2016年9月、70.6%の介護施設・事業所で処遇改善加算Iを取得―介護事業経営調査委員会
2017.3.31.(金)
2016年9月時点で、現在の「介護職員処遇改善加算I」を届け出ている事業所は全体の70.6%となり、前年同月に比べて4.1ポイント増加。また処遇改善加算を届け出た事業所全体では、介護職員について、前年に比べて平均9530円の給与増を行っている―。
このような調査結果が、30日に開かれた社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護事業経営調査委員会」に報告されました(委員会のサイトはこちらとこちらとこちら)(前年の調査の概要はこちら)。
処遇改善加算の取得は全体の9割、加算Iを7割が取得
介護職員の確保・定着に向けて厚生労働省は、2009年10月から「介護職員の給与を1万5000円程度引き上げる」ことを条件とする補助金「介護職員処遇改善交付金」を設置。さらに2012年度の介護報酬・診療報酬同時改定で、交付金を引き継ぐ形で「介護職員処遇改善加算」(以下、処遇改善加算)が創設されました。
2015年度の介護報酬改定では、より手厚い「加算I」を新設。さらに給与を1万2000円程度、引き上げることが必要となっています(加算を算定していない状況から都合2万7000円程度の給与増が必要)。なお、2017年度の臨時介護報酬改定で、さらに1万円程度の給与増などを条件とする新加算Iが新設され、2017年4月からスタートすることはメディ・ウォッチでもお伝えしています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
厚労省は処遇改善加算の取得や、実際の処遇改善の状況を調べており、今般、2016年度の「介護従事者処遇状況等調査」を実施し、30日の委員会に報告しました。
それによると、昨年(2016年)9月時点で処遇改善加算を取得している介護施設・事業所は全体の90.0%となり、前年よりも1.5ポイント増加しました。調査対象は▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼介護老人保健施設▼介護療養型医療施設▼訪問介護▼通所介護▼認知症対応型共同生活介護▼居宅介護支援―に限られ、かつ抽出調査である点には留意が必要ですが、レセプトに基づく調査によると、処遇改善加算の取得率は2015年9月に87.5%、16年9月に88.7%となっており、厚労省老健局老人保健課の担当者は「9割程度が処遇改善加算を算定しており、2015年から16年にかけて増加していることは間違いない」と説明しています。
加算の種類別に見ると、▼加算I:70.6%(前年の調査に比べて4.1ポイント増)▼加算II:16.4%(同2.0ポイント減)▼加算III:1.3%(同0.2ポイント増)▼加算IV:1.5%(同0.1ポイント増)―となっており、加算Iの取得が進んでいることが分かります。
そもそもの処遇改善加算創設の趣旨に照らせば、加算Iの取得が好ましいと考えられますが、加算Iを取得しない理由をみると▼キャリアパス要件I(賃金体系の整備)が困難:69.8%(同9.8ポイント増)▼キャリアパス要件II(研修実施)が困難:21.3%(同0.3ポイント増)▼職場環境等要件(賃金引上げ以外の改善)が困難:6.3%(同5.2ポイント減)―となっています。多くの事業所で加算I取得を進める中で、「賃金体系の整備などが難しい(加算Iへのハードルが高い)介護施設・事業所」の割合が高まっている状況です。
さらに詳しくみると、キャリアパス要件Iでは「任用要件の定めが困難」66.9%、「賃金体系の定めが困難」45.1%、キャリアパス要件IIでは「研修実施と介護職員の能力評価が困難」60.4%などがハードルになっていることも分かりました。今後、所得している介護施設・事業所の事例(どのような任用要件・賃金体系を定めたのかなど)やひな形などを、より積極的に情報提供していく必要があるかもしれません。
事務作業が煩雑で加算を取得しない事業所、依然として1割存在
結果を逆に見ると、「1割の介護施設・事業所では処遇改善加算を取得していない」ことになります。なぜ加算を取得しない・できないのかを見ると、▼事務作業が煩雑(44.3%)▼利用者負担の発生(37.8%)▼対象の制約のため困難(30.4%)―などが多くなっています。
