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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

地域連携を進め、地域のニーズを踏まえた病院経営戦略の構築を―大阪府公立病院ベンチマーク研究会(せやCoM)

2016.12.16.(金)

 我が国は人口減少社会に入っており、今後、地域の病院間で言わば「患者の獲得競争」が厳しくなってくる。そうした中で、病院が今すぐにできることとして「連携強化」が、今からすべきこととして「地域のニーズにマッチした経営戦略の構築」があり、将来的には「再編統合」による経営基盤の強化も考慮していく必要があるのではないか―。

 グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)が2日に大阪市内で開催した、大阪府公立病院ベンチマーク勉強会(通称:せやCoM))において、奈良県医療政策部の林修一郎部長(前、厚生労働省保険局医療課長補佐)はこのように見通しました。

公立病院を取り巻く今後の医療政策などについて解説を行った奈良県医療政策部の林修一郎部長(前、厚生労働省保険局医療課長補佐)

公立病院を取り巻く今後の医療政策などについて解説を行った奈良県医療政策部の林修一郎部長(前、厚生労働省保険局医療課長補佐)

 また吹田市民病院の衣田誠克総長からは、さまざまな課題を解決するために地方独立行政法人化に取り組んでいる状況について詳細な説明が行われました。

市立病院の地方独立行政法人化に向けたポイントを解説した地方独立行政法人市立吹田市民病院の衣田誠克総長

市立病院の地方独立行政法人化に向けたポイントを解説した地方独立行政法人市立吹田市民病院の衣田誠克総長

将来的には「病院の再編統合」による経営基盤の考慮も選択肢の1つ

 GHCでは、「人口動態や包括診療報酬(DPCなど)の拡大によって、今後、病院はスタンドアローン(単独)ではなく、地域での連携・統合を考慮しなければならないのではないか」との視点に立ち、各地で自治体病院を中心とした勉強会を開催しています。現在、東海地方では「ToCoM(Tokai Consortium for Municipal Hospitals )」、北海道では「DoCoM(北海道地区自治体病院コンソーシアム)」、大阪では「大阪府公立病院ベンチマーク勉強会(通称:せやCoM)」を定期的に開き、参加病院が自らデータを公開し、地域医療の質向上に向けた研究を行っています(関連記事はこちらこちらこちら)。

 2日の「せやCoM」には、奈良県医療政策部の林部長と、地方独立行政法人市立吹田市民病院の衣田誠克総長がご登壇。林部長からは「今後、求められる医療の姿」について、衣田総長からは「吹田病院の地方独立行政法人化」についてお話いただきました。

 厚労省保険局医療課の課長補佐として2016年度診療報酬改定の舵取りを行った林部長は、そのポイントは(1)患者像に応じた評価(地域のニーズに応じた評価)(2)地域包括ケアシステムの構築―の2点に集約できることを強調(関連記事はこちら)。

 前者では、例えば▼重症度、医療・看護必要度(看護必要度)の見直し▼救急受け入れに対する評価▼精神疾患、認知症の合併患者に関する評価▼回復期リハビリテーション病棟のアウトカム評価―などが挙げられます。特に看護必要度について林部長は、「看護師の配置や病院の構造設備をもとに報酬を得るという時代は終わる。今後は、どれだけ重症の患者や手間のかかる患者を受け入れているかが評価の軸になる」ことを強調。さらに、Hファイル(看護必要度の生データ)などのビッグデータを基にした、患者像の検証も行われることになるのではないかと見通しています。今後、急性期病院には「より重症の患者を獲得できる能力」が必要となり、力のある病院とそうでない病院との、言わば「勝ち負け」が明確になってくると想定できます。

 また後者の地域包括ケアシステムについては、2016年度改定で▼退院支援加算1の創設▼認知症への評価▼筋肉のリハから、嚥下・排泄のリハへ▼在宅医療の評価体系の見直し▼退院後訪問加算の創設―などが行われました。林部長はこの点について、「よく『入院患者を減らすことが目的なのではないか』と指摘されるが、医療モデルから生活モデルへの転換が真の目的である」と強調しています。患者の抱える課題が疾病のみであれば、それを治療することで課題解決ができますが、課題が疾病だけでなく介護や障害・経済・家族状況など多様化し、また患者によって異なります。これらの課題に医療機関が画一的な対応で解決を図ることはあまりに非現実的かつ非効率であり、1人1人の課題をそれぞれ解決していく「生活モデル」にシフトしていくことが必要なのです。

 さらに林部長は、上記の大きな方向が今後の診療報酬改定でも継続される可能性が高いこと、地域的な時間差があるものの「我が国が人口減少社会」に入っていることなどを総合的に考慮し、病院がいますぐできることとして「連携の強化」(急性期と回復期の連携や医療介護連携など)を、今からすべきこととして「地域の需要に基づいた経営ビジョンの策定」(専門・高度医療の集約化、後期高齢者の需要に対応した在宅医療や訪問看護などの事業の多角化)を挙げた上で、将来的には「医療機関の統合などを通じた経営基盤の強化」をも考慮すべきと提言しています。

