在宅医療の推進に向け「病院と在宅医療の協働体制構築」等をマイルストーンに置いてはどうか―全国在宅医療会議ワーキンググループ
2018.3.8.(木)
関係団体同士が協働して在宅医療の普及・促進に向けた取り組みを進める際、「地域の病院と在宅医療との共同体制の構築」や「ICT等最新技術の活用」「在宅医療実践に関する研究・教育」といった旗印を掲げ、より協働しやすい環境を整備してはどうか―。
3月7日に開催された「ワーキンググループ」で、厚生労働省からこういった提案がなされました。
ただし構成員の一部から疑問の声も出ており、今後、厚労省と新田國夫座長(全国在宅療養支援診療所連絡会会長)とで調整し、どのような形で4月開催予定の親組織「全国在宅医療会議」に報告するか、詰めていくことになりました。
在宅医療推進に向けて、7項目の中間目標・マイルストーン設置案を厚労省が提示
全国在宅医療会議は、「国民1人1人の希望に応じて入院医療と在宅医療を柔軟に選択できる」ような体制の整備に向けて、行政や各団体の目指すべき方向を揃え、また各組織の動きがその方向からずれていないかなどをチェックするための組織です(関連記事はこちら)。
在宅医療の推進に向けて、(A)在宅医療に関する医療連携モデルの構築(B)在宅医療に関する普及啓発モデルの構築(C)在宅医療に関するエビデンスの構築―の3点を重点項目と定め((A)と(B)をセットとし、2点を重点分野とすることもある)、行政(国、都道府県、市町村)と関係団体(医師会や病院団体、学会等)とが、互いに「どのような取り組みをすでに行っており、これから取り組んでいく予定なのか」を共有しています(関連記事はこちら)。
もっとも、上記(A)から(C)の重点項目・重点分野、非常に大きな概念であり、具体的な取り組みに落とし込んでいく際に、「「自団体の取り組み方向は誤っていないか」「他団体と協働して取り組んだほうが効果的かつ効率的な部分があるのではないか」といった疑問が生じます。また取り組みを進める上で、例えば「専門職同士の連携が十分でない」「そもそも専門職が地域で不足している」といった課題も浮かび上がってきています。
さらに団体間で、取り組み状況には「差」がありますが、これを放置せず、できるだけ足並みを揃えていくことが円滑な在宅医療の普及・促進のためには重要と言えます。
そこで全国在宅医療会議の下部組織である「全国在宅医療会議ワーキンググループ」(以下、ワーキング)では、▼2025年に向けた長期目標▼2020年に向けた中期目標—を設定し、団体同士が他団体の動きも見ながら協働していく方針を固めました(関連記事はこちら)。
さらに今般、厚労省医政局地域医療計画課の松岡輝昌・在宅医療推進室長は、中間目標として次の7項目を定め、関係団体同士が協働して在宅医療の普及・促進に向けた取り組みを進める際の「旗印」としてはどうかとワーキングに提案しました。例えば地域の医師会と病院団体が合同会議を開く際などに、「まず中間目標(1)の『地域の病院と在宅医療との協働体制の構築』に向けた議論から進め、その後(2)の『行政との連携』などを考えていくこととしてはどうか」という筋道をつけやすくする狙いがあります。
【中間目標】
(1)地域の病院と在宅医療との協働体制の構築
(2)行政と関係団体との連携
(3)関係団体同士の連携
(4)ICT等最新技術の活用
(5)国民への在宅医療に関する普及・啓発
(6)在宅医療に関わる関係者への普及・啓発
(7)在宅医療実践に関する研究および教育
また、この7つの中間目標は、現場にあるさまざまな課題を解消し、上記(A)から(C)の重点項目の達成に向けた「マイルストーン」(経過点)の意味合いも持ちます。
例えば、地域には▼地域の病院と在宅医療との「水平連携」が不足している▼「かかりつけ医の在宅医療の参画」といった在宅医療推進を支える体制が十分でない―といった課題があることが関係団体から指摘され、これを解消していくために(1)の「地域の病院と在宅医療との協働体制の構築」という中間目標が設定されました。前述のように、この中間目標達成のために、地域の医師会と病院団体が、まず合同会議などを開催し、医療資源(在宅医療を提供する診療所等はどの程度あるのか、在宅医療を支える機能を持つ病院はどれだけ設置されているのか)や地域性などを十分に考慮し、「地域で実際に機能する」体制を練っていくことが求められると言えるでしょう。
