介護事業所・施設等の管理者、利用者サービスやスタッフ業務に支障のない範囲で「テレワーク」が可能に—厚労省
2023.9.7.(木)
介護事業所・施設等の管理者について、利用者サービスやスタッフ業務などに支障のない範囲で「テレワーク」を可能とする。その際には、利用者・従業者と管理者の間で適切に連絡が取れる体制を確保するとともに、利用者や従業者、その他関係者と「テレワークを円滑に行えるような関係」を日頃から築いておくこと、緊急時対応等を明確にしておくことなどが必要である—。
厚生労働省は9月5日に事務連絡「情報通信機器を活用した介護サービス事業所・施設等における管理者の業務の実施に関する留意事項について」を示し、こうした考えを明らかにしました(厚労省サイトはこちら)。
利用者・家族などの情報が外部に漏洩しないように留意を
介護保険サービスの人員配置基準運営基準では、▼原則として、介護サービス事業所・施設等ごとに「専らその職務に従事する常勤の管理者」を配置しなければならない▼管理者は、従業者・業務の管理、従業者に運営基準を遵守させるため必要な指揮命令を行わなければならない—ことなどを定めています。この規定に照らせば、管理者は事業所・施設等の現場に常駐することが求められていると考えられます。
一方、働き手不足が進む中で政府は「デジタル技術を活用し、生産性向上や人手不足解消等を進める観点から『常駐規制』(物理的に常に事業所や現場に留まることを求めている規制)を見直す」方針を示しています(デジタル庁のサイトはこちら(デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン))。
今般、厚労省はこの方針に沿って「管理者による情報通信機器を活用した遠隔での業務の実施(テレワーク)に関する考え方」を整理し、事務連絡で明らかにしたものです。軽費老人ホーム、養護老人ホームの施設長についてもこの考え方に準じた取り扱いとなります。
ただし管理者以外の職種におけるテレワークの取り扱いは、本年度(2023年度)中に別途示されます。この取り扱いは「介護事業所等の管理者」にのみ適用される点に留意が必要です。
まず、介護事業所等の管理者について「当該介護事業所等の管理上支障が生じない範囲」内でテレワークを行うことが可能と明示されました。1人の管理者が複数の介護事業所等の管理者を兼務している場合にも、それぞれの管理に支障が生じない範囲内でテレワークが可能です。
その際には、利用者・家族からの相談対応なども含めて「利用者に対するサービスの提供、提供されるサービスの質等に影響が生じない」ようにすることが求められる点は述べるまでもないでしょう。
なお、管理者が「兼務」可能な介護事業所等の範囲については、社会保障審議会・介護給付費分科会等の意見も踏まえながら「本年度(2023年度)中に結論」が出されます(本年(2023年)6月に閣議決定された「規制改革実施計画」で規定、関連記事はこちら)。
また、テレワークが認められる「管理上支障が生じない範囲」については、次のような考え方が示されています。下記の考え方に基づいて各事業所で具体的に「管理者がテレワークを行う際の対応」などを定めておく必要があります。また、利用者・家族、都道府県、市町村等からの求めがあった場合には、下記について適切かつ具体的に説明できるようにしておかなければなりません。
▽管理者がテレワークし介護事業所等を不在とする場合でも、「サービスごとに運営基準上定められた管理者の責務」を管理者自らが果たす上で支障が生じないように体制を整えておく
▽その際、管理者以外の従業者に過度な負担が生じないよう留意すること
→例えば、通所介護では「従業者の管理」「利用申し込みに係る調整」「業務実施状況の把握」、「その他の管理」「従業者に運営基準を遵守させるため必要な指揮命令」などに支障が生じないようにする
▽特に「利用者・従業者と管理者の間」で適切に連絡が取れる体制を確保する
▽管理者は、利用者や従業者、その他関係者と「テレワークを円滑に行えるような関係」を日頃から築いておく
▽▼事故発生時▼利用者の状態の急変時▼災害の発生時—など「管理者がテレワークを行う場合における緊急時の対応」について、あらかじめ対応の流れを定めておき、必要に応じて管理者自身が速やかに出勤できるようにしておく
▽管理者としてテレワークを行うことができる日数・時間数は、介護サービスの種類や介護事業所等の実態等に応じて、「各事業者において個別に判断」する
▽他の職種を兼務する管理者がテレワークを行う場合、管理者以外の各職種の人員配置基準に違反しないようにする
他方、テレワークの環境整備に関しては次のような点に留意することが求められます。
▽「利用者・家族に関する情報」を取り扱う際は、▼個人情報保護関係の法令▼医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス▼医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版—を参照し、特に「個人情報の外部への漏洩防止」や「外部からの不正アクセスの防止のための措置」を講ずる(関連記事はこちら)
▽第三者が「情報通信機器の画面を覗き込む」「従業者・利用者との会話を聞き取る」などにより、利用者・家族に関する情報が漏れることがないような環境でテレワークを行う
▽「利用者・家族に関する情報が記載された書面」などを自宅等に持ち帰って作業する際にも、情報の取り扱いに留意する
▽テレワーク実施者の適切な労務管理等について、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を参照する
→テレワークに係る労務管理・ICTの活用等の事業者向け無料相談等窓口として厚労省が「テレワーク相談センター」を設けている
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