7月からオンライン資格確認等の集中支援、関連して「資格過誤レセの自動修正」を10月から実施―社保審・医療保険部会(1)
2021.6.25.(金)
オンライン資格確認等システムの準備が相当程度進んでいる。さらに7月から集中的な医療機関支援を行い、スケジュールどおり「遅くとも10月から」の本格運用を目指す―。
関連して7月からは、オンライン資格確認等システムを導入した医療機関(プレ運用参加医療機関)において、患者の同意を前提に「特定健診情報」を閲覧することが可能となり、効果的・効率的な診療・指導に活かすことが可能となる―。
6月25日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった報告が行われました。
なお、オンライン資格確認等システムの本格稼働に伴い、この10月(2021年10月)からレセプトオンライン請求においては、「患者の資格過誤」について審査支払機関での自動修正が行われることになります。医療機関では「返戻に基づく再請求」の手間が大きく省かれることになります。
目次
オンライン資格確認等システムの準備進む、7-9月に集中支援を行い本格運用へ
公的医療保険制度(健康保険制度)は、加入者(被保険者)が保険料を納めてそれをプールし、病気やケガなどの保険事故に遭遇した際に手厚い給付(年齢や所得に応じて医療費の7-9割を給付、さらに高額療養費制度などによる手厚い給付も行われる)が行われる仕組みです。
医療保険に加入していない人にはこうした給付が行われない(全額自己負担となる)ので、医療機関等の窓口で「患者がどの医療保険に加入しているのか」を被保険者証(保険証)で確認することが求められます(資格確認)。しかし、「A社に勤務していたサラリーマンが、退職後にも在職中の被保険者証(保険証)を返還せずに使用して診療を受ける」などの事例が少なからず生じています(1か月当たり30万―40万件)。
現状では、正確な資格確認は「医療機関がレセプト請求を行い、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会)で審査をする時点」でなされるため、こうした事態が生じてしまうのです。この場合、多くは「別の医療保険に加入する他者が分担して負担する」こととなっています(無関係者な者の医療費負担を押し付けられている格好)。
そこで、医療機関等を受診した時点で、窓口で迅速・簡易かつ正確に「当該患者が医療保険に適切に加入しているか」を確認できる【オンライン資格確認等システム】が導入されます。資格確認は例えば次のような流れで行われます。
▼患者が、健康保険被保険者証機能を持つ「マイナンバーカード」を医療機関等窓口のカードリーダーにかざす
↓
▼医療機関等のパソコン端末から、オンラインで社会保険診療報酬支払基金(支払基金)・国民健康保険中央会(国保中央会)のデータに「当該患者がどの医療保険(健康保険組合や国民健康保険など)に加入しているのか」を照会し、回答を得る
この点、当初は「2021年3月下旬からのオンライン資格確認等システムを本格導入する」予定でしたが、▼医療機関等の準備が当初予定通りに進んでいない(カードリーダーシステムの普及遅れ、医療機関等のシステム改修遅れ、世界的は半導体不足によるパソコン等調達の遅れなど)▼システムの根幹となるデータの精度に問題がある(個人番号の入力誤りや、データ様式の違い(例えば「-」の有無)など)―といった課題が明らかになり、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の山下護課長は「データ精度の向上などに取り組み、本格運用を『遅くとも10月までに開始する』こととする」とスケジュール変更を行いました(2021年3月26日の医療保険部会で正式報告)。
今般、医療機関等の準備状況やデータ精度向上に向けた取り組み状況(6月20日時点)について、例えば次のように山下医療介護連携政策課長が報告しています。
【医療機関等の準備状況】
▽カードリーダーの申し込み状況
▼全体:57.1%(約13万機関)→3月21日時点に比べて2万7000機関・12.2ポイント増
▼病院:77.6%(約6400機関)→同じく1400機関・17.2ポイント増
▼医科診療所:44.7%
▼歯科診療所:49.4%
▼薬局:81.6%(約4万9000局)→同じく9000局・15.1ポイント増
▽マイナンバーカードの健康保険被保険者証利用登録:10.4%(交付件数4224万件に対し440万3000件)→3月21日時点に比べて129万3000件・1.5ポイント増
また準備の整った医療機関等では、本格運用と同じ環境での「プレ運用」が始まっており、ここには全47都道府県で732施設(病院:85、医科診療所:225、歯科診療所:211、薬局:211)が参加しており、「資格確認・入力の手間が大幅に減少し、医療事務にとって欠かせない」という高い評価が得られています(ただし「マイナンバーカードを持参する患者」がまだ少ない、などの将来、解決すべき課題もある)。
【保険者におけるデータ精度向上】
▽登録した個人番号の誤り(保険者内での取り違えなど):0件→2月12日時点に比べて約3万5000件解消
▽不正確な被保険者番号(データ様式違いにより「●」が含まれる):0件→3月時点に比べて約3000件解消
▽過去の被保険者証情報の未登録(短期間の未加入し、保険証発行前に資格を失った場合など):約2万7000件→3月時点に比べて約3万6000件解消
また、保険者間の異動(転職や定年退職など)は常に生じており、各保険者と厚労省ではデータ精度の向上に向けた不断の取り組み(新規加入者の情報を、自動的かつ定期的に住民基本台帳ネットワークのデータを突合するなど)が継続されます。
