在宅・慢性期領域、感染症対応、医師からのタスク・シフトに必要な特定行為研修修了者数の合計+αを養成―看護師特定行為・研修部会
2022.12.6.(火)
在宅・慢性期領域で活用する特定行為研修修了者の育成を強化していく—。
第8次医療計画において「特定行為研修の修了者」数の目標値を記載することが各都道府県に求められるが、▼在宅・慢性期領域▼感染症対応▼医師からのタスク・シフト—のそれぞれに必要な特定行為研修修了者の数を推計し、その合計+αとする—。
また特定行為研修修了者の育成数・就業者数を定期的に確認し、目標達成に向けた進捗管理を行う—。
12月5日に開催された医道審議会・保健師助産師看護師分科会の「看護師特定行為・研修部会」(以下、部会)で、こういった方針が固められました。
在宅・慢性期領域で活用する特定行為研修修了者の育成を強化せよ
一定の研修(特定行為に係る研修、以下、特定行為研修)を受けた看護師は、医師・歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38行為(21分野)の診療の補助(特定行為)を実施することが可能になります(関連記事はこちらとこちら)。
今年度(2022年度)から、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり始め、2025年度には全員が後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが急増していきます。とりわけ在宅療養や介護施設など「医師の関与が手薄になりがちな場面」において、一定の医行為を行える特定行為研修修了看護師が活躍することが期待されています。2015年から養成が始まり、2025年度に「特定行為研修修了看護師を10万人程度養成する」との目標が立てられています。
さらに、特定行為研修修了者には、▼新型コロナウイルス感染症対応の重要な担い手▼医師働き方改革の中で、医師からの重要なタスク・シフティング先—としての役割も期待されています。
このように重要な役割を果たす特定行為研修について、▼養成施設(指定研修機関)は338施設(本年(2022年)8月時点)▼研修修了者数が養成数は6324名(同9月時点)—となり、一定の成果が見られています。
しかし、▼当初の目的である「在宅・慢性期領域」の研修を推進する必要がある▼さらなる養成の強化を進める必要がある(2025年に10万人目標だが、実際は6000人超にとどまっている)—という課題も浮上してきており、12月5日の部会でそれぞれの課題への対応案が議論されました。
まず前者の「在宅・慢性期領域」の研修推進に関しては、調査から浮上した「在宅・慢性期領域のハードル」(訪問看護の人員規模等が小さく研修に出せない、研修内容がニーズにマッチしていない、十分に周知されていない、研修機関が近隣にない)を解消するため、次の4つの対応方針案が示されました。
(1)「訪問看護の人員規模等が小さく研修に出せない」という課題に対応するため、2024年度からの第8次医療計画に「特定行為研修を修了した看護師の確保」などを位置づけるとともに(関連記事はこちら)、地域医療介護総合確保基金の活用など一層の支援策を推進する
(2)「研修内容がニーズにマッチしていない」という課題に対応するため、特定行為研修の内容等、妥当性についての調査を実施し検討していく(在宅・慢性期領域に限らず全ての特定行為研修内容を調査対象とする)
(3)「十分に周知されていない」という課題に対応するため、特定行為研修制度を推進・活用したことによる「医師向け」の好事例集を作成し、医師への周知に活用する
(4)「研修機関が近隣にない」という課題に対応するため、▼地域の実情を踏まえた施設整備を検討する(例えば、都道府県が「特に在宅・慢性期領域に就業する看護師が受講しやすい指定研修機関」を定めるなど)▼「実習施設となる協力施設」について、指定研修機関がホームページで公表する(通知改正)—
このうち(1)については、在宅・慢性期領域の研修へスタッフを送り出す「訪問看護ステーション」の規模別収支調査から「スタッフ数(常勤)が3.5-4.3人、延べ訪問回数が200回程度のところに損益分岐点がある。概ね常勤5人以下の小規模ステーションでは、研修に送り出すコスト面で大きな課題がある」ことが浮上してきています。また、スタッフを送り出した「穴」を埋めるための代替スタッフ確保が何より重要であるとの指摘が中尾一久構成員(全日本病院協会常任理事)らか出ています。医療計画への目標記載(研修施設だけでなく、修了者の目標値も新たに記載する)や基金活用により、総合的な支援が行われることに期待が集まります。
