HER2陽性の「胆道がん」に対する「トラスツズマブ デルクステカン」(エンハーツ点滴静注用)の有効性を確認—国がん
2024.11.28.(木)
乳がんや肺がん、胃がんなどへの効能効果が認められている「トラスツズマブ デルクステカン」(販売名:エンハーツ点滴静注用100mg)は「HER2発現の胆道がん」に対しても有効であると考えられる—。
本剤投与に伴って生じる有害事象は対応可能なもの(貧血、好中球減少、白血球減少など)が多いが、「間質性肺炎」に注意が必要である—。
国立がん研究センターが11月20日に、こうした研究成果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。
予後の良くない「胆道がん」、治療法の選択肢が広がることに期待
胆道がん(肝内胆管がん、胆のうがん、肝外胆管がん、十二指腸乳頭部がん)は、我が国における年間罹患数が約2万2000人、年間死亡数が約1万8000人と予後の悪い難治性がんです。治療法は、▼切除可能な場合は手術療法▼切除困難な場合、切除後に再発した場合は薬物療法—が通常選択されます。薬物療法としては、1次化学療法として「ゲムシタビンとシスプラチンに免疫チェックポイント阻害薬やS-1(テガフール、ギメラシル、 オテラシルカリウムを配合した抗がん剤)の組み合わせ」が標準的な治療とされていますが、治療選択肢は限られており、さらに有効な治療法の開発が求められています。
そうした中で、▼胆道がん患者でもHER2陽性が見られる▼HER2に対する抗体薬物複合体薬剤「トラスツズマブ デルクステカン」(販売名:エンハーツ点滴静注用100mg)は、乳がん・肺がん・胃がんに効能効果が認められているが、他がん種でも有効性も明らかとなってきている—点に着目し、国がんの研究チームでは「HER2陽性の切除不能または再発の胆道がんに対するトラスツズマブ デルクステカン投与」の有効性・安全性に関する研究(医師主導治験)を実施しました。
HER2(human epithelial growth factor receptor type 2)は細胞膜に存在するタンパク質で、何らかの理由でHER2タンパク質の過剰発現やHER2遺伝子の増幅が起こると、細胞の増殖が制御できなくなり「がん化」に結びつくと考えられています。乳がん、胃がんなど複数のがんでHER2タンパクの過剰発現が確認され、HER2タンパク質を標的とした複数の薬剤(「トラスツズマブ デルクステカン」もその1つ)が開発され、がん治療の有力な標的分子と考えられています。胆道がんでは、1-2割程度がHER2 陽性(HER2タンパク質の過剰発現・HER2遺伝子の増幅が見られる状態)です。
研究では、「HER2発現胆道がんスクリーニング研究で『HER2陽性および低発現』(IHCおよびISHでHER2の発現)が確認された、ゲムシタビンを含む治療に不応・不耐の切除不能または再発胆道がん」に対し、体重1kgあたり5.4mgの「トラスツズマブ デルクステカン」を3週毎に投与。32名(HER2陽性24名、HER2低発現8名)が本研究として治療を受け、次のような結果が得られました(有効性の評価対象はHER2陽性の22名(胆のうがん:11名、肝外胆管がん:6名、肝内胆管がん:3名、乳頭部がん:2名))。
【有効性】
▽主要評価項目である「奏効割合」(治療効果が得られて一定以上腫瘍が縮小した患者割合)は36.4%(22名中8名、完全奏功(CR:complete response)が2名、部分奏効(PR:partial response)が2名)で、事前に設定した閾値15%を上回った
▽全適格患者(22名)における、画像中央判定による標的病変の径和のベースラインからの最大縮小/増大割合のwaterfall plotは下図のとおり
▽病勢制御割合(あるがん治療をした患者において、がんの消滅・縮小・腫瘍の大きさが変化していないことまで確認できた症例の割合)は81.8%
▽無増悪生存期間(登録日から疾患が悪化せずに患者が生存している期間)の中央値は4.4か月
▽全生存期間(試験の登録日から患者さんが生存している期間)の中央値は7.1か月
なお、HER2低発現の患者8名のうち1名にも奏効が認められ、上記の陽性例ほどではないものの「一定の有効性」が期待できる結果が得られました。
【安全性】
▽治療関連のグレード3(重度)以上の有害事象発現割合は81.3%(治療対象全32名のうち26名)
→主なものは▼貧血(53.1%)▼好中球減少(31.3%)▼白血球減少(31.3%)—であった
▽8名(25.0%)に間質性肺炎が発現し、▼グレード1(軽症):3名▼グレード2(中等症):1名▼グレード3(重症):2名▼グレード5(死亡):2名—であった
こうした結果を踏まえ、研究チームでは▼トラスツズマブ デルクステカンはHER2発現胆道がんに対し有効である▼有害事象は対応可能なものが多かったが、「間質性肺炎」に注意が必要である—と結論づけています。
今後、さらなる研究が進み「トラスツズマブ デルクステカンの胆道がんへの適応拡大」など、胆道がんの治療選択肢拡大につながることに期待が集まります(米国では、前治療歴があり代替の治療手段のない切除不能または転移性のHER2陽性(IHC3+)固形がんに係る一部変更承認を取得済)。
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