるがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的である▼別Bという遺伝子変異のある患者にはβ抗がん剤とγ抗がん剤との併用投与が効果的である―などの知見が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいて最適な治療法(抗がん剤)の選択が可能になれば、がん患者1人1人に対し「効果の低い治療法を避け、効果の高い最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。

そうした研究が進む中で、一部のがんでは「ゲノム配列上のわずか1か所の配列違い」(遺伝的バリアント)によって発症率が大きく上昇することが知られ、その1つにDNAに生じた変異を修復する「BRCA」タンパク質の遺伝子変異があります。BRCA1またはBRCA2というタンパク質(このタンパク質がDNA変異を修復する)を作り出す遺伝子(BRCA1/2遺伝子)に変異が生じると、DNAの変異を上手に修復できず、結果「がんが発症しやすくなる」と考えられています。

これまでの研究では、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵がんにおいてBRCA1/2遺伝子の変異が発症リスクを高めていることが分かっています(例えば、乳がんでは10倍、卵巣がんでは数十倍ほど発症率が高くなる)。

さらに今般、国がん等の研究班は「BRCA1/2遺伝子の変異が他のがんについても発症リスクを高めているのではないか」との仮説の下、14種のがん(▼胆道がん▼乳がん▼子宮頸がん▼大腸がん▼子宮体がん▼食道がん▼胃がん▼肝がん▼肺がん▼リンパ腫▼卵巣がん▼膵がん▼前立腺がん▼腎がん―)について、10万3261人(患者群6万5108人、対照群3万8153人)を対象にBRCA1/2遺伝子のゲノム解析を実施。その結果、次のような点が明らかになりました。

▽BRCA1遺伝子の病的バリアント保持率が高いのは、卵巣がん、男性乳がん、助成乳がん、胆道がん―など

▽BRCA2遺伝子の病的バリアント保持率が高いには、男性乳がん、卵巣がん、胆道がん、助成乳がん、膵がん、前立腺がん―など



さらに、この「病的バリアント保持率」を対照群と比較すると、「BRCA1/2遺伝子の変異が、どのがんを発症させやすいか」について次のような状況が明らか判明しました。

【BRCA1遺伝子の変異】
▽女性乳がん(16.1倍)
▽卵巣がん(75.6倍)
▽膵がん(12.6倍)
▽胃がん(5.2倍)
▽胆道がん(17.4倍)
▽肺がん(3.7倍、ただし統計的な信頼性がやや低い)
▽リンパ腫(7.7倍、ただし統計的な信頼性がやや低い)

【BRCA2遺伝子の変異】
▽女性乳がん(10.9倍)
▽男性乳がん(67.9倍)
▽卵巣がん(11.3倍)
▽膵がん(10.7倍)
▽前立腺がん(4.0倍)
▽胃がん(4.7倍)
▽食道がん(5.6倍)
▽子宮頸がん(3.2倍、ただし統計的な信頼性がやや低い)
▽子宮体がん(4.0倍、ただし統計的な信頼性がやや低い)
▽肝がん(2.4倍、ただし統計的な信頼性がやや低い)
▽腎がん(4.5倍、ただし統計的な信頼性がやや低い)

国がん等の研究班は「BRCA1/2遺伝子の変異は、より広範ながん種の発症リスクを上昇させる。特に東アジアに多い胃がん、食道がん、胆道がんの3がん種の疾患リスクを高める」と指摘しています。

乳がんになる確率、遺伝子変異ない場合10%未満だが、変異あれば60-70%超に上昇

さらに「何歳までに、どの程度の割合でがんが発症するのか」を、BRCA1/2遺伝子変異との関連がすでに知られている「乳がん(女性)」「卵巣がん」「膵がん」「前立腺がん」のほか、今般、新たに関連が判明した「胆道がん」「食道がん」「胃がん」の7つのがん種について次のように分析しています。

BRCA遺伝子変異がある場合の、85歳までの部位別がん発症リスク(3)



【女性乳がん】
85歳までに乳がんになる累積リスクは、遺伝子変異がない場合には10%未満だが、BRCA1遺伝子の変異があると72.5%、BRCA2遺伝子の変異があると58.3%―

【卵巣がん】
85歳までに卵巣がんになる累積リスクは、遺伝子変異がない場合には数%にとどまるが、BRCA1遺伝子の変異があると60%超、BRCA2遺伝子の変異があると10%強―

【膵がん】
85歳までに膵がんになる累積リスクは、遺伝子変異がない場合には数%未満にとどまるが、BRCA1遺伝子の変異があると15%超、BRCA2遺伝子の変異があると15%程度―

【前立腺がん】
85歳までに前立腺がんになる累積リスクは、遺伝子変異がない場合には5%程度にとどまるが、BRCA2遺伝子の変異があると25%弱―

BRCA遺伝子変異がある場合の、85歳までの部位別がん発症リスク(1)



【胆道がん】
85歳までに胆道がんになる累積リスクは、遺伝子変異がない場合には1%強にとどまるが、BRCA1遺伝子の変異があると11%程度―

【食道がん】
85歳までに食道がんになる累積リスクは、遺伝子変異がない場合には1%程度にとどまるが、BRCA1遺伝子の変異があると5%強―

【胃がん】
85歳までに胃がんになる累積リスクは、遺伝子変異がない場合には5%程度にとどまるが、BRCA1遺伝子の変異があると20%超、BRCA2遺伝子の変異があると20%弱―

BRCA遺伝子変異がある場合の、85歳までの部位別がん発症リスク(2)



なお、BRCA1/2遺伝子の女性乳がんやBRCA2遺伝子の前立腺がんは「年齢が上がるとともに、病的バリアント保持率が下がっていく」ことも分かりました。国がん等の研究班は「1つの遺伝子が原因となる疾患では、一般的に年齢が若いときに発症しやすいことを反映している」と説明。一方、卵巣がんでは「BRCA1/2遺伝子ともに年齢とともにその病的バリアント保持率は上昇する傾向にある」ため、今後の研究課題に位置づけられています。



このように「ある遺伝子に変異がある場合に、特定のがん種の発症リスクが高くなる」ことが明らかになっていけば、次に「特定の遺伝子変異に基づくがんに対し、どのような抗がん剤(分子標的薬)が効果的か」を研究するステージに入れます。あわせて▼生活習慣(喫煙・飲酒など)▼細菌・ウイルス感染(胃がんの原因となるヘリコバクターピロリや、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス)▼ゲノム全体の変異―など、他の要因と複合解析し、「がん患者1人1人の遺伝情報や生活環境に合わせた最適な治療法」(個別化医療)の選択につなげることが期待されます。



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