なお、東憲太郎構成員(全国老人保健施設協会会長)らから「訪問看護ステーションだけでなく、介護保険施設(特養、老健、介護医療院)などでの課題調査も行ってほしい」との要望が出ています。今後の検討課題となるでしょう。
また(3)のPRに関して仙賀裕構成員(日本病院会副会長)は「手順書を作成する医師へのPRはもちろん、看護師全般、さらに国民・患者に向けて、特定行為研修制度を分かりやすく丁寧にPRをしていくことが重要である。特定行為研修修了者が当たり前のように配置され、医師が不在の折、多忙の折などに特定行為を実施するというゴールに向けて努力していくべき」との考えを強調し、多くの構成員がこの考えに賛同しています。
上記(1)から(4)の方向は了承され、今後、詳細を厚労省で詰めていくことになります。
第8次医療計画に、在宅等・タスクシフト等の特定行為研修修了者の目標値定めよ
後者の「特定行為研修修了者の更なる育成」に関しては、上述のように各都道府県で、2024年度からの第8次医療計画に「特定行為研修修了者数」に関する目標値などを記載する方向が固まっています(関連記事はこちら)。これまでは「指定研修施設」の整備目標を記載することが求められていましたが、今後、これに加えて「研修修了者の目標値」を設定することになります。
この「目標値」設定に向けて、厚労省は次のような考え方を提示しています。
(a)可能な限り今後の受講意向調査等のニーズを踏まえ、都道府県ごとの足下数をベースに地域の実情に応じた数値目標を定める。その際、「在宅医療における質の高い効果的なケアの実施の推進」「新興感染症等の感染拡大時に高度急性期に対応できる知識と技術を有する看護師の確保」「看護の質の向上と医師の時間外労働の上限規制に資するタスク・シフト/シェアの推進」の視点も加味する
(b)特定行為研修修了者の就業者数の目標値については、次の合計値+地域の実情を踏まえたプラスαとする
▼在宅・慢性期領域(例えば、看護師数が常勤換算5名以上の訪問看護ステーションに、特定行為研修修了者を各1名以上の配置する、療養病棟や介護施設等に1名以上配置するなど)
▼新興感染症等の有事対応(例えば、ICUに診療報酬の施設基準「外」の特定行為研修修了者を2名以上配置するなど)
▼医療機関における看護の質の向上とタスク・シフト/シェア(例えば、高度急性期病棟に各勤務帯1名以上かつ毎日配置のために必要な人数 外科病棟に日勤帯に1名以上かつ毎日配置のために必要な人数など)
(c)特定行為研修修了者の就業者数の目標進捗について定期的に評価する(「業務従事者届」による数値などで管理する)とともに、PDCAサイクルを回す
こうした方向にも異論は出ておらず、第8次医療計画の作成指針などの中にこうした考え方が盛り込まれます。2024年度以降、各都道府県で「医療現場のニーズ・意向を踏まえて、特定行為研修修了者の養成目標数を設定する」→「目標達成に向けた施策(研修施設の整備、研修受講者・研修受講医療機関への補助など)を企画し、展開する」→「定期的に進捗管理を行い、不具合を修正する」という取り組みを繰り返すことが求められます。
この点、重要となるのが「医療現場のニーズ・意向を踏まえる」という点です。8月22日に開催された前回会合では「特定行為研修を修了したが『知識・スキルを活用できていない』事態も少なくない。今後、「どのような場で、どのようなスキルを持った特定行為研修修了看護師が何人程度必要なのか」というニーズをしっかり把握し、そのニーズを充足できるように特定行為研修修了看護師を養成していく必要がある」旨が確認されています。この点を失念すれば、「養成はしたものの活躍の場がない」という悲しい事態を招いてしまいます。
なお、この点に関連して、構成員の中からは「特定行為を実際に行っている修了者の数」を把握すべきとの声も出ています。今後の重要検討テーマの1つとなるでしょう。
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