後期高齢者、歯科受診により急性期疾患(肺炎、脳卒中、尿路感染症)での入院発生割合を抑制—都健康長寿医療センター
2023.1.6.(金)
歯科を受診した後期高齢者では、歯科受診をしていない後期高齢者に比べて、急性期疾患(肺炎、脳卒中、尿路感染症)による入院の発生割合が抑制された—。
東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が1月5日に「後期高齢者の歯科受診は全身疾患による入院発生の予防効果あり」を公表し、こうした点を明らかにしました(研究所のサイトはこちら)。
介護、在宅領域に加え、急性期疾患の予防でも「口腔衛生」が重要
今年度(2022年度)から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。高齢者の急増は「要介護者、要支援者の増加」につながるため、「介護予防」などが非常に重要となってきます。
そうした中で研究所では「食べ物を飲み込む際の、喉からの情報によって甲状腺につながる副交感神経が活性化する反射が起こり、健康にとって重要なホルモンであるサイロキシンとカルシトニンの分泌が高まる」など、「口から栄養を摂取する」ことの重要性を科学的に明らかにしています(関連記事はこちら)。
口から栄養を摂取するためには「健康な歯を保持している」ことが重要となり、例えば介護分野、在宅医療分野では「口腔衛生・リハビリ・栄養摂取の一体的推進」が最重要施策の1つに位置づけられています(関連記事はこちらとこちら)
また、周術期においても「口腔衛生」が重要であることが従前から認識され、診療報酬(医科、歯科)でも評価がなされてきています(例えば医科の【周術期口腔機能管理後手術加算】:200点など)。
さらに今般、研究所では「後期高齢者の歯科受診が、肺炎や脳卒中発作、尿路感染症といった全身疾患による急性期の入院発生に対して予防効果がある」ことを明らかにしました。
研究所の「福祉と生活ケア研究チーム」(医療と介護システム研究)・石崎達郎研究部長の研究グループは、北海道在住の後期高齢者約75万人分のレセプト(2016年9月-17年2月に医療機関を受診した者)のうち、「在宅医療を利用していた者」「要介護認定があった者」などを除いた約43万の中から、▼歯科受診があった者▼歯科受診のなかった者—をそれぞれ14万8032名抽出し、2017年3月-19年3月の2年間における「急性期疾患による入院」発生割合などを解析。そこから、次のような状況が明らかになりました。
▽「歯科受診がなかった者」に比べ、「歯科受診があった者」では肺炎による入院発生割合が低かった(歯科受診ありでは4.9%、歯科受診なしでは5.8%)
▽「歯科受診がなかった者」に比べ、「歯科受診があった者」では脳卒中発作による入院発生割合が低かった(歯科受診ありでは2.1%、歯科受診なしでは2.2%)
▽「歯科受診がなかった者」に比べ、「歯科受診があった者」では尿路感染症による入院発生割合が低かった(歯科受診ありでは2.2%、歯科受診なしでは2.5%)
「歯科受診がなかった場合」に比べると、「歯科受診があった場合」には、急性期の入院発生割合が、▼肺炎で15%▼脳卒中発作で5%▼尿路感染症で13%—抑制されたと言えます。
高齢者において「歯科受診」(=口腔衛生の管理)が「急性期入院医療の抑制」にもつながることがより明確になったと言えます。研究所では、今後さらに「要介護高齢者で、同様の効果が得られるのか」「どのような診療行為(検査、処置、治療等)が急性期疾患の発症抑制と関係しているのか」にも研究対象を広げていく考えを明らかにしています。
【関連記事】
認知症の原因疾患を鑑別し、治療法選択・その効果測定を補助する「PET検査」の保険適用に強い期待—都健康長寿医療センター
食べ物を飲み込む際の「喉の刺激」によりサイロキシン・カルシトニン分泌が活性化され、心身の健康が高まる—都健康長寿医療センター
口腔状態に問題ある高齢者は要介護や死亡リスクが2倍超、地域で「オーラルフレイル改善」の取り組み強化を—都健康長寿医療センター
コロナ禍で「要介護1・2高齢者等を介護する家族」の介護負担が増し、メンタルヘルス不調を来す—都健康長寿医療センター
DHAやEPA、ARAを十分に摂取することで「認知機能を維持できる」可能性—長寿医療研究センター
「ゆっくりとした歩行」「軽い家事活動」などの低強度身体活動も、脳機能の維持に有用—長寿医療研究センター
治療抵抗性の前立腺がん、新治療法として「RNA分解酵素を標的とする薬剤」に期待—都健康長寿医療センター
男女ともビタミンC摂取不足で筋肉量・身体能力が低下するが、適切な摂取で回復可能—都健康長寿医療センター
自治体と研究機関が協働し「地域住民の健康水準アップ」を目指すことが重要—都健康長寿医療センター
日本人特有の「レビー小体型認知症の原因遺伝子」を解明、治療法・予防法開発に繋がると期待—長寿医療研究センター
日本人高齢者、寿命の延伸に伴い身体機能だけでなく「認知機能も向上」—長寿医療研究センター
フレイル予防・改善のため「運動する」「頭を使う」「社会参加する」など多様な日常行動の実施を—都健康長寿医療センター
「要介護度が低い=家族介護負担が小さい」わけではない、家族介護者の負担・ストレスに留意を—都健康長寿医療センター
奥歯を失うと、脳の老化が進む—長寿医療研究センター
介護予防のために身体活動・多様な食品摂取・社会交流の「組み合わせ」が重要—都健康長寿医療センター
高齢男性の「コロナ禍での社会的孤立」が大幅増、コロナ禍で孤立した者は孤独感・コロナへの恐怖感がとくに強い—都健康長寿医療センター
中等度以上の認知症患者は「退院直後の再入院」リスク高い、入院時・前から再入院予防策を—都健康長寿医療センター
AI(人工知能)用いて「顔写真で認知症患者を鑑別できる」可能性—都健康長寿医療センター
認知症高齢者が新型コロナに罹患した場合の感染対策・ケアのマニュアルを作成—都健康長寿医療センター
地域高齢者の「社会との繋がり」は段階的に弱くなる、交流減少や町内会活動不参加は危険信号―都健康長寿医療センター
新型コロナ感染防止策をとって「通いの場」を開催し、地域高齢者の心身の健康確保を―長寿医療研究センター
居住形態でなく、社会的ネットワークの低さが身体機能低下や抑うつ等のリスク高める―都健康長寿医療センター
孤立と閉じこもり傾向の重複で、高齢者の死亡率は2倍超に上昇―健康長寿医療センター
新型コロナの影響で高齢者の身体活動は3割減、ウォーキングや屋内での運動実施が重要―長寿医療研究センター