 ところで、各都道府県で地域医療構想の策定が進められていますが、そこでは「急性期から回復期へのシフト」が大きなテーマになっています。この点について林部長は「回復期機能=回復期リハビリテーション病棟」ではない点を強調。さらに、「急性期病棟の中には、『比較的高度な医療を提供し、重症患者を多く診ている』病棟と、『かかりつけの機能を持ち、比較的軽症の患者を受け入れる』病棟とがあると思う。後者については、回復期への移行というよりも、実質的に回復期機能を担っているという状況を認識してもらう必要があるのではないか」との見解も披露しました。後者が「自病棟は回復期機能も担っている」と認識し、適切な入院料の選択などを進めることで「事実上、回復期へ移行している」と見ることもできそうです。

地方公営企業法の全部適用でも、病院管理者の自由度は制限されてしまう

 吹田市民病院の衣田総長からは、「同院の地方独立行政法人化」について詳細な説明がありました。

 吹田市民病院は、2014年に地方独立行政法人へ経営形態が移行しましたが、その背景には▼経営の非効率▼タイムリーな人事の難しさ▼予算運用の硬直化―という課題があったといいます。例えば、診療報酬改定において施設基準が見直され、新たな人材の配置が必要になったとしても、必要な人材のタイムリーな採用が行えず、その期間「他の要件は満たしているにもかかわらず、加算などを算定できない」という状況が生じていたといいます(市の職員定数制限によって採用そのものができないことも)。また地方議会が開催されている期間中は、「議員の質問に対応するために膨大な資料を準備する必要があり、事務方は議会対策に追われ、病院の課題などを解決する業務に当たれない」といった状況もありました。吹田市民病院は、地方独法化の前は「地方公営企業法の全部適用」病院でしたが衣田総長は「全部適用であっても、さまざまな面で病院管理者の自由度は極めて低かった。一部適用と大きな違いはなかった」と振り返ります。

 こうした課題を解決するために、院内に「市民病院改革プロジェクトチーム」や「経営形態検討委員会」を設置。市との協議や、学識者や市民を交えた議論、他の病院への見学などを行った上で得られた解決策が「地方独立行政法人化」(地方独法化)です。

 ただし、地方独法化しただけであらゆる課題が解決するわけではありません。衣田総長は「職員の意識改革」(部長級の医師を対象としたヒアリングの機会を通じて、病院の運営方針などを理解してもらう)や「経営改善への取り組み」を積極的に進めることの重要性を強調しています。この一環として「地域包括ケア病棟」の設置が上げられます。吹田市民病院では整形外科患者が多く、術後のリハビリの必要性が高いため、どうしても入院期間が長期化しがちでした。そこで従前、旧「亜急性期病床」を設置、2014年度診療報酬改定に合わせて「地域包括ケア病棟」の新設に踏み切ったといいます。

 なお衣田総長は、今後、独法化を検討する病院に対し、「事前の協議を通じて、市や議会からの縛りを可能な限り少なくする必要がある」とアドバイスをしています。吹田市民病院については、市が中期目標を定め、これに沿って地方独立行政法人が中期計画・年度計画を作成するという形になっており、病院自身の独創的な改革努力を阻害してしまっている面があるのかもしれません。

医師の生産性、同じ診療科でも病院間でバラつき

 2日のせやCoMでは、GHCマネジャーの冨吉則行が、参加病院別・診療科別の「医師1人当たりの生産性」について発表しました。そこからは、同じ診療科であっても、病院間で「医師の生産性」に大きなバラつきがあることがわかりました。

医師の生産性分析について報告を行った、GHCマネジャーの冨吉則行

医師の生産性分析について報告を行った、GHCマネジャーの冨吉則行

 医師の生産性を決定づける要因はさまざまで、診療科によっても異なりますが、「手術件数の多い病院ほど、医師1人当たりの生産性は高い」ことが改めて明確になりました。

 林部長は看護必要度の厳格化によって「病院間で重症患者の獲得競争が激化する」と見通しています。冨吉の分析からは、重症患者、とりわけ手術が必要な患者をいかに獲得できるかが、医師の生産性にも大きく影響することが明らかになりました。一方、人口が減少する中で、今後、重症患者数そのものが減少していきます。そうした中で、高度急性期・急性期病院として生き残るためには、地域の医療機関との連携や救急機関との連携などを積極的に進めていくことがますます重要になっていきます。

解説を担当したコンサルタント 冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

tomiyoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。金沢赤十字病院(事例紹介はこちら)、愛媛県立中央病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う(関連記事「病院が変化の先頭に立つために今できるたった3つのこと」)。

 
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