全国の医療機関間で、患者の「薬剤情報」「手術情報」など共有できれば、救急はじめ診療現場で極めて有用―医療等情報利活用ワーキング
2020.3.26.(木)
全国の医療機関間において、患者の「薬剤情報」や「手術情報」「傷病名」などを共有することができれば、例えば救急医療や災害の現場、さらに通常診療においても、医療安全の確保や効果的・効率的な治療などが可能となり、医療の質が向上すると考えられる。あわせて情報把握の手間がカットでき、働き方改革にも資する―。
健康・医療・介護情報利活用検討会「医療等情報利活用ワーキンググループ」の初会合が3月26日に開催され、こういった議論を開始しました。
4月中を目途に一定の意見集約を行い、親組織である「健康・医療・介護情報利活用検討会」でさらに議論を詰め、今夏(2020年夏)に工程表を策定する予定です。
目次
電子カルテの標準化や患者情報共有システム(EHR)に向けた議論が本格化
電子カルテについては、仕様がベンダー(メーカー)によって区々であることから、例えば▼地域でICTを活用した連携を行おうとしても、ベンダーが異なるとデータ連結ができず、連携の障壁となっている▼異なるベンダーの電子カルテに切り替えたいが、従前のデータが移行できず、切り替えを躊躇してしまう(ベンダーによるクライアントの囲い込みが生じている)―などの問題点があると指摘されています。
このため、「国が最低限の標準仕様を定めるべき」との要望が日本医師会や日本病院団体協議会などから出されており(関連記事はこちらとこちら)、社会保障審議会・医療部会では永井良三部会長自らが「医療連携を推進できるよう、『電子カルテの標準仕様』を、国を挙げて制定せよ」と厚生労働省に指示しています(関連記事はこちら)。
これを受け、▼「電子カルテをはじめとする保健医療情報システムのあるべき姿」について省庁横断的な議論を内閣官房の検討会(標準的医療情報システムに関する検討会)で早々に固める▼その方向に進むために、「現在、どのような取り組みをすべきか」を厚生労働省の「医療等分野情報連携基盤検討会」で検討する―こととなっています。前者の「標準的医療情報システムに関する検討会」では、すでに昨年(2019年)11月に意見をまとめており、現在、後者の「医療等分野情報連携基盤検討会」を引き継ぐ、「健康・医療・介護情報利活用検討会」と、その下部組織である「医療等情報利活用ワーキンググループ」で議論が開始されたところです(関連記事はこちらとこちら)。
ワーキングでは、主に(1)標準的な医療情報システム(電子カルテの標準化)(2)「医療等情報を本人や全国の医療機関等において確認・利活用できる仕組み」(EHR)(3)電子処方箋の在り方―の3点を議題とします。
まず(1)の電子カルテの標準化に向けては、上述したように内閣官房の「標準的医療情報システムに関する検討会」が方向性について取りまとめを行っています。そこでは、標準化に向けて、▼医療機関間の医療情報共有やPHRなど「施設外での医療データ管理・流通」▼医療の実態評価や臨床研究等へのリアルワールドデータの活用▼医療の質・安全向上のためのシステムなど「医療現場の意思決定支援への活用」―といった点への対応が必要であること、一方、医療やICTの技術は常に進歩しており「統一された電子カルテや、画一化された製品」の設定は現実的ではないことをまず確認。ここから「最小限の標準的な仕様」を確立し、そこにベンダー等が、いわばオプションとして創意工夫した機能を搭載していく形がイメージできます。
その上で、▼「HL7 FHIR」(データがXMLまたはJASON形式で表現され、アプリケーション連携が非常にしやすい)の普及が一つの方向となる▼標準的なコードを拡大していく(検査・処方・病名等の必要な標準規格から実装してはどうか)▼セキュリティや個人情報保護に対応する仕組みの構築を構築する必要がある―といった大きな方向性を提示しました。
今後、ワーキングで、この方向性に沿って技術的な議論を行っていきます。当面は、4月中に「標準化の具体的な方向性」を固め、それを受けて親組織「健康・医療・介護情報利活用検討会」において工程表(何をいつまでに定め、いつから実行するのかのスケジュール表)を今夏(2020年夏)を目途に取りまとめることになります。
医療現場や患者は「薬剤情報」「手術情報」「アレルギー情報」などの共有に期待
このように「標準的な医療情報システム」(電子カルテの標準化)に関しては、「最小限の標準的な仕様」を固めていきますが、それは、(2)の「医療等情報を本人や全国の医療機関等において確認・利活用できる仕組み」(EHR)で求められる「共有すべき医療情報の項目」とも密接に関連します。EHRにおいては、あらゆる医療情報を共有できることが理想的と考えられますが、そのためには莫大なコスト(開発費、運用経費)がかかります。また、医療情報の中には「共有する必要性が低い項目」などもあり、「あらゆる医療情報の共有」は現実的ではありません。そこで、「コスト」「効果」「利便性」「ニーズ」などを総合的に勘案して、「共有すべき医療情報の項目」を絞り込んでいくことが重要となります。
この点、厚労省は▼医師▼歯科医師▼薬剤師▼患者―を対象に、「どういった診療場面等で、どういった医療情報の共有が望まれるのか」について調査を実施(2019年度)。そこからは、次のような項目が浮上しています。
◆救急医療現場で共有が望まれる医療情報(通院中の傷病や服薬の把握が困難な意識不明患者等で、救命が最優先事項であるケースなど)
【レセプトの情報】
▽薬剤情報(例えば救急時の手術や処置、治療等の際に、「抗凝固薬や抗血栓薬等の服用」「降圧剤の服用」などの情報が重要となる)
▽手術情報(例えば過去のステント術等の心疾患治療歴を把握することができれば、患者の基礎疾患が推測され、術中麻酔による血圧低下、心筋梗塞の発生リスクの上昇等を考慮することができる)
