病院の機能分化・連携を進め、効率的でやさしさを備えた医療提供体制を構築―日病・相澤会長インタビュー(2)
2017.8.30.(水)
今年(2017年)5月末に、日本病院会の新会長に相澤孝夫氏(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)が就任され、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)代表取締役社長の渡辺幸子と、米国グローバルヘルス財団理事長のアキよしかわが、相澤会長に、日本の医療改革に向けたお考えを詳しく伺いました。
第2回は、地域における病院の機能分化と連携を進めることで、日本の医療文化の1つとして受け継がれている「やさしさ」を確保しながら、効率的な医療提供体制を確保できるとの相澤会長の構想をお伝えします(第1回の模様はこちら)。
グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、かねてより相澤会長・相澤病院と共同研究を続け、例えば「地域医療構想における、医療資源投入量に着目した高度急性期や急性期の切り分け」「重症度、医療・看護必要度のデータ精度向上」などが、国の政策にも取り入れられています。また、日本病院会が展開する出来高算定病院向け戦略情報システム「JHAstis(ジャスティス)」では、GHCが分析やレポート作成の支援を行っております。
目次
急性期を担う基幹型と、地域包括ケアを担う地域密着型とに機能分化を
渡辺:我々GHCがコンサルティングを行う中でも、病院に「等身大の姿」を見ていただくことが第一歩になりますが、その第一歩こそがとても大きなハードルだと感じることが少なくありません。
相澤:院長先生に柔軟な発想が乏しく、動けない病院も多いと思います。
最近、私もことあるごとに「それを続けていると厚生労働省が切り始めますよ」と警告しています。日本の病院は、「地域密着型」と「基幹型」とに分化していくしかないと考えています。
アキさんが最近上梓された「日米がん格差」にも書かれていますが、日本の医療のやさしさ、暖かさは「日本の医療文化」として重要です(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
かつては、日本の病院では「退院した翌日から働ける」ことを念頭においていました。しかし、現在、効率的な医療提供が必要とされ、機能分化が求められる中では、1つの病院で「退院した翌日から働ける」ことを目指すのは難しい。
しかし、日本の医療の良さであるやさしさ、暖かさを捨てることも好ましくない。
そこで、中小規模の病院には前者の「地域密着型」医療を提供していただき、大規模の急性期病院も考え方を変え、「急性期を脱したら、速やかに中小規模の地域密着型病院に患者を送る」ことを徹底しもらわなければいけません。
高齢になるほど在宅復帰できる状態になるまでの時間がかかります。生活障害も解消していかなれければいません。これから前者の「地域密着型」病院の必要性がますますたかまっていきます。
渡辺:機能分化によって手術症例が集約され、医療の質が高まることも期待できますね。GHCと米国メイヨ―クリニックの共同研究でも「人工膝置換術」(TKA)において、手術症例数と医療の質との間には強い相関があることが分かりました。
相澤:そうですね。地域密着型病院には、少数の急性期症例に固執せず、急性期医療が必要な患者は基幹型病院に送り、基幹型病院では急性期後は速やかに地域密着型に患者を送る。こういう流れができれば、日本の医療の質は高まっていくと考えられます。
渡辺:相澤病院では、急性期に特化し、地域包括ケア病棟からなる東病院を開設されましたが、これを念頭に置いたものと言えますね。
相澤:そうですね。日本は人口減少社会に入り、地域では入院患者数そのものが確実に減ってきています。さらに、在院日数も減少し、ますます入院患者数が減少する。そこで、急性期を担う基幹型と、急性期後や在宅患者の急変に対応する地域密着型とを設けることが必要です。相澤病院、相澤東病院ではこの流れができており、各地域でも同じような体制を敷くことで、うまくいくと思います。
多職種がいる病院こそ、地域包括ケアシステムの担い手に
渡辺:2018年度には診療報酬改定が控えており、かなり厳しいとの予想もあります。例えば地域包括ケア病棟については、現在、中央社会保険医療協議会などで、いわゆる「ポストアキュート」と「サブアキュート」に機能分化していく方向などが示されていますが、どうお考えですか(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
相澤:個別改定項目について、現在、言及する時期にはないと思います。ただし地域密着型病院が、現在の診療報酬だけで運営していくことは難しくなるかもしれません。そこで病院自らが、「地域包括ケア」を担っていく必要があるのではないかと考えています。
病院には、専門職が多数在籍しています。医師、看護師はもちろん、薬剤師、リハビリ専門職、管理栄養士など、さまざまな専門職が、地域で、つまり病院の外に出て行って、地域全体の重症化予防や健康保持に積極的に関わることが必要なのです。
地域包括ケアシステムにおける医療というと、「かかりつけ医」「開業医」中心と思われがちですが、クリニックでは、医師が1人のところも多く、専門職配置も少なく、地域包括ケアを担うことは現実的には難しいでしょう。
かかりつけ医の先生には、普段のゲートキーパーを担っていただき、地域密着型病院が、かかりつけ医を支援しながら、例えば「脱水がひどく1人点滴が必要です」といった患者さんや、「肺炎で高熱が出ているので、2日ほどの安静・治療は必要です」という患者さんがいれば入院させ、元気になれば在宅に戻っていただく。こういう体制が求められていると言えます。