このうち「事務作業が煩雑」という点について、藤井賢一郎委員(上智大学准教授)は「私がサポートしている零細の介護事業所でも加算Iを取得した。代表理事は非常に多忙だが、加算取得のための事務作業は大変ではなかったと言っている。本当に事業作業が煩雑なのか、単に放置しているだけなのか、より詳しく調査する必要があるのではないか」と指摘しています。なお、詳細な統計表からは「加算の取得率と事業所の規模には一定の関係があるが(小規模ほど取得率が低い)、事務手続きが煩雑なために取得しない割合と事業所の規模には関係がない」ことが分かっており、藤井委員の指摘どおり「小規模なために事務の人手を割けない」ことは理由にならなそうです。
厚労省も事務手続きの簡素化を進めていますが、必要な手続きまで不用とすれば「不適切な取得」が生じる可能性もあります。とくに加算IVは極めて要件が緩く、これすら取得しない施設・事業所が1割もあることを考えると「さらなる加算取得促進の必要があるのか」という点についても検証が必要かもしれません(関連記事はこちらとこちら)。
また「対象の制約」とは、例えば同じ施設で看護職員と介護職員が勤務している場合、「看護職の給与は据え置くが、介護職の給与は引き上げる」ことが可能かという問題です。介護職員が多い介護療養型医療施設では、この点を理由としている割合が高くなっています(56.1%)。
改定の中間年でも、施設・事業所の努力で9530円の給与増に
では、介護施設・事業所では、どの程度の給与引き上げを行っているのでしょう。
処遇改善加算を取得している介護施設・事業所全体では、2015年9月から16年9月にかけて9530円の給与増(月給・常勤)となっています。この間に介護報酬改定などは行われていないことから「事業所の努力」と言えるでしょう。ちなみにやはり改定の中間年であった2012年9月から13年9月にかけての給与増は7180円だったので、当時より2000円以上の給与改善が行われている格好です。
また給与増の方法をみると、69.7%が「定期昇給」を実施しており、「手当の引き上げや新設」が29.9%、「給与表の改定による賃金引上げ」(ベアアップ)が16.4%、「賞与などの引き上げや新設」が14.8%となっています。「定期昇給」は前年調査では60.0%にとどまっており大幅な増加となりましたが、前年調査は加算I新設直後に行われたため、介護施設・事業所側も様子見として「手当の引き上げ」などで対応するケースが多かったものと思われます。なお、同じ改定の中間年である2013年の調査ではベアアップは12.7%にとどまっており、処遇改善加算の本来の趣旨を理解する介護施設・事業所が増加していることが分かります。給与の増加額9530円を分解すると、▼基本給:2790円増▼手当:2560円増▼一時金:4190円増―となります。
一方、常勤・月給の職員について、職種別に給与増の状況を見ると、次のようになっています。
▼介護職員:9530円増(2015年9月の28万250円→16年9月の28万9780円)
▼看護職員:6230円(36万4870円→37万1100円)
▼生活相談員・支援相談員:9420円(30万6520円→31万5940円)
▼PT・OT・ST・機能訓練指導員:8950円(33万4940円→34万3890円)
▼ケアマネジャー:7890円(33万4550円→34万2440円)
▼事務職員:5700円(30万1650円→30万7350円)
▼管理栄養士・栄養士:7780円(30万1340円→30万9120円)
▼調理員:2890円(24万9700円→25万2590円)
ところで、委員会ではかねてから「介護職員の給与は本当に低水準なのか。同一施設・事業所での勤続年数などを考慮すべきではないか」という疑問の声も出ています。この点について藤井委員は、「医師や看護師では、院長や部長になり現場を離れても医師・看護師として給与調査の対象となるが、介護職員では、管理職となり現場を離れると給与調査の対象とならない(高所得者が調査対象から抜けてしまう)ので、その点を検証する必要がある。また東京都の調査では、『勤続20年程度で施設長クラスになれば年収700万円超、勤続14年程度で課長クラスになれば年収500万円超』というデータもある」と指摘し、今後の処遇改善加算を考える上での重要論点を提示しています。
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