2020年度診療報酬改定、「医師働き方改革」だけでなく「効率化」や「機能分化」なども重点課題ではないか―社保審・医療保険部会
2019.11.1.(金)
2020年度の次期診療報酬改定に向けて、厚生労働省は「医療従事者の負担を軽減し、医師等の働き方改革を推進」する視点を重点課題に据える考えを示している。しかし、2022年からいわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となることから、医療給付費が今後急速に増加することは確実で、医療保険制度の持続可能性確保が極めて重要になることから、「医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進」「効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上」という視点も重点課題とすべきではないか―。
10月31日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった議論が行われました。
2020年度診療報酬改定の基本方針策定論議は、今後も続けられます(12月初旬に取りまとめ予定)。
目次
2022年度から「団塊の世代が後期高齢者になり始める」点も考慮すべき
かつて中央社会保険医療協議会(中医協)を舞台に、診療報酬改定をめぐる汚職事件が生じました。その背景として「中医協の所掌範囲・権限があまりに大きくなり過ぎた」ことが指摘され、2006年度の診療報酬改定から、▼改定基本方針は社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する▼改定率は内閣が予算編成過程で決める▼基本方針と改定率を受け、中医協で改定内容を詰める―という役割分担が行われています。
医療保険部会では9月27日の前回会合から、基本方針策定に向けた議論を開始(医療部会でも議論が進んでいる、医療部会の記事はこちらとこちら)。委員の意見を踏まえ、10月31日の会合に厚生労働省保険局医療介護連携政策課の山下護課長から、2020年度改定で重視すべき4つの視点((1)医療従事者の負担を軽減し、医師等の働き方改革を推進する(2)患者・国民にとって身近であるとともに、安心・安全で質の高い医療を実現する(3)医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムを推進する(4)効率化・適正化を通じ制度の安定性・持続可能性を向上させる―)が提示されました。
このうち(1)の「医療従事者の負担を軽減し、医師等の働き方改革を推進する」視点について、山下医療介護連携政策課長は「2024年4月から、すべての勤務医に新たな時間外労働上限(原則960時間以下、特例的に1860時間以下とすることも厳格な要件の下で可能)が適用される」点を踏まえ、「医師の働き方改革は、『診療報酬のみ』で進めるものでなはく、地域医療構想の実現や医師偏在対策などと合わせて総合的に進めていくべきものである。そこでは、診療の仕方はもちろん、患者の医療へのかかり方を、国民全体で見つめ直していかなければならない」旨を強調。国民全体で医療を見直すきっかけとするために、この視点を【重点課題】に据える考えを示しました。
これに対し費用負担者代表の1人である佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「医師の働き方改革の重要性には疑うところがない」と前置きした上で、▼10月21日の社保審・医療部会で松原由美委員(早稲田大学人間科学学術院准教授)から『働き方改革は一般企業でも求められており、そこには経済的な補助などは行われない。医療機関にだけ経済的な補填が行うことの必要性を明確にしなければ、国民からの理解は得られない』との考えが示されたとおり、医療にだけ手当てを行うことの必要性を明確にすべきである▼他の視点よりも「医師の働き方改革が優先する」が重要であるとすることには強い違和感を覚える(他の視点も重要性に劣るところはない)―との考えを提示。
また同じく費用負担者代表である安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「勤務医への新たな時間外労働上限が2024年4月から適用されるが、それより前の2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、医療ニーズが急速に増加していく。医療保険制度の基盤が極めて脆くなっていくことを意味し、『医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進』『効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上』という視点こそ『待ったなし』なのではないか。優先度を考え直すべきではないか」と訴えました。
