特養ホーム待機者は30万人いるが、特養の増設を続けるべきか—GHC湯原が分析
2017.5.4.(木)
厚生労働省が3月27日に公表した「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」により、特別養護老人ホーム(以下、特養)の入所待機者数が約30-34万5000人いることが報じられました。特養が足りないという情報が流れれば、自分自身、また自分の家族のことを考えて「特養設置を増やすべきだ」と世論が動いてしまうことが予測されます。
果たして、待機者の分だけ特養を作ることが社会的には必要なのでしょうか?
現在、特養に入れない待機者は訪問系介護サービス、通所系介護サービスを利用しながら日々生活しています。特養ができるということは、待機者で現在訪問系、通所系を利用している人のニーズがなくなることを意味しています。老年人口の伸びは2020年以降鈍化します(図1)。都会を除くと老年人口は2030年以降に減少する地域も多く、特養を1つ作ることで他介護サービスに与える影響が大きくなります。
また、総人口に占める老年人口割合が高まることで家族介護力が弱まり、施設系サービスへの需要が高まることも考えられますが、施設系は投資コストが他サービスと比較して高い為、介護費はさらに増加することになります。
特養はこれまで利益率が高い介護サービスに位置付けられていましたが、近年利益率は他の介護サービスと同等程度まで低下しています(平成22年12.0%→平成25年7.5%→平成27年2.5%)。理由は大きく3つあります。(1)介護料収入の減少(2)補助金収入の減少(3)人件費の増加―です。
こうした点に鑑みると、「特養が必要だ」と訴えられ土地まで用意されても、現時点では開設を戸惑ってしまう事業者も多いのではないかでしょうか。特に都会においては介護人材の確保が難しく、特養を開設したにもかかわらず全床オープンにしていない施設も見られます。
老年人口の低下が2030年からと早期に始まる地域においては、総利用者数の低下を補うために、利用高齢者の門戸を広げることが必要となり、結果として地域全体の介護費用が想定以上に多くなってしまうこと、それでも利用者を集められない特養については施設投資費用を回収することができないことも考えられます。
現在、医療の世界では「高額な診療報酬が設定されている7対1入院料算定病床を少なくする」ための政策誘導が行われています(関連記事はこちら)。
作ってしまってから減らすことは投資コストの回収という面では難しく、本来であれば必要量を設置することが望ましいと言えます。特養についての政策では、世論の影響を受け、7対1入院料算定病床と同じように設置者が後から苦労する方向性にならないよう見守る必要があります。介護保険サービス提供者においては、地域ニーズと政策動向両方を30年スパンで考えていくことが求められるでしょう。
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