株式会社などにも特養ホームの開設を認めるべき―公取委が提言
2016.9.6.(火)
深刻な介護人材不足や、介護給付費の増加に対応するために、医療法人や株式会社などにも特別養護老人ホームの開設を認めるべきである―。
公正取引委員会は5日、「介護分野に関する調査報告書」の中でこのような提言を行いました(公取委のサイトはこちら[概要版]とこちら[本文]。
介護分野で適切な競争が行われる環境が整っているのか、という視点で調査分析
少子高齢化が進行する中で、「施設などの介護サービス不足」「介護人材の不足(2025年には約38万人が不足する見込み)」「要介護者の増加などに伴う介護給付費の急増(2025年には現在の2倍に当たる20兆円になる見込み)」といった課題があり、これらへの対応が急務とされています。
公正かつ自由な競争を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにする環境を整備するために国に設置されている公正取引委員会(公取委)は、「介護分野において、事業者の公正かつ自由な競争が促進され、消費者の利益確保」を目的に調査・研究(介護サービス提供者や利用者に対するアンケートやヒアリング、有識者による意見交換会)を行い、今般、報告書を公表したものです。
報告書では、(1)多様な事業者の新規参入(2)公平な競争条件(3)事業者による創意工夫の発揮(4)利用者による適切な選択―という視点で、現在の課題を炙りだした上で、必要な対策を提言しています。
まず(1)の「多様な事業者の新規参入」については、▽株式会社などが特養ホームを設置できない▽一部自治体では株式会社などが特養ホームの指定管理者になることが認められない▽一部自治体では、総量規制(介護給付費の過剰な増加を避けるために、事業所の指定を自治体が拒否できる)の根拠が不明瞭で、不適切な事業者選定が行われている―といった課題があることを指摘。これらを解決するために、「医療法人や株式会社などが、社会福祉法人と対等の立場で、特養ホーム開設を行えるようにする」「指定管理者制度を積極的に活用する」ことなどを提言しています(関連記事はこちら)。
特養ホームの開設は、現在、自治体と社会福祉法人にのみ認められています(老人福祉法第15条)。この理由として国は「株式会社では倒産などで事業から撤退することが懸念される」「株式会社などから参入希望がない」などの理由を挙げていますが、公取委は「合理性・必要性に乏しい」と批判しています。
ただし、特養ホームなどの「箱」が整備されたとしても、そこで働く「介護人材」の確保がより大きな課題として残るため、これをどう解決していくのか、さらなる検討が求められます。
(2)の「公平な条件での競争」については、▽自治体独自の補助制度が社会福祉法人に限定されている▽社会福祉法人は法人税・住民税・事業税が非課税となっている―といった阻害要因があると指摘。これを解決するために、「自治体独自の補助制度は法人携帯を問わない公平なものとする」「社会福祉法人の優遇税制について、基本的な枠組みは維持するにしても、優遇の差を狭める方向で見直す」といった見直しを行うよう求めています。
また(3)の「事業者の創意工夫」に関しては、「介護報酬を下回る料金でのサービス提供がほとんど行われてない」と指摘。「混合介護の弾力化」によってサービスの多様化を図るべきとしました。さらに、▽特定の訪問介護員によるサービスを希望する場合の「指名料」徴収▽制度の解釈の明確化―などの具体案も提示しています。
さらに(4)の「利用者の選択が適切に行われる環境」については、やはり情報提供が不十分であるとし、▽事業者が「利用者が入手しやすい方法」による積極的な情報提供を行う▽自治体が「利用者の求める情報」とのギャップ解消や、苦情対応機関との連携を図る▽国が「介護サービス情報公表制度」の抜本的な見直し▽第三者評価の積極的な活用―を行うよう要望しています。
現在、社会保障審議会の介護保険部会で、介護保険制度見直しに向けた議論が進められており(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら、こうした提言がどのように取り扱われるのか(議題に上がるのかも含めて)注目されます。
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