さらに安藤委員は、中医協での支払側の指摘と同様に、▼働き方改革は、地域医療構想などを進める中で医療機関が自ら実現することが基本だ。その中で「診療報酬で手当てすべき課題」を見極めていくべきであり、診療報酬上の手当てが先行することには強い違和感を覚える▼中医協では「労務管理やマネジメントコストを入院基本料等加算で手当てする」案が出ているが、それが医師の労働時間短縮にどうつながり、患者にどのように還元されるのかを明確に説明できないといけない―とも指摘しています。
一方、医療者代表の松原謙二委員(日本医師会副会長)はもちろん、石上千博委員(日本労働組合総連合会副事務局長)も「勤務医に限らず、病院全体の働き方改革が進むような方策を進めてほしい」と述べ、2020年度診療報酬改定に期待を寄せました。
また菅原琢磨委員(法政大学経済学部教授)から「効率化・合理化に関する視点で『急性期入院医療の見直し』などにも触れておく必要があるのではないか」などの、菊池馨実部会長代理(早稲田大学大学院法学研究科長)から「基本的視点において、『さまざまな困難を抱えた住民を医療がどう支えていくべきか』という視点も盛り込む時期に来ているのではないか」などの指摘が出されています。
医療保険部会では、12月初旬の取りまとめに向けて「2020年度診療報酬改定の基本方針」策定論議をさらに進めていきます。
2020年度の国保保険料(税)の賦課限度額、99万円に引き上げ
10月31日の医療保険部会では、「2020年度の国民健康保険の保険料(税)の賦課限度額」についても議論を行いました。
医療保険・介護保険などの社会保険では、▼応益負担(サービスを多く受けた人がより多く負担する)▼応能負担(経済的に余力のある人がより多く負担する)―を組み合わせて、保険料(税)や自己負担割合を決めています。このうち保険料(税)については、もっぱら「応能負担」の考えが採用され、「所得等の高い人が、より高額な保険料(税)を負担する」形となっています。ただし、青天井に保険料(税)が上がっていけば、高所得者の中には「私は医療等を自費で受けるので、保険料(税)は負担しません」と考える人が出てきてしまいます(社会保険制度の崩壊)。そこで、一定所得以上の人は「どれだけ所得が高くなっても保険料(税)額は同額とする」との【賦課限度額】の仕組みが設けられているのです。
国保については「【賦課限度額】見直しの必要があるか」を毎年度検討し、必要に応じて3-4万円程度の引き上げが行われてきています。2020年度においては、医療費等の増加を見込んで「3万円」(基礎賦課分2万円、介護納付金分1万円)引き上げ、保険料(税)の上限を「99万円」とする方針です。
賦課限度額の引き上げにより中間所得増の負担増を回避でき、「能力に応じた公平な負担」が確保できる見込みです。
現役世代の負担を考慮し、「後期高齢者医療の財源構成」見直しを検討すべきか
また10月31日の医療保険部会では、「後期高齢者医療制度の財源構成をどう考えるか」という視点に立った議論も行われました。
75歳以上の高齢者が加入する「後期高齢者医療」の財源構成は、概ね▼公費:50%▼現役世代からの支援金:40%▼高齢者自身の保険料:10%―となっています。高齢者の多くは所得が低く、「自ら負担する保険料だけでは医療費を賄えない」ためです。
高齢化の進行により医療費が増加しますが、この財源構成はそう大きくは変更されません。一方で、少子化により現役世代の人口は減少傾向に入っています。このため「1人当たりの負担」を見ると、次のような現象が生じてしまいます。
▼75歳以上の後期高齢者
→高齢者医療費が増加し、全体の負担は増加するが、高齢者数も増加するので「1人当たりの負担」で見るとそれほど増加しない(2008年度から2019年度にかけて1人当たり負担の増加率は10%程度)
▼現役世代
→高齢者医療費が増加し、全体の負担が増加するとともに、現役世代人口が減少するので「1人当たりの負担」は大きく増加する(同91%程度)
佐野委員は、こうした状況について「現役世代の1人当たり負担の増加度合いが大きすぎる。高齢者の負担割合(つまり上述の財源構成)を見直す必要があるのではないか」と指摘しています。この点、現役世代もいずれは高齢者になるわけで、「高齢者vs現役世代」という対立構造にはないことを留意した冷静な議論が求められます。
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