Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
GemMed塾 看護モニタリング

「トラスツズマブ デルクステカン」(エンハーツ点滴静注用)の奏功が期待できる胃がん患者を特定できる可能性―国がん

2024.5.24.(金)

「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組み換え)」(エンハーツ点滴静注用)の奏功が期待できる胃がん患者の特徴が明らかになり、今後、治療法の充実につながると期待できる—。

国立がん研究センターが5月20日、このような研究成果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。

「トラスツズマブ デルクステカン」への治療抵抗性に関する知見も明らかに

「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」(販売名:エンハーツ点滴静注用100mg)は、▼化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発の乳がん▼化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能または再発の乳がん▼がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん▼がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がん—の治療に用いられる医療用医薬品です。

国がんの研究グループは、今般、「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」によるHER2要請胃がん治療による利益が得られる可能性が高い患者特定のために、腫瘍検体やリキッドバイオプシーを解析し「遺伝子異常と治療効果との関連」に関する研究を実施(「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」の投与を受けた患者167例のうち、151例でリキッドバイオプシー用のサンプル(いわば血液検体)を、48例で治療直前の腫瘍検体を採取)。そこから、次のような状況が明らかとなりました。

▽治療前のHER2状態(IHC 3+またはIHC 2+/ISH+)、HER2遺伝子(mRNA)発現、Circulating tumor DNA(ctDNA)におけるHER2増幅コピー数、および血清HER2タンパク(細胞外ドメイン)値のいずれも高い患者ほど、「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」の奏効割合が高い

▽HER2mRNA発現が高い患者(16症例)は、発現が低い患者(17症例)と比較して、「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」の奏効割合が高い傾向にあった

▽ctDNAにおけるHER2増幅が認められる患者(71症例)は、増幅を認めない患者(38症例)と比較して「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」の奏効割合が高い傾向にあった

▽HER2機能獲得変異は、評価可能例(109症例)の11%(12症例)に検出され、「HER2 IHC 3+」かつ「遺伝子変異」を有する患者での「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」奏効割合は87.5%(8症例中7例)であった

「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組み換え)」(エンハーツ点滴静注用)の奏功割合(主要コホートにおけるサブグループ別)



▽HER2低発現を含む探索的コホートにおいて、治療前の血中HER2細胞外ドメイン値が探索的カットオフ値11.6ng/mL以上の患者(30症例)における「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」の奏効割合は36.7%で、カットオフ未満の患者(10症例)の0%と比較して高い傾向にあった(生存期間についても同様の傾向)

「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組み換え)」(エンハーツ点滴静注用)の奏功割合(探索コホートにおけるサブグループ別)



▽「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」の有効性は、HER2発現を検討した腫瘍組織の採取タイミングにかかわらず、「一貫して化学療法よりも優れている」傾向が確認された

「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組み換え)」(エンハーツ点滴静注用)の奏功割合(組織検査タイミング別)



▽ctDNAを用いた遺伝子パネル検査の解析によれば、「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」の奏効割合は、▼MET増幅を有する患者(8症例):25%▼EGFR増幅を有する患者(28症例):32.1%▼FGFR2増幅を有する患者(6症例)で0%—で、全集団よりやや低い傾向に、▼KRASやNRAS遺伝子変異を有する患者(16症例):50%—であった

▽治療前後のリキッドバイオプシーの比較において、「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」治療を受ける前に45%(82症例中37例)の患者でctDNA上、HER2遺伝子増幅を有していたが、治療終了時には33%(同27例)に減少していた

▽終了時のサンプルの中には、新規のTOP1遺伝子異常を認めた患者が3例確認され、▼HER2遺伝子増幅の消失▼「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」の殺細胞薬としての標的であるTOP1遺伝子の後天的な変異が、「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」の抵抗性獲得—に関わっている可能性が示唆された