3月時点と比べて、準備が相当程度進んでいることが分かりますが、医療機関等においては必ずしもICTに精通したスタッフが配置されているわけではないことから、山下医療介護連携政策課長は、厚労省が「システムベンダーとの契約に始まり、具体的にどのような準備を進めればよいか、どのようにシステムを運用すればよいかなどの相談を1つ1つ受け付け、それに対応する」取り組みを実施していることを紹介。こうした取り組みを行いながら、「プレ運用」参加医療機関の拡大に向けた対応を、この7-9月に集中して実施し、「遅くとも10月までに本格運用する」スケジュールを遵守する考えを強調しています。
当面は、カードリーダーを申し込んでいる「13万医療機関等」が確実にオンライン資格確認等システムに乗れるように支援していくことになるでしょう(並行して、カードリーダー申し込み等の促進策もとっていく)。
山下医療介護連携政策課長は、具体的な支援・対応として、▼セミナー開催・動画配信▼システムベンダーへの集中的・計画案導入の働きかけ▼より詳しい情報の周知(厚労省ホームページへの掲載など)—などが予定されていることもあわせて紹介しています。
プレ運用医療機関等では、7月から特定健診情報の閲覧可能に
関連して、プレ運用に参加する医療機関等では、オンライン資格確認等システムを活用して「患者の特定健診情報」の閲覧が可能となります。特定健診は40歳以上の者に対する、いわゆる「メタボ健診」で、その結果から「生活習慣病に罹患するリスク」を把握することが可能です。特定健診情報は各医療保険者が保有しており、オンライン資格確認等システムを活用して、医療機関等がこの情報を閲覧し(もちろん患者本人の同意が前提)、治療や指導に活かすことができます(7月から医療機関等で閲覧可能に)。その後、10月(2021年10月)からは、患者が自分自身の「特定健診情報」「薬剤情報」を閲覧することも可能になります(PHR)。
あわせて2022年夏からは、オンライン資格確認等システムを活用した「EHR」(全国の医療機関で、患者個々人の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認できる仕組み)も稼働する予定です。例えば、「意識不明の状態で救急搬送された患者」「認知症高齢者」などの治療を行う際、医療機関がEHR情報から「当該患者の過去の薬剤投与歴や手術歴」などを正確に確認することで、適切かつ安全な医療を、効果的・効率的・迅速に提供することが可能になる(例えば禁忌薬剤の回避など)と期待されます。6月25日の医療保険部会でも藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)から、こうした将来の活用も踏まえた期待の声が上がっています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
PHR・EHR、さらには電子処方箋のベースは、この「オンライン資格確認等システム」です。より多くの医療機関等が参加し、より多くのデータが蓄積され、活用されることが「医療の質向上」にとって非常に重要です。
オンライン請求における「資格過誤」、10月からは返戻せず、審査支払機関で自動修正
ところで、このオンライン資格確認等システムのベースとなる「被保険者の情報」(どの人が、過去にどの医療保険に何時から何時まで加入し、今はどの医療保険に加入しているのか)が高精度で整備されたことを踏まえ、この10月(2021年10月)からは「資格過誤については、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金・各都道府県の国民健康保険連合会)で自動修正する」仕組みが稼働します(9月診療分のレセプトから)。
例えば、Xさんが無効な保険証(退職前に使用していた保険証を退職時に、会社・保険者に返還しないケースがある)で医療機関等を受診した場合、現在は、医療機関で「無効である」と判断することはほぼ不可能です。このため、その「無効な保険証情報」をもとにレセプト請求を行いますが、無効である(当該医療保険に加入していない)ために、審査段階で「返戻」(差し戻し)となります。医療機関では、資格情報(どの医療保険に加入しているのか)を可能な限り調べて再請求を行いますが、現実問題として「有効な情報を調べ上げる」ことは極めて困難です(この場合、最終的には「無効」な保険者が立て替え請求するケースが多い)。
しかし、オンライン資格確認等システムのベースとなる「被保険者のデータベース」(どの人が、過去にどの医療保険に何時から何時まで加入し、今はどの医療保険に加入しているのか)が高精度に構築されてきたことから、審査支払機関では「『無効な保険証』で医療機関等を受診したXさんが、現在、本当はどの医療保険に加入しているか」を確認することが可能となったのです。
この仕組みを活用し、オンライン請求における「資格過誤」に関しては「審査支払機関で自動的に資格情報を修正して処理し、医療機関等に返戻は行わない」(資格過誤以外の返戻は残る)こととなります(審査支払機関で保険者情報を修正し、正しい医療保険者に請求を行うことになる)。9月診療分(10月10日請求分)のレセプトから、この仕組みが稼働されます。
審査支払機関から返戻されるレセプトの多くは「資格過誤」によるものであり、オンライン請求を行う医療機関では、この10月から大幅に事務負担が軽減されると見込まれます。
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