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GemMed塾 看護モニタリング

国は「高齢者医療の大きな制限、縮小」を目指しているのか?高齢の救急患者にも適切な医療提供を行うべき—全自病・小熊会長

2023.6.16.(金)

少子化対策は非常に重要だが「医療費を縮減して財源を捻出する」ことは好ましくない—。

「高齢の救急患者は地域包括ケア病棟で受ければ良い」との指摘が出ているが、重篤な状態の患者も少なくなく、こうした乱暴な指摘を受け入れることはできない—。

全国自治体病院協議会が6月15日に記者会見を開き、小熊豊会長(砂川市立病院名誉院長)らはこうした考えを強調しました。また、「ICUの管理当直」について、今後の中央社会保険医療協議会論議を見守る考えも全自病幹部から明らかにされています。

6月15日の全国自治体病院協議会・定時総会に臨んだ小熊豊会長(砂川市立病院名誉院長)

国は「高齢者医療の大きな制限、縮小」を目指しているのか

岸田文雄内閣では「異次元の少子化対策」実施を打ち出し、その財源については「一部を医療・介護などの社会保障費改革で捻出し、一部を社会保険料へ上乗せして確保する」案が浮上しています。

前者の「医療・介護などの社会保障費改革」とは、つまり「診療報酬・介護報酬のマイナス改定」などに代表される「医療費・介護費の削減」のことです。

この点について小熊会長は、「少子化対策は極めて重要であり、実行しなければならない」と強調したうえで、「今でも医療費・介護費財源に苦労している。そうした中で、医療・介護から少子化対策へ財源を移譲していくことは正しいのだろうか?」と疑問を投げかけました。

全自病も加盟する日本病院団体協議会では、▼エネルギー価格、物価、賃金などの高騰で医療を取り巻く環境は非常に厳しい▼少子化対策財源を「社会保障費の付け替え」で捻出することは、病や障害に苦しむ者・高齢者などの財源を切り崩してしまう▼国民の生命・健康を守る責務を果たすために、医療・介護分野でも多分野と同じく賃上げなどの取り組みを進める必要がある—とし、政府に次の2点を強く求めており、小熊会長も改めて強調しています(関連記事はこちら)。

(1)国民に不可欠な医療・介護を確保するため「骨太方針」(経済財政運営と改革の基本方針)に「2024年度の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬トリプル改定での物価高騰・賃上げへの対応」を明記し、必要な財源を確保する

(2)適切な財源のもと、すべての国民へ良質かつ効果的な医療・介護を提供する体制確立のために必要な診療報酬改定を実施する



他方、2024年度の診療報酬改定論議が中央社会保険医療協議会で進んでいますが、そこでは「高齢者の救急患者をどの病棟で受けるか」という論点が浮上しています。

5月17日に開催された中医協総会では、支払側委員から、▼軽症・中等症の高齢者に関する救急搬送が増加し、高次の救急医療提供体制を圧迫している▼急性期病棟ではリハビリ力・介護力が弱く、高齢者の入院医療提供の場として必ずしも相応しいものではない—とし、「高齢の救急患者については、介護力・リハビリ力の強い地域包括ケア病棟や医療対応を強化した医療ショートなどで対応していくことを中心に考えてはどうか」との声が出ています。あわせて、「要介護高齢者等の急性期入院」についても、同様に「介護力・リハビリ力の強い地域包括ケア病棟や医療対応を強化した医療ショートなどで対応すべき」との指摘も出ています。

こうした考えに対して小熊会長は、「高齢者であっても、当然『特殊な傷病の治療に精通した医師の下で治療を受けなければならない』重篤なケースも出てくる。『高齢だから、3次救急ではなく、地域包括ケア病棟で良い』などの制限かけることはあってはならないと考える。受ける側の病院・病棟でも『対応したことのない状態、診たことのない傷病』には対応に苦慮するであろう。もちろん、軽症であることが判明した際、状態が安定してきた後などには、相応の病院・病棟に転院・転棟することが必要となることは述べるまでもない」と強調。あわせて、日頃から「介護施設などが医療機関等と密接に連携し、極めて軽症のうちから対応できる体制」構築の重要性を小熊会長は強調しています(関連記事はこちらこちら)。

なお、こうした動きを眺めると「政府は、高齢者への医療提供を大きく制限・縮小していく方向を目指しているのではないか」とも考えられます。識者の中には「国は『若者や国の負担を減らすために年寄りは早く死ね』と言わんばかりである」と指摘する方もおられます。小熊会長をはじめとする全自病幹部も、こうした動きに対し強い懸念を抱いています。

