ナースセンター強化し、医療施設の看護職員採用コスト低減を―日医総研
2017.12.28.(木)
医療施設では、看護職員を確保するため、看護学生向けの奨学金制度の運営や、求職中の看護職員を有料で紹介する人材紹介会社の活用などに、多額のコストを費やしている。こうした状況を改善するため、国はハローワークとナースセンターの強化に取り組むべきで、まず「看護職員が医療施設などから離職する際に、都道府県ナースセンターに届け出ることを義務付ける」方向で検討を進める必要がある―。
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は、12月26日に公表したワーキングペーパー「看護職員等の医療職採用に関する諸問題:アンケート調査の分析と考察」の中で、このように提言しました。
人材紹介手数料や看護学生向け奨学金制度の運用コストが医療施設の負担に
日医総研は、病院3000施設・診療所1000施設を対象にしたアンケート調査(病院693施設・診療所151施設が回答)を行った上で、次の3つの検討課題を提起しています。
(1)公営事業者であるハローワークとナースセンターの強化を政策の最優先課題とし、今後新たに発生する離職者等を対象に、離職時の届け出を「努力義務」から「義務」へ法改正する
(2)過疎地対策推進のため、行政レベルでの看護職員の地域誘導対策、具体的には過疎地域勤務に対する看護職員へのインセンティブ導入等の政策的支援を実施する
(3)各医療施設に発生する採用コスト、具体的には「紹介会社に支払われる紹介手数料」と「看護学生向け奨学金制度の運営コスト」を診療報酬に反映させるべきである
1つずつ、アンケート調査の結果とともに見ていきましょう。
まず(1)では、医療施設が看護職員の採用に掛けるコストを低減させるため、ナースセンターなどの機能を強化させる必要があると訴えていますが、現状、アンケート結果によると、医療施設では看護職員を募集する際、「ハローワーク」を利用している割合が最も高く(82.6%)、このほかに「自院ホームページ」(68.7%)や「従業員や知人からの紹介」(54.1%)、「ナースセンター(看護協会)」(42.3%)、「人材紹介会社」(41.0%)、「有料求人媒体(新聞・雑誌・チラシ等の紙媒体)」(34.7%)などを利用しています。
他方、人材紹介会社のサービスを主な採用ツールとして活用している医療施設が2割を超えていますが、アンケート調査では、人材紹介サービスのコストが、看護職員以外の職員採用を含めて、医療施設の経営上の負担になっていることも明らかになりました。
例えば、昨年度(2016年度)に人材紹介サービスを活用した264施設では、計15億9482万円(1施設当たり約604.1万円)の手数料を人材紹介会社に支払っており、前年度(565.8万円)と比べて6.8%増えています。中には2016年度までの3年間で、計1.7億円(1年当たり5700万円弱)を支払った施設もあります。
また、アンケート調査では、看護学生に修学資金を貸与して、自施設で一定期間勤務すれば返還を免除する「奨学金制度」を347施設が運営し、看護学生1人当たり年67.5万円のコストを掛けていることも分かっています。このため、日医総研は、人材紹介会社への手数料の支払いや奨学金制度の運営費用などが、医療施設にとって重い負担になっていると指摘しています。
日本看護協会や都道府県看護協会によるナースセンターでは、看護職員の人材紹介を無料で行っており、医療施設がナースセンターを通じて十分な看護職員数を確保できるようになれば、看護職員採用コストを大幅に軽減できます。
ナースセンターの機能強化に向けて根拠法(看護師等の人材確保の促進に関する法律)が改正され、2015年10月からは、▼病院等を離職した看護職員▼看護師等の免許を取得したが、病院等では働かない人―等に、氏名や連絡先を都道府県ナースセンターに届け出る「努力義務」が課されています。そうした情報を基に、ナースセンターが復職支援を行い、医療施設の看護職員確保に貢献すると期待されていますが、実際には、ナースセンターを活用した求職者数は2015年度に6万314人で、前年度と比べて6163人・9.3%減少しており、就職者数(1万200人)も、前年度を1384人・11.9%下回っています。
こうした状況を踏まえて日医総研では、上述した(1)のとおり、病院を離職した看護職員等がナースセンターに届け出ることを義務付ける必要性を指摘。また、(3)にあるように、人材紹介サービスの手数料や、看護学生向け奨学金制度の運営コストを、診療報酬で手当てすべきだと主張しています。
この点、「医療施設が医療の質とは関係のない部分にコストを掛けることなく、自院の役割や機能に見合った看護職員数を確保できる仕組み」が、早期に整備されることが期待されますが、診療報酬が、▼公費(税金)▼保険料▼患者の一部負担―で賄われていることを踏まえれば、人材紹介サービスの手数料などを診療報酬で手当てすることが適切かは、慎重に検討すべきだと言えます。
またアンケート調査では、全看護職員の早期離職率(採用後半年以内3.0%、採用後1年以内6.1%)と比べて、人材紹介サービスによって採用した看護職員の早期離職率(採用後半年以内6.6%、採用後1年以内11.3%)が高いという課題も分かっています。日医総研は、12月18日に公表したリサーチエッセイ「改正職業安定法が医療分野の人材紹介に及ぼす影響」の中で、「採用後1年間に離職した場合に手数料を返金する規定を設けることを、人材紹介業界が、業界標準に位置付ける」必要性を指摘しています(関連記事はこちら)。
過疎地域では人材紹介サービスの利用すら難しく、政策的な支援が必要
日医総研は、(2)にあるとおり、「過疎地域勤務に対する看護職員へのインセンティブ」導入の必要性も指摘しています。この点、アンケート調査では、人口規模が小さい地域ほど、看護職員が「不足している」か「今は足りているが不足することがよくある」施設の割合が高い傾向があります。
また、過疎地域(過疎地域自立促進特別措置法に基づき指定された過疎地域で、「みなし過疎」や「一部過疎」を含む)では、人材紹介サービスに支払う職員1当たり手数料が124.3万円で、全国平均(78.4万円)よりも高額であるにもかかわらず、「直近3年間に人材紹介サービスで職員を紹介した実績がある施設」の割合は35.0%(全国平均は53.3%)にとどまっており、日医総研は「過疎地域では、看護職員の採用環境が特に厳しく、人材紹介サービスの利用すらも難しい」と考察しています。
医師の地域偏在解消に向けては、「医師不足地域で一定期間勤務する医師にインセンティブを付与する仕組みを導入する」といった対策が今後、早急に講じられる見通しです(関連記事はこちら)。看護職員についても、地域偏在の実態を踏まえた偏在対策が求められるのかもしれません。
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