▽傷病名
【その他の情報】
▽処方・調剤された段階での薬剤情報(レセプトは1か月遅れであり、現状とは異なる可能性あり)
▽アレルギー情報(アナフィラキシーショックなどを防げる)
▽既往歴
◆外来や入院時などに共有が望まれる医療情報(紹介状なしで初めて受診・入院した患者の診療、あるいは初めて薬局にかかる患者への処方等のケースなど)
【レセプトの情報】
▽薬剤情報
▽かかりつけや過去に受診した医療機関名等の基本情報(例えば高齢者では過去の医療機関受診を覚えていないことなども多い)
▽手術情報(例えば心臓ペースメーカーや人工内耳等の手術歴があれば「MRI検査は禁忌」などの判断がつきやすい)
▽移植情報(薬剤選択において非常に重要となる)
▽傷病名
【その他の情報】
▽診療情報提供書(患者が持参していないことが多く、入手に大きな手間がかかる)
▽検体検査結果(例えば過去の検体検査結果と、自院での現在の検体検査結果と比較することで増悪の有無などを判断できる、また妊婦などでは基礎疾患の把握も可能となり医療安全にも資する)
▽感染症情報(例えば医療従事者の感染防止、院内感染防止などにも役立つ)
▽アレルギー情報
◆退院時に共有が望まれる医療情報(他医療機関を退院後、患者を受け入れるケースなど)
【レセプトの情報】
▽薬剤情報(治療の継続性の観点から)
▽退院時サマリ(傷病名、退院時処方、検査結果、画像結果等がコンパクトにまとまっており、短い時間で情報を把握できる)
▽画像情報(画像情報の互換性がないケースもある)
◆災害時に共有が望まれる医療情報(停電等による医療情報システムの不具合により、自医療機関の診療録が閲覧不能あるいは逸失したケース)
【レセプトの情報】
▽薬剤情報(例えば平常時に使用していたインスリンの種類、量、用法など)
【その他の情報】
▽処方・調剤された段階での薬剤情報(例えば透析患者では週単位で服用内容が変わることがあり、レセプト情報に加えた、リアルデータが有用である)
◆患者が共有を希望する医療情報(PHR)
▽薬剤情報
▽検体検査結果
救急搬送患者や高齢者からは、「現在(あるいは過去)にどういった治療を受けている(受けていた)のか、どのような薬を服用している(していたのか)」という情報を正確に聞き出すことは困難です。また、若人であっても記憶が曖昧な部分もあり、また「これは関係ない」と自己判断してしまうこともあります。この点、レセプトや診療録の情報を全国の医療機関間で共有することができれば、正確にそうした情報を把握し、安全かつ効果的な診療につながると期待できます。また、情報把握にかかる医療機関の手間を省くことができ、医師をはじめとする医療従事者の負担軽減にも大きく寄与することでしょう。
これらの項目は医療現場からあがってきている意見であることも手伝い、ワーキング構成員の見解とも合致するようです。3月26日のワーキングでは異論等は出ておらず、今後、こうした医療現場の声も踏まえて、「共有すべき医療情報の項目」の絞り込みを行い、さらに「どのような形で共有することが効果的かつ効率的なのか」などを検討していくことになるでしょう。
なお、将来の「医療・介護・健康情報の連携」を睨み、近藤則子構成員(老テク研究会事務局長)からは「介護情報についても共有を進めるべき」、田宮菜奈子構成員(筑波大学医学医療系教授)からは「家族の診療情報等との紐づけを検討すべき。また診療情報や介護情報と『死亡情報』との紐づけも検討すべき」といった意見が出ています。医療・介護連携やゲノム医療の推進などに向けて極めて重要な意見ですが、「次のステップに向けた検討テーマ」(まずは患者1人1人の医療情報の共有からスタート)と考えられます。
「医療情報システム安全管理ガイドライン」、クラウドサービス拡充など踏まえた改訂案
また3月23日のワーキングには、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン改定素案」が提示されました。
医療機関が保有するデータ(レセプトや診療録など)には、極めて機微性の高い個人情報が含まれるため、「医療機関等における電子的医療情報取扱いの責任者」は、このガイドラインを遵守することが求められます(同様に、システム事業者等は、総務省・経済産業省による別のガイドラインを遵守する必要がある)。また、オンライン診療におけるセキュリティ確保のベースともなり、今後、さらにその重要性が増していきます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
ガイドラインには、▼電子的な医療情報を扱う際の責任のあり方▼情報システムの基本的な安全管理(技術的、物理的、組織的、人的対策を規程)▼診療録等を電子化・外部保存する際の安全管理基準(電子保存の際に真正性・見読性・保存性を要求する)―などが定められていますが、昨今の技術革新等を踏まえたバージョンアップの必要性が高まっています。
そこで、厚労省は研究班を設置して、▼クラウドサービスに則した管理方法に基づく責任分界の設定が必要であること▼医療機関等の内部における不正な通信等のモニタリング(内部脅威監視)が推奨されること▼サイバーセキュリティ事故情報の報告体制を整備する必要があること▼複数のクラウドサービスの利用などの場合に、各利用サービスの内容等を踏まえ、必要に応じてネットワーク分離を図ること▼診療録等を外部保存するシステム等について、日本国内法が適用される旨を確認すること―などの見直し素案を固めました。
素案に対しては、「読み手が理解できるようQ&A等も整備すべき」などの注文がつきましたが概ね了承されています。厚労省は近く、改定案(素案からの細部調整がありうる)をパブリックコメントに付し、国民から広く意見を募る予定です。
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