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早期乳がんのラジオ波熱焼灼治療を患者申出療養に導入、再発リスク説明等が必要―患者申出療養評価会議

2019.2.8.(金)

 先進医療Bとしては登録が終了している「早期乳がんへのラジオ波熱焼灼療法」について、患者の希望に応えるため、「患者申出療養」として保険外治療と保険診療との併用を可能とする。ただし、手術療法に比べて「再発リスクが高くなる可能性もある」点などについて、患者に十分に説明し、同意を得ることが必要となる―。

 2月7日に開催された「患者申出療養評価会議」(以下、評価会議)で、こうした点が了承されました。

2月7日に開催された、「第13回 患者申出療養評価会議」

2月7日に開催された、「第13回 患者申出療養評価会議」

 

先進医療Bでの新規登録が終了した技術を、希望者へ患者申出療養として実施

 患者申出療養は、2016年4月1日からスタートした新たな保険外併用療養制度(保険診療と、保険外診療との併用を認める仕組み)です。「海外で開発された未承認(保険外)の医薬品や医療機器を使用したい」などの患者からの申し出を起点として、安全性・有効性を評価会議で確認した上で、保険診療との併用を可能とするものです。

これまでに、次の6種類の患者申出療養が認められています。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与及び静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」

 
 今般、7種類目の患者申出療養として、冒頭に述べた「早期乳がん患者へのラジオ波熱焼灼療法」が認められました。

 早期乳がんでは、部分切除(手術療法)が標準治療となっていますが、「乳房の形状が大きく変わってしまう」という整容面でのデメリットもあります。これに対し、ラジオ波熱焼灼療法は、ニードル電極針を経皮的に乳房内の腫瘍に刺し、針から発生させたラジオ波で加熱・死滅させる技術で、「侵襲が少なく、整容面で大きなメリットがある」とされています。
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 この技術は、33例を対象にした多施設共同試験において「85%の症例で腫瘍が完全に死滅し、短期間に限れば重篤な有害事象は認められなかった」との知見があり、これをベースとして、2013年に先進医療B(薬事承認されていない医薬品・機器等を用いた先進医療、保険診療と保険外診療との併用が可能)として承認されました。

ただし、2017年には、先進医療Bにおける目標症例数(372例)の登録が完了したため(患者の予後などに関する5年間の追跡調査中)、現在は、この技術を先進医療Bとして実施することはできず、また企業治験も予定されていません。

 したがって、本技術を用いた治療は、現在、自由診療(保険外診療、全額自己負担)でしか実施できないことから、患者の要望を受け、国立がん研究センターが、保険診療との併用が可能となる「患者申出療養」としての実施を申請したものです。

 対象患者は、腫瘍径1.5cm以下の単発・早期乳がん患者のうち、▼針生検で組織学的に原発の浸潤性乳管がん・非浸潤性乳管がんと証明されている▼がんの皮膚浸潤や皮膚所見(Delle)が認められない(先進医療Bで盛り込まれなかった要件)▼前治療なし▼年齢20-85歳(先進医療Bでは79歳までであった)の女性▼触診と画像診断で腋窩リンパ節転移が明らかでない―などの基準を満たす方です。年間50症例を目標に6年間、患者申出療養として実施し(300症例目標)、先進医療B(372症例)の評価結果と併せてエビデンスを構築し、保険収載を目指すことになります。
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 費用は、1件あたり、全体で88万1033円、うち患者申出に係る費用は37万9303円。患者の自己負担(保険診療の一部負担+保険外診療)は53万1906円と推計されています。

手術療法に比べ「再発リスクが高い」可能性ある旨の説明と同意が必要

 2月7日の評価会議では、「患者申出療養として実施する」ことが認められましたが、慎重意見も相次ぎました。

まず、「本技術の再発リスクが標準治療(手術療法)に比べて高い可能性がある」という点です。先進医療Bについては、上述のとおり、現在「予後などに関する追跡調査中」であり、有効性や安全性に関する評価結果は出ていないのです。本技術の先進医療B導入にあたって評価に加わった山口俊晴構成員(がん研究会有明病院名誉院長)は、▼現時点では有効性・安全性は『不明』である。再発リスクが高いとの評価結果が出る可能性もある▼乳がん大国とされる米国でも、本技術はそれほど広まっておらず、『手術療法に代わる優れた治療』とは言えない可能性がある▼術者による差が大きいと考えられる―旨を指摘しています。

