全都道府県・全市区町村で子ども医療費に何らかの助成、中には22歳まで助成する自治体も―厚労省
2018.7.9.(月)
子どもの医療費に対して、すべての都道府県・市区町村で独自の助成が行われており、都道府県では「就学前まで」、市区町村では「15歳の年度末まで」の助成をしている自治体が多い。また一部負担をゼロとしている自治体は、都道府県では9県と少数派だが、市区町村では6割超と多数派になっている―。
厚生労働省が7月6日に公表した、2017年度の「乳幼児等に係る医療費の援助についての調査」結果からこういった状況が明らかになりました(厚労省のサイトはこちら(概要)とこちら(都道府県別の状況)とこちら(市区町村別の状況))。
2018年度からは、乳幼児等の医療費について自治体が独自の助成を行った場合でも国民健康保険への国費減額措置が廃止されており、2018年度以降、さらに医療費への援助が拡大する可能性があります。
都道府県では「就学前まで」、市区町村では「15歳年末まで」の医療費助成が多い
我が国の医療保険制度においては、「応益負担」「コスト意識喚起」などのために、医療保険の利用者(つまり患者)が医療費の一部を負担することになっています(窓口負担や一部負担と呼ばれる)。現在、年齢や所得に応じて一部負担の割合は1-3割に設定されています。
ところで、少子化対策の一環として、地方が独自に乳幼児等の医療費を助成するケースがあります。厚労省が今般行った調査によると、2017年度には47都道府県すべてにおいて外来(通院)・入院のいずれにおいても、何らかの医療費助成が行われていることが分かりました。
もっとも都道府県によって助成内容は異なっています。対象年齢については、多くは「就学前まで」ですが、中には「18歳の年度末まで」というところもあります。また、自己負担を一切求めない(医療費を全額補助する)という自治体もありますが、多くは一定の自己負担を求めています。さらに、所得制限をかけずに医療費を助成している自治体もあれば、高額所得世帯には助成を行わない自治体もあります。
【対象年齢】
▼「4歳未満」としている自治体
・通院では富山県、石川県、熊本県(多子世帯では就学前まで拡大)の3県
・入院では熊本県(同)の1県
▼「5歳未満」としている自治体
・通院では山梨県の1県
・入院はなし
▼「就学前まで」としている自治体
・通院では北海道、青森県、岩手県、宮城県、埼玉県、神奈川県、長野県、岐阜県、愛知県、滋賀県、大阪府、和歌山県、島根県、岡山県、広島県、山口県、香川県、愛媛県、高知県、佐賀県、長崎県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の25道府県
・入院では青森県、宮城県、埼玉県、富山県、石川県、山梨県、岐阜県、滋賀県、大阪府、和歌山県、島根県、広島県、山口県、香川県、愛媛県、高知県、佐賀県、長崎県、宮崎県、鹿児島県の20府県
▼「9歳の年度末まで」としている自治体
・通院では山形県、千葉県、福井県の3県
・入院では福井県の1県、
▼「12歳の年度末まで」としている自治体
・通院では茨城県、栃木県、三重県、福岡県の4県
・入院では北海道、岩手県、栃木県、三重県、岡山県、福岡県の6道県
▼「15歳の年度末まで」としている自治体
・通院では秋田県、群馬県、東京都、静岡県、京都府、兵庫県、奈良県、徳島県の8都府県
・入院では秋田県、山形県、茨城県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、長野県、静岡県、愛知県、京都府、兵庫県、奈良県、徳島県、大分県、沖縄県の16都府県
▼「18歳の年度末まで」としている自治体
・通院では福島県(就学前と小学校4年生から18歳年度末の児童)、鳥取県の2県
・入院では福島県(同)、鳥取県の2県
【所得制限あり】
・通院では北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、福島県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、富山県、石川県、静岡県、三重県、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、高知県、福岡県、熊本県、宮崎県、鹿児島県の29都道府県で何らかの所得制限を課している
・入院では北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、福島県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、富山県、石川県、静岡県、三重県、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、高知県、福岡県、熊本県、鹿児島県の28都道府県で何らかの所得制限を課している(宮崎県では通院のみ所得制限あり)
【一部負担金あり】
北海道、青森県、岩手県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、富山県、石川県、福井県、長野県、静岡県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の37都道府県では何らかの一部負担を課している(全額助成は、宮城県、群馬県、山梨県、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県、和歌山県、香川県の9県のみ)
より高額な医療費が発生しやすい入院において、手厚い助成が行われる傾向があるようです。なお、新潟県では「交付金」としており、対象年齢や所得制限、一部負担金に関する規定が設けられていません(交付金の規模は「9歳の年度末まで」相当となっている)。
また市区町村別に見てもすべての自治体で医療費助成が行われています。中学校卒業に相当する「15歳の年度末まで」医療費助成する自治体が多く、通院では1022自治体(全体の58.7%)で、入院では1131自治体(同65.0%)で実施。一部には大学卒業に相当する「22歳の年度末まで」医療費助成を行っている自治体もありました(北海道南富良野町)。
また所得制限については、84%・1463自治体で「課していない」状況で、一部負担については、61.4%・1069自治体で「課していない」状況です。
9つの県、61.4%の市区町村で自己負担を「ゼロ」としているが、、
ところで、自治体が独自に医療費の助成を行う場合、国民健康保険の国庫負担金が減額されていました。これは「助成等で自己負担割合が下がると、医療費の増加度合いが大きくなる(長瀬効果)。自治体の独自判断による医療費増を、日本全国で負担することはできない」との考え方によるものです。
しかし、「医療費助成に対し国庫負担金の減額という、いわばペナルティを課すことは少子化対策に反する」との自治体の強い要望を受け、2018年4月からこの減額措置は配置されました。今後、より手厚い助成が行われる可能性があります。また2018年4月から国民健康保険の財政責任主体が都道府県に移管されており、自治体独自の医療費助成も「都道府県単位に集約されていく」可能性があります(手厚い助成に集約される可能性が高い)。
もっとも、自己負担をゼロにすることは、「医療費は国民全体で負担している」という意識を弱め、極端に言えば「不適切な受診」を招く可能性もあります(乳幼児の場合、この可能性は小さいとの反論もある)。子ども医療費の助成について議論した社会保障審議会・医療保険部会等では「全国一律の助成(つまり乳幼児等に対する自己負担割合の軽減)が本来の姿である」「自己負担ゼロは好ましくない」との強い指摘も出ており、今後の調査結果次第では何らかの制度見直し論議に結びつくことも考えられます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
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