こうした結果をもとに国がんでは、「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」治療が奏効した患者の特徴や、「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」への抵抗性に関与する機序を以下のように整理

【奏功した患者の特徴】
▽「腫瘍検体におけるHER2発現が高い」「リキッドバイオプシーによるctDNAのHER2増幅を認める」患者で、奏効割合が高い傾向がある

▽HER2機能獲得変異は11%に検出され、「HER2が高発現(IHC 3+)かつHER2変異陽性」の症例では、8例中7例(87.5%)に奏効が認められた

【奏功割合の低い患者の特徴】
▽ctDNAにおける他の主要なドライバー遺伝子の増幅、特にMET、EGFR、FGFR2が検出された患者さんでは、奏効割合が比較的低い

【「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」への抵抗性】
▽治療終了時にHER2遺伝子増幅検出例の減少や新規のTOP1遺伝子異常が検出された場合、これらが獲得耐性に関わっている可能性がある



国がんでは、こうした研究結果を踏まえて「「トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)」投与の効果が高く期待される患者を特定できる可能性がある」と、今後の治療法充実に期待を寄せています。



診療報酬改定セミナー2024MW_GHC_logo

【関連記事】

腎臓がんの多くを占める「淡明細胞型腎細胞がん」で日本人症例に特有の遺伝子変異を発見、治療法・予防法開発につながると期待―国がん
「予後不良なタイプの白血病」発症メカニズムの一端が明らかに、今後の分子標的薬開発につながると期待―国がん
肺がんにおいて、PD-L1タンパク質の「腫瘍内不均一性」が高い場合、術後の再発やがんによる死亡が多い―国がん
受動喫煙は「能動喫煙と異なる変異」を誘発、「受動喫煙の回避の重要性」を再認識―国がん
シングルポートのダビンチSPの活用で、「より侵襲が少なく整容性を向上させたロボット手術」実施を推進―国がん
「感染」「能動喫煙」によるがんの医療費・経済的損失が大きく、HPVワクチン接種勧奨、ピロリ除菌、たばこ対策強化など進めよ―国がん

ステージIで早期発見・治療すれば、乳・前立腺がんで9割、胃・大腸がんで8割、膵臓がんでも4人1人が10年以上生存―国がん
2021年、がん新規登録数はコロナ禍前水準に戻りつつある!ただし胃がんは回復せず背景分析が待たれる―国がん
胆道がんの手術後標準治療は「S―1補助化学療法」とすべき、有害事象少なく、3年生存率も高い―国がん・JCOG
血液検体を用いた遺伝子検査(リキッドバイオプシー)、大腸がんの「再発リスク」「抗がん剤治療の要否」評価に有用―国がん・九大
千葉県の国がん東病院が、山形県鶴岡市の荘内病院における腹腔鏡下S状結腸切除術をオンラインでリアルタイム支援―国がん
抗がん剤治療における薬剤耐性の克服には「原因となる融合遺伝子を検出し、効果的な薬剤使用を保険適用する」ことが必要—国がん
2cm以上でも転移リスクの少ない早期大腸がんでは、「内視鏡的粘膜下層剥離術」(ESD)を治療の第1選択に—国がん
開発中の「血液がん用の遺伝子パネル検査」、診断や予後の予測でとくに有用性が高い—国がん
BRCA1/2遺伝子変異、乳・卵巣・膵・前立腺がん以外に、胆道・食道・胃がん発症リスク上昇に関連―国がん等
乳がんの生存率、ステージゼロは5年・10年とも100%だがステージIVは38.7%・19.4%に低下、早期発見が重要―国がん
全がんで見ると、10生存率は59.4%、5年生存率は67.3%、3年生存率は73.6%―国がん
2020年のコロナ受診控えで「がん発見」が大幅減、胃がんでは男性11.3%、女性12.5%も減少―国がん
「オンライン手術支援」の医学的有用性確認、外科医偏在問題の解消に新たな糸口―国がん