医師確保対策は進めるべきだが、支援病院要件の見直しは拙速を危惧―日病・相澤会長
2017.12.19.(火)
医師偏在対策の中で「地域医療支援病院の管理者要件として、医師不足地域での一定期間以上の勤務経験を付与する」案や「医師派遣機能を持つ地域医療支援病院へ経済的インセンティブを付与する」案などが浮上しているが、日本病院会の常任理事会でも賛否が分かれている。拙速に対策案を取りまとめれば、将来、対策を実行する際に見直しが必要となってしまうのではないか—。
日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)は、12月19日の定例記者会見でこういった考えを明らかにしました。
ただし相澤会長は、「医師に都道府県内にとどまってもらう策は積極的に進めなければいけない」旨も強調しており、12月18日の「医療従事者の需給に関する検討会」・「医師需給分科会」の合同会合での取りまとめそのものを否定しているわけではありません。
地域医療支援病院の要件見直しなどの対策案、日病会内でも賛否は割れている
「医療従事者の需給に関する検討会」・「医師需給分科会」では、働き方改革などを踏まえて「将来の医師養成数を推計する」ことを主な目的として議論していますが、その中で「医師偏在を放置して、将来の医師数を議論することはできない」という点で意見が一致し、「実効性のある医師偏在対策」が重要な議題に追加されました。
昨年(2016年)春の中間取りまとめで、▼医学部地域枠の在り方▼初期臨床研修医の募集定員配分などに対する都道府県の権限強化▼医療計画による医師確保対策の強化(将来的な自由開業・自由標榜の見直しを含めた検討など)▼管理者の要件(特定地域・診療科で一定期間診療に従事することを、臨床研修病院、地域医療支援病院、診療所などの管理者要件とすることを検討)—など14項目の対策案を決定。さらに今年(2017年)9月からより具体的な議論を行い、12月18日に座長一任で第2次中間取りまとめ案を了承しています。
第2次中間取りまとめ案では、医師偏在対策の具体案として次のような項目が提唱されています。
(1)都道府県における医師確保対策の実施体制の強化
▼「医師確保計画」の策定
▼地域医療対策協議会の実効性確保
▼効果的な医師派遣等の実施に向けた見直し
(2)医師養成過程を通じた地域における医師確保
▼医学部▼臨床研修▼専門研修—のそれぞれについて都道府県の権限強化などを図る
(3)地域における外来医療機能の不足・偏在等への対応
医師偏在の度合いが指標により示され、地域ごとの外来医療機能の偏在・不足などが客観的に把握できるようになることを踏まえ、この情報を新規開業予定医などへの有益情報として「可視化」する
(4)医師の少ない地域での勤務を促す環境整備の推進
▼医師個人に対する環境整備・インセンティブ
▼医師派遣を支える医療機関等に対する経済的インセンティブ等
▼認定医師に対する一定の医療機関の管理者としての評価
日本病院会の常任理事会では、これら(1)から(4)の偏在対策についてさまざまな意見が出されたといいます。とくに(4)の「医師の少ない地域での勤務を促す環境整備の推進」では、医師不足地域で一定期間以上の勤務を経験した医師を「認定医師」とし、これを地域医療支援病院の管理者要件の1つに据えることや、医師派遣機能を持つ地域医療支援病院に経済的インセンティブを与える具体案が示されていますが、「医師派遣を行える地域医療支援病院は全国に200から300程度にとどまり、偏在対策としての効果が薄いのではないか」「若手医師の中には、管理者にはならず、専門性を極めたいといの人もあり、効果は期待できない」という否定的意見が多数出された一方で、「半強制的に医師少数地域での勤務を求めなければ、偏在は解消していかない」という賛成意見も出ており、日病としての見解をまとめることは難しい状況のようです。
相澤会長はこうした状況から、今般の医師偏在対策取りまとめ(第2次中間とりまとめ)について、「日病の会内でもさまざまな意見がある。個人的には拙速が心配である」との見解を示しています。
また、例えば「地域医療支援病院の管理者要件に、認定医師であることを盛り込む」という策に関しては、これから初期臨床研修を受ける医師が対象となるため、直接の効果が現れまでに数十年かかります(間接の効果は改正法適用後から徐々に現れると見込まれる)。ただし、数十年経てば地域の人口構成は大きく変化する可能性もあり、「地域医療支援病院への要件化」などの偏在対策を実施する段になって、「対策を見直さなければならない」事態も生じかねないと相澤会長は心配しました。
なお、医師派遣機能を持つ地域医療支援病院への経済的インセンティブ付与については、「インセンティブ目当てに医師を数多く抱えようとする病院が現れたりしないだろうか」との懸念も示しました。
一方、(1)「都道府県における医師確保対策の実施体制の強化」や(2)「医師養成過程を通じた地域における医師確保」といった、「当該都道府県の中に、医師がとどまる」ような方策については、積極的に進める必要があると相澤会長は指摘。「拙速に地域医療支援病院の要件見直しを行うよりも、▼大学医学部▼初期臨床研修▼専門医研修―の中で、しっかりとフォローし、当該県にとどまってもらうことを一生懸命行うほうが大事ではないか」とも指摘しています。
さらに相澤会長は、偏在対策の重要性を認めた上で、「細かいところまでがちがちに法律で縛れば、人口や社会の変化についていけなくなる可能性もある」と述べ、一定の弾力性・柔軟性を持たせるべきとの考えも示しています。
なお、12月18日に正式決定された診療報酬改定率(医科プラス0.63%、歯科プラス0.69%、調剤プラス0.19%など)について、「ほっと一息つくこともできない。病院経営は厳しく、1%程度のプラス改定が必要である」とコメントしています(関連記事はこちら)。
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