こうした医療提供のためには、現在のような急性期医療提供をするほどのスタッフは必要ないかもしれません。しかし、スタッフを辞めさせる必要はありません。院内業務だけでなく、地域に出て、疾病予防・重症化予防に積極的に関わってもらう。高齢者向けの集合住宅も増えているので、利用者の健康管理ニーズもあるでしょう。こうした事業を総合的に地域密着型病院が展開し、総合的な健康事業について市町村から地域密着型病院にお金が回る仕組みができれば、まさに「幸せな地域」を構築できると思います。
地域密着型病院は、患者宅から3km、4㎞といった身近な施設であることも必要です。近隣にあれば、家族も顔を出しやすい。
介護サービスやリハビリなども提供し、地域密着型病院で全部賄えるようにできれば、地域の住民も安心でしょう。地域包括ケアシステム支援病院と言えるかもしれませんね。
渡辺:相澤病院では、かねてから「点数は付かないが、リハビリを手厚く、早期から提供する」ことで成果を出し、それを踏まえて厚生労働省も点数設定などに動きましたね(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。東病院でも、さまざまな取り組みを進めていると思いますが。
相澤:そうですね。東病院では、スタッフが地域に出て、地域住民の相談窓口を開いたりしており、ときにはお花見会なども催しているんですよ。こうした取り組みが、地域住民から信頼されるために実は非常に大事なのです。
日頃の健康管理はかかりつけ医の先生にお願いし、何かあったら東病院に来ていただく。こういった取り組みを参考に、日本全国で展開してほしいと思っています。
なお、このように急性期を担う基幹病院と、地域包括ケアを担う地域密着病院とに機能分化し、連携を進めることで、急性期の平均在院日数はさらに短くなります。
先ほど、データの整備について述べましたが、厚生労働省は「平均在院日数の短縮」という観点を含めていません。患者数が減り、平均在院日数が短くなれば、日本の急性期病床数はさらに過剰になってしまいます。この点も考慮して地域の医療提供体制を考えていかなければいけませんね。
診療報酬体系の思い切った簡略化を
渡辺:2018年度診療報酬改定に対するお考えもお聞かせください。
相澤:診療報酬改定は、2018年度で終わるわけではなく、次につながるものではなければいけません。個別改定項目については検討を進めており、これから提言していきますが、大前提として、こうした視点を忘れてほしくはありません。
なお、改定の度に点数表は複雑になっています。今や、日本中に誰1人、点数表を完全に理解している人はいないといいます。これは、どこかで脱却しなければいけない。誰かが思い切って簡略化しなければならず、迫井医療課長に期待したいところです。
渡辺:巷では日本病院会は大病院の組織と誤解されていますが、中小病院の会員も少なくありませんね。GHCも出来高算定病院向け戦略情報システム『JHAstis』を支援させていただいております。中小病院の進むべき方向の一つとして、先ほどの地域密着型の地域包括ケア支援病院を示していくのでしょうか。
相澤:心臓血管外科などに専門特化した病院は、その道を極めていただくことになるでしょう。
一方、そうでない中小病院には「地域包括ケア支援病院という道もありますよ」という情報提供をしていきます。日本病院会が決定するわけではない。
療養病床を持つ慢性期病院には、厚生労働省から「介護医療院」という生活施設の道があることが示されました。今後の課題の中心は「急性期の中小病院」に移ってくると思います。
例えば年間に数例しか腹腔鏡手術をしていない病院があったとして、その病院が急性期に固執すれば、医療安全の面でも大きな問題があります。わずかな急性期症例を基幹病院に委ねられるか、ここも1つのポイントになると思います。
地域医療を守り、これまでの実績・人間関係を壊さないためにも、データを整備し、地域包括ケア支援病院を後押ししていきたいと思います。それほど簡単ではありませんが、言い続けなければいけません。
形だけでない、患者・住民に分かりやすいデータ公開を
アキ:アメリカでは、情報を公開し「患者の消費者であり、病院選択などに責任の一端があるんですよ」というスタンスをとっています。日本でも、患者に「この病院の年間症例は何件です」というデータを提示し、患者自身が責任を持って病院を選択する時代になってきたのかもしれませんね。
相澤:病院の見える化ですね。これを進められなければ、日本は民主主義国家と言えないかもしれません。
アキ:医師会や行政が、結果として見える化を阻んでいる可能性もありますね。自分だけがデータを持っていることが、パワーの源になっているようにも見えます。
相澤:データの見える化で言えば、これまで形ばかりで進んでいます。病床機能報告制度で、各病院の手術が何件なのかは分かりますが、十分に見えるようにはなっていない。公表していると言っても、どうやって必要なデータに辿りつけるかも分からない。公表していないのと変わらないようなところもあるのが実際です。
渡辺:厚生労働省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」などでは、外科の高度急性期・急性期病棟でも「1か月に1件も手術を行っていない」ところがある、といったデータが出されていますね。
相澤:そういったデータは、もっと早く、初めから出すべきですね。
ただし、患者・住民側にも課題があるのかなと感じる部分もあります。ある市民病院の建て替えをする際に、DPCデータから「胃がんの手術件数が年間、なんと数件にとどまっている」ことが分かりました。私はこれからも「胃がんの手術を続けるのか。別の基幹病院に集約したほうがよいのではないか」と疑問に思いましたが、住民代表が「わがまちの病院であり、症例数が少なくても手術を続けてもらう」と。これでは、病院側が地域包括ケア支援機能に向かいたくても難しい。
日本病院会としても、データを出し続け、改革の必要性を訴えていくしかありません。
渡辺・アキ:データに基づく相澤会長の提言に期待しております。本日は、誠にありがとうございました。
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