このため、本技術を患者申出療養として承認するに当たり、次の2点が決定しています。

(I)実施医療機関(現在は、国立がん研究センター中央病院、今後増える可能性あり)は、患者に対し「再発リスクが標準治療(手術療法)に比べて高い可能性がある」ことを十分に説明し(文書および口頭で)、患者の理解を得なければならない

(II) 先進医療Bの実施症例のうち、すでに5年間の追跡調査が終了している症例(当初に実施した症例)について、中間評価を行ってもらう

 
後者(II)の中間評価は、症例数が限られる(372症例のうち、2013年・14年頃に実施し、5年追跡が完了した一部の症例)ことから十分なエビデンスにはならないと考えられます(計画では「全体でエビデンスが構築できる」ように設計していると感がられる)。ただし、十分とは言えずとも、中間評価で「再発リスク等が高い可能性」が判明した場合には、評価会議での議論を経た上で、当該技術の患者申出療養としての実施がストップされることも考えられます。

また、患者申出療養の対象症例(目標300症例)については、定期的な報告(当初6か月は「3か月ごと」に、後は「6か月ごと」に)がなされることとなっており、そこで有害事象等が判明した場合にも、やはりストップとなる可能性もあります。

標準治療がある場合、患者の希望をどこまで踏まえて患者申出療養を認めるべきか

一方、早期がん治療については、標準治療(手術療法)がすでにあることから、「別に患者申出療養を認める必要があるのだろうか」という議論も行われました。

患者申出療養制度創設の際には、治療法のない患者の「藁にも縋りたい」との思いに応えるため、我が国で未承認の医薬品・医療機器等を用いた治療技術について、保険診療と保険外診療との併用を可能としてはどうか、との議論がありました。

制度上は、「治療法のないケース」への限定はなく、例えば▼先進医療の適格基準(年齢や合併症など)に合致しないケース▼先進医療を、身近な医療機関での実施を希望するケース(先進医療ごとに実施できる医療機関は限定される)▼今回のように「先進医療が終了し、保険収載を待っている」時点に当該技術の実施を希望するケース―なども、患者申出療養の対象となります。本技術は3つ目のケースに該当しますが、石川広己構成員(日本医師会常任理事)や松井健志構成員(国立循環病研究センター研究開発基盤センター医学倫理研究部長)らは、「当初の患者申出療養の趣旨・理念とかけはなれてきているように感じる」と指摘。

また山口構成員も、「肝臓がん治療では、腹腔内にがん細胞を残すことが好ましくなく、十分なエビデンスをもとにラジオ波熱焼灼療法が保険収載されている。しかし、皮下にある乳がんの治療にあたっては、焼灼と手術による摘出とで効果に大きな差はないと考えられる。今回の技術は、緊急性は低いと感じる」と、患者申出療養としての導入には少々疑問もあるとの考えを述べています。
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ただし、患者代表の立場で参画する天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会)は、「女性にとって、手術療法では乳房の形状が変化し、その心理的苦痛は甚大である。本技術は、整容面でのメリットが大きいと考えられる」と述べ、治療成績などの「本来の医学的側面」とは異なる部分(患者の心理面など)も考慮した患者申出療養での技術導入の重要性を指摘しています。

なお、患者申出療養への導入可否は、1つ1つの技術ごとに判断され、「整容面でのメリットがある他技術」が次々に患者申出療養と認められていくわけではない点に留意が必要です。患者申出療養は、まだ「若い」制度であり、今後も、事例を積み重ねながら、「制度がどうあるべきか」という議論が行われることになるでしょう。
 

規制改革推進会議の要望も踏まえ、患者申出療養の申請手続きを一部簡素化

また、2月7日の評価会議では、▼既に実施されている先進医療を、身近な医療機関で実施することを希望する患者に患者申出療養で実施する場合▼既に実施されている先進医療を、適格基準外の患者に患者申出療養で実施する場合(上記(1)のケース)▼既に実施され新規組入が終了した先進医療について、希望者に患者申出療養で実施する場合(今回のケース)―などでは、既存の「先進医療の臨床研究計画書」などを活用(新旧対照表を添付するなど)することで、申請手続きを簡素化する方針が固められました。規制改革推進会議からの「迅速に患者申出療養を利用できるようにすべき」という要請を踏まえたものです。近く、厚労省から関連通知等が発出されます。

 
 
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