6月15日の全国自治体病院協議会定例記者会見に臨んだ執行部。向かって右から田中一成副会長(静岡県立病院機構理事長)、松本昌美副会長(奈良県・南和広域医療企業団南奈良総合医療センター院長)、竹中賢治副会長(熊本県・天草市病院事業管理者)、小熊豊会長(砂川市立病院名誉院長)、望月泉副会長(岩手県立中央病院 名誉院長・岩手県八幡平市 病院事業管理者)、末永裕之参与(愛知県・小牧市病院事業管理者)



ところで、6月14日の中医協では「医師の働き方改革に対する診療報酬サポート」を議論し、その中で「ICU等における宿日直許可」という論点が浮上しました。診療側委員から「「医師が常時勤務することが求められるユニット(ICUなど)については、『医師の勤務実態』を踏まえて、『診療報酬上の施設基準』(常時ユニット内で勤務することなど)や『宿日直許可基準』の見直し・整理を行っていく必要がある」と提案し、厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長も「検討の余地がある」旨の考えを示しました。ICUなどのユニットの中にも「常時の医師配置が必ずしも必要ではなく、宿日直許可を得た医師で対応可能なもの(急変時のわずかな処置など)」があるやもしれず、そうした実態が見られたユニットでは「医師の常時配置」という施設基準を見直し、あわせて「宿日直許可を得やすい」仕組みを整備することなどが考えられます。

この点について、小熊会長と望月泉副会長(岩手県立中央病院名誉院長・岩手県八幡平市 病院事業管理者)は、「ICUについて管理当直体制を敷き、適切に宿日直許可を得ている病院もある」ことを紹介し、今後の中医協論議に期待を寄せました。

中医協では、支払側委員から「管理当直は怪しからん」旨の声が一部に出ています。しかし、ICU入室患者だからといって「24時間、一時も休まずに処置などが行われている」わけでもなく、大きな処置や手術を行う場合には「ICUを離れてオペ室に移る」ケースが多くなるでしょう。このため「管理当直医師を常時配置し、急変時などにオンコールで対応することに問題があるのだろうか」との考えもあります。中医協では、こうした実態を踏まえて「施設基準見直し」を行うべきか否かなどが議論される見込みです。

病院に患者は戻っておらず、看護職員不足も継続しており、2023年度以降の経営は厳しい

また、定時総会では自治体立の優良病院表彰も行われ、次の病院が対象となりました。

【総務大臣表彰】
▽大崎市民病院(宮城県):500s床
▽新小山市民病院(栃木県):300床
▽小田原市立病院(神奈川県):417床
▽長野市民病院(長野県):400床
▽加古川中央市民病院(兵庫県):600床
▽日野病院(鳥取県):99床

【全自病・全自病開設者協の会長表彰】
▽国保旭中央病院(千葉県):989床
▽神奈川県立循環器呼吸器病センター(神奈川県):239床
▽静岡県立総合病院(静岡県):718床
▽公立穴水総合病院(石川県):100床
▽福井県立病院(福井県):759床
▽京都中部総合医療センター(京都府):464床
▽光市立大和総合病院(山口県):243床

表彰対象となるには「5か年以上、経常黒字である」など、経営状況が良好な病院であることが求められます。この点、小熊会長や竹中賢治副会長(熊本県・天草市病院事業管理者)は「コロナ関連の診療報酬特例・補助金の先行きが不透明であるが、一般患者数などは戻っていない。また看護職員の退職なども増え、病床をフル稼働させることも難しい状況である」とし、2023年度以降の自治体病院経営は非常に厳しくなることを心配しています(関連記事はこちら)。



公立病院には、2022年度・23年度に「公立病院経営強化プラン」策定が求められており、中規模病院において綿密な経営強化に向けたプラン作成が強く求められていると言えます。Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、こうした経営強化プランを策定する公立病院を支援するサービスメニューも準備しています。

GHCが「先行して新公立病院改革プラン改訂を行った病院」(市立輪島病院:石川県輪島市)を支援したところ、「入院単価の向上」「戦略的な病床機能強化の推進」などが実現されています。「経営強化」「機能強化」を先取りして実現している格好です。

ガイドラインでは「外部アドバイザーの活用も有効である」と明示していますが、コンサルティング会社も玉石混交で「紋切り型の一律の改革プランしかつくれない」ところも少なくありません。この点、GHCでは「膨大なデータとノウハウ」「医療政策に関する正確かつ最新の知識」をベースに「真に地域で求められる公立病院となるための経営強化プラン」策定が可能です。

●GHCのサービス詳細はこちら

従前より「地域単位での医療提供体制見直し」に着目してコンサルティングを行っているGHCアソシエイトマネジャーの岩瀬英一郎は「従来通りの考えにとどまらず、より緻密な分析を行い、戦略をもった検討をベースとして『地域に必要とされる公立病院の姿』を個々の病院の実情に合わせて検討する必要がある」と強調しています。



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