2018年度の社会保障給付費は121兆5408億円、対GDP比は22.16%―2018年度社会保障費用統計
2020.10.19.(月)
2018年度の社会保障給付費は過去最高の121兆5408億円で、前年度に比べて1兆3391億円・1.1%の増加となった。高齢化の進展を背景に、「介護」給付が前年度に比べて2.8%増加し、10兆3872億円となっている―。
国立社会保障・人口問題研究所が10月16日に公表した2018年度の「社会保障費用統計」から、こういった状況が明らかになりました(社人研のサイトはこちら)(前年度(2017年度)の記事はこちら、前々年度(2016年度)の記事はこちら)。
また施設整備費などを含めた「社会支出」は、2018年度に125兆4294億円で、対GDP比は22.68%となりましたが、米国や欧州大陸諸国より低く、英国より高い水準となっています。
介護給付費は前年度比2.8%増の10兆3872億円、2021年度介護報酬改定の行方は
社会保障費用統計は、年金や医療保険、介護保険、雇用保険、生活保護など社会保障制度に関する1年間の支出(社会保障費)を、▼OECD(経済協力開発機構)基準による「社会支出」▼ILO(国際労働機関)基準による「社会保障給付費」—の2通りで集計したものです。前者の「社会支出」(OECD基準)は、後者の「社会保障給付費」(ILO基準)に比べて、施設整備費など直接個人にわたらない支出も集計範囲に含めています。
まず、我が国で戦後間もなくから集計されている後者の「社会保障給付費」(ILO基準)を見てみましょう。
2017年度の社会保障給付費は121兆5408億円で、前年度に比べて1兆3391億円・1.1%の増加となりました。GDP(国内総生産)に対する社会保障給付費の割合は22.16%で、前年度に比べて0.21ポイント高まっています。2012年度から15年度までは低下を続け、2016年度には増加、2017年度に再び低下しましたが、2018年度には増加に転じています。
国民1人当たりの社会保障給付費は96万1200円で、前年度に比べて1万2600円・1.3%の増加となりました。また、1世帯当たりで見ると234万3800円で、前年度に比べて3万円・0.1%の微減となっています。
次に社会保障給付費を「部門」別に見てみると、年金給付が最も多く55兆2581億円(前年度比0.8%増)、次いで医療給付39兆7445億円(同0.8%増)、介護対策給付10兆3872億円(同2.8%増)となりました。社会保障給付費全体に占める割合(シェア)は、▼年金:45.5%(前年度に比べて0.1ポイント減)▼医療:32.7%(同0.1ポイント減)▼介護8.5%(同0.1ポイント増)—という状況です。高齢化の進展を背景に介護給付費の伸びが大きくなっています。
また社会保障給付費を「機能」別に見てみると、高齢者給付が最も多く57兆2766億円(前年度比1.3%増)で、給付費全体の47.1%(同0.1ポイント増)を占めています。次いで保健医療の38兆830億円(同0.9%増)が大きく、給付費の31.3%(同0.1ポイント減)を占めました。前年度に比べて「家族」給付(同5.1%増)、「障害」給付(4.1%増)が大きく増加しています。
高齢化の進展は「年金」や「介護」に係る費用の増加に結びつきます。ただし年金制度については、給付費の伸びを「支え手」(現役世代)の減少などに応じて調整するマクロ経済スライドの導入や、支給開始年齢の延伸などにより、一定程度、高齢化を吸収する仕組みが導入され、伸びも鈍化していることが確認できます。一方、介護保険制度では、こうした仕組みが導入されておらず、高齢者の増加に伴って給付費がそのまま増加していく格好となっています。現在、2021年度の介護報酬改定論議が進んでいますが、年末の予算編成において改定率をどの程度に設定するのか検討されていきます。新型コロナウイルス感染症対策で公費が大きく増加し、一方で保険料や税の収入が減少する中で「厳しい改定率」となる可能性もあります(関連記事はこちらとこちら)。
また、医療については、極めて高額な医薬品等の保険適用が相次いでおり(脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)、白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)の保険適用など)、やはり「給付の在り方」に関する議論がそう遠くない将来、本格的に行われると予想されます(関連記事はこちら)。
なお、社会保障財源を見てみると、前年度に比べて6.1%・8兆6788億円の減少となっています。財源のシェアを見ると、▼社会保険料:54.7%(前年度比4.6ポイント増)▼公費:38.0%(同2.7ポイント増)▼その他収入:7.3%(同7.3ポイント減)—となりました。「その他収入」の減少は、資産収入(公的年金制度の資産運用収入、株式投資など)が減少したことが主な原因です(前年度比68.6%減)。これが「安定財源」とは言えないことを再確認できます。
施設整備費なども加味した社会支出の対GDP比、米国より低く、英国より高い水準
次に、OECD基準に基づく「社会支出」を見てみましょう。先進諸国で使用されている指標で、国際比較を行う場合にはこちらが有用です。
冒頭で述べたとおり、社会支出は社会保障給付費よりも広い範囲をカバーしており、国民個々人への直接給付ではない「施設整備費」なども含まれています。2018年度には、前年度に比べて1兆2499億円・1.0%増加の125兆4294億円となりました。
国民1人当たりで見ると99万2000円(前年度に比べて1万1900円・1.2%増)、1世帯当たりで見ると241万8700円(同5万8000円・0.2%減)となっています。
社会支出を政策分野別に見ると、▼高齢:57兆6766億円(前年度比1.3%増)・全体に占めるシェア46.0%(同0.1ポイント増)▼保健:42兆1870億円(同0.7%増)・シェア33.6%(同0.1ポイント減)▼家族:9兆547億円(同4.7%増)・シェア7.2%(同0.2ポイント増)▼遺族:6兆5074億円(同0.8%減)・5.2%(同0.1ポイント減)―などという状況です。
またGDPに占める社会支出の割合は22.87%(前年度比0.19ポイント増)、国民所得(NI)に占める割合は31.03%(同0.05ポイント増)となりました。
我が国における社会支出の対GDP比(22.87%)は、英国(2017年度、21.07%)と近い水準ですが、▼フランス(2015年度32.06%)▼ドイツ(2017年度、27.75%)▼スウェーデン(2017年度、26.46%)—といった欧州の大陸諸国に徐々に近づいてきているように見えます。なお、米国は、いわゆるオバマケアが導入されたことにより、2017年度に24.88%となっており、我が国よりも高い水準となっています(民間の医療保険支出が社会支出に計上されるようになった)。
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