中間目標は、「KPIに基づいて進捗管理を行う」ような目標とは異なる
この中間目標に対し、西澤寛俊構成員(全日本病院協会名誉会長、常任理事)は、「地域で関係団体が共通認識を持つために非常に重要だ」と述べ、厚労省の労をねぎらいましたが、さまざまな疑問・注文の意見も出されています。
鈴木邦彦構成員(日本医師会常任理事)は「すでに在宅医療の普及・推進に向けて、現場は取り組みを行っている。全国在宅医療会議が『方向』を示すことは理解できるが、『いつまでに何をすべき』と指示されても困る」と指摘。この点、松岡在宅医療推進室長は、「期限や数値を盛り込むものではなく、各団体が具体的な取り組みを行う際に、『うちはこの分野にはまだ乗り出していないな』などと気づいてもらうような指標と考えている」旨を説明し、例えば「●年までに●床整備する」とKPIを設け、進捗管理するような目標とは異なる点を強調しています(上述のようにマイルストーンである)。
また、川越雅弘委員(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部長)は、「(1)から(7)は手段であり、目標としてはイメージしにくい」と指摘。さらに、アバウトな書きぶりであり、他団体と協働する際に「具体的にどうこの中間目標を利用すればよいのか分かりにくい」との指摘もありました。
こうした意見・注文を受け、中間目標の確定は「新田座長預かり」とし、厚労省と文言や構成等を再検討した上で、親組織「全国在宅医療会議」(4月開催予定)に報告することとなりました。
あわせて重点項目の(B)「在宅医療に関する普及啓発モデルの構築」に向けて、ワーキングの下に小グループを設けることが決まっています。
国民の多くは、医療・福祉関係者「以外」であり、在宅医療について普及・啓発していくことは極めて難しいテーマです。この点、厚労省医政局の武田俊彦局長は「国としてはキャンペーンを行うこともできるが、大雑把なものとなってしまう。講演会などは市町村などで開催してもらうことになるが、『本当に来てほしい人』に足を運んでもらうには、地域包括ケアシステムに根差した医療・福祉関係者から声をかけてもらうことが必要であろう。国・自治体・関係団体などで得意な分野は異なっており、どう組み合わせるかを考えていく必要がある」と述べ、小グループでは、「普及・啓発のためには、どういった取り組みが必要か」「取り組みの中で、だれがどの部分を担うのか」といった点の議論に期待を寄せました。単に「2025年の地域包括ケアシステム構築に向けて時間がない。国がリーダーシップをとって、国民に対し、在宅医療の重要性などを普及・啓発すべきである」といった話をどれだけ行っても、実のある対策はとれないでしょう。
松岡在宅医療推進室長は、「人選を含めて、なるべく早く小グループを稼働させ、意見をまとめる必要がある」とコメントしています。
なお、一部構成員からは、いまだに本ワーキングと「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」(医療計画の見直し等に関する検討会の下部組織)とのすみ分けに関する疑問が出されています。この点について武田医政局長は、前述のように「全国在宅医療会議とワーキングは、在宅医療の推進に向けて、行政や各団体の目指すべき方向を揃え、また各組織の動きがその方向からずれていないかなどをチェックする会議体であり、ここで共有した理念等をもとに、医療計画の見直し等に関する検討会等で、具体的な整備目標(まさに医療計画)などを検討する」旨を確認。松岡在宅医療推進室長は「両会議体の所掌などを整理した資料」を準備する考えも示しています。
全国在宅医療会議では、上述の重点分野(A)から(C)を2025年に向けて構築していきますが、松岡在宅医療推進室長からは、例えば▼(A)の「医療連携モデル構築」は早期に進める必要があり、モデル構築後は「普及」がテーマとなるので、構築論議は不要になる▼(C)の「エビデンス」は常にアップデートしていく必要があり、議論に終わりはない―といった考えが示されています。下のようにグラデーションで議論のイメージを図示することができるでしょう。
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