医師偏在対策の関連法案、2018年の通常国会に提出へ―社保審・医療部会 第58回
2017.12.25.(月)
12月22日に開催された社会保障審議会・医療部会では、医師需給分科会が前日に取りまとめた「早急に着手すべき医師偏在対策」の報告を受けました。委員からは、対策が踏み込み不足であるとの指摘が相次ぎましたが、「偏在を放置せず、まず対策を講じる」方向性に異論はなく、厚生労働省は、来年(2018年)の通常国会への関連法案提出を目指します。
医師不足地域での勤務の魅力アップなどで偏在解消目指す
医師の地域偏在・診療科偏在の是正に向けた対策については、厚労省の「医師需給分科会」(医療従事者の需給に関する検討会の下部組織)で検討されてきました。昨春(2016年)には「第1次中間まとめ」として14項目の対策案を提示。その後、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の意見なども踏まえて、今年(2017年)9月から【早急に着手すべき具体策】や【将来に向けた課題】などをより詳細に検討。12月21日に「第2次中間取りまとめ」を行いました(関連記事はこちら)。
このうち【早急に着手すべき具体策】は、主に次のとおりです。
(1)3か年の「医師確保計画」の策定を都道府県に義務付け、都道府県が、地域の医療ニーズに見合う医師確保の目標値を掲げて、大学医学部・付属病院などと連携しながら医師の派遣や、医師の地域定着策に取り組むことを国から促す
(2)新専門医制度によって医師偏在が助長されないよう、国や都道府県に権限を与えて、日本専門医機構や学会に対して、研修を受ける医師の募集方法の改善などを求めやすくする
(3)全世代の医師が、医師不足地域での勤務に魅力を感じやすくなるように、勤務環境の整備やインセンティブ付与を行う。例えば「医師不足地域での一定期間の勤務経験」を、「地域医療支援病院のうち医師派遣機能等を担う病院」の管理者(院長)要件の一つとする
(4)都道府県ごとに、将来必要となる診療科別医師数などを明示することで、ニーズが高い診療科に進む医師を増やす
他方で、【1】専門研修の定員に、都道府県ごと・診療科別の上限を設けること【2】診療所を含む全医療機関の管理者(院長)に対して、医師不足地域での一定期間の勤務経験を求めること【3】無床診療所の開業場所に制約を設けること―については、上述した対策を講じても医師偏在が解消しない場合に、導入の是非を検討すべき【将来に向けた課題】と位置付けています。
診療科偏在の対策不足などを委員が指摘
医師需給分科会の「第2次中間取りまとめ」の報告を受けて、医療部会の委員は、幾つかの課題を指摘しています。例えば、木戸道子委員(日本赤十字社医療センター第二産婦人科部長)は、「地域偏在の是正に向けた具体策が多い一方で、診療科偏在の是正を目指す施策が少ない」と訴えました。邉見公雄委員(全国自治体病院協議会会長)も同調しています。
地域偏在の是正に向けた具体策に対しても、中川俊男委員(日本医師会副会長)が、より踏み込んだ対策が必要だと主張しました。特に、上述した【2】の「医師不足地域での勤務経験を、医療機関の管理者要件として広く求めていくこと」が見送られたことについて、「診療所を対象にすれば、医療現場が混乱する可能性はある」と理解を示した上で、「少なくとも、公的医療機関等すべての管理者の要件」にしなければ、医師不足地域での勤務の魅力を高める効果が全く望めないと訴えています。山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)と神野正博参考人(全日本病院協会副会長、猪口雄二委員:全日本病院協会会長の代理出席)も、管理者要件を課す医療機関を「地域医療支援病院の一部」に限れば、実効性ある偏在対策にならないとの考えを示しています。厚労省は、「地域医療支援病院の一部」に限って導入する姿勢を崩していませんが、早期の効果検証をした上で、将来的には対象拡大の検討も必要になってくることでしょう。
そのほか相澤孝夫委員(日本病院会会長)は、そもそも医師不足地域では、「地域で働く医師数が少ないままであっても、医師の短期間の派遣や近隣の中核病院との連携によって、医療を十分に提供できるシステム」をつくる必要もあるのではないかと問題提起しています。
こうした意見は出たものの、医師偏在の是正に向けて、医師需給分科会が取りまとめた【早急に着手すべき具体策】を施行すべく、厚労省が関連法の改正案を準備することが了承されています。同省は、来年(2018年)の通常国会への法案提出を目指しており、医療部会では年明けの1月にも、法案を踏まえた意見交換が行われます。
特定機能病院の承認要件見直し、年度内にも省令改正
12月22日の医療部会では、今年(2017)6月に成立した改正医療法に基づく「特定機能病院の承認要件見直し」についても議論しました(関連記事はこちら)。
この見直しは、特定機能病院の開設者(理事会等)と管理者(院長)の関係を整理して、▼開設者が管理者を選任するに当たり、外部有識者を含む選考委員会の審査結果を踏まえること▼開設者が管理者に、病院の人事・予算執行権限を一定程度与えていることを明示すること―などを承認要件に加えるものです。
12月6日の医療部会で、「開設者が審査結果を無視して、院長としての資質に欠ける者を選任するかもしれない」「一部の大学病院では、学部長などと比べて院長の地位が低い。このままではガバナンスが効かないかもしれない」といった懸念が示されたことから、厚労省はこれを踏まえて12月22日の医療部会に、「開設者が院長に与える権限が、『病院の管理運営に必要な指導力を発揮し、医療安全等を確保できるものであるべきこと』などを、通知で明確化する」方針を示し、了承されました。
厚労省では今後、厚生労働省令(医療法施行規則)の改正や通知の発出を年度末(2018年3月末)までに行った上で、周知のための期間を設け、特定機能病院の新たな承認要件を来年(2018年)6月から適用したい考えです(管理者の選任プロセス見直しは2